オスを喰った後だろうか、腹は大きいから産卵はまだのようだ。初雪前、雪囲い板にとまっていた。めったに逃げることをしないので、猫に見つかれば瞬時に喰われるさだめ。
仔猫三匹が助けられてから、そのまま母猫と子猫は姿を消した。
飼い主は「どごに行ったこってやら、いっそ姿見せなくなってそぅ・・」としきりに心配していた。
飼い主に助けを求めて仔猫を救い出したけれど、これから冬を迎えるにあたって、母猫はある決断をしたのだろうと私は推測した。
子殺しの決行・・心配する農事の師をよそに、わが妄想は鈴木牧之の北越雪譜の語り調子で猟奇的世界に入り込む。
そうして二日後だったか三日後だったか、ウチの庭を単独で歩いている母猫を見た。
私が見ているのに気づかず、ウチの開けたままの玄関に入ろうとした。
私はそれを許さない。
小さく音を立てて、ここに猫が好きでない人間がいるぞと存在を示した。
暫時にらみ合いがあってから、キャツはゆっくり去って行くのであった。
飼い主に私は用があったので、出向いて「帰ってきたんですね、猫・・ウチの庭を歩いてましたよ」と言えば、夫婦で「そうかね」と喜び、奥さんはわざわざ外に出てウチに来ようとした。
すでに横切っていなくなったと伝えたのだけれど、心配事が消えた嬉しさを隠せないといった様子。
そうして次の日だったか、何かのついでにまた猫の話が出たが、仔猫も無事に帰りキャットフードを前と同様に食べていると、師は嬉しそう。
母猫は一緒に食べることを決してせずに、仔猫達が食べ終わってから独りで食べるという。
私の推理は妄想だったということになったので、口に出したりはしない。
姿を消した期間はどこに仔猫達を隠していたのか、何があったのか、なぜだったのか、話題になることはなかった。