鳥瞰ニュース

空にいるような軽い気分で・・・

原始力発電所(その5)

2011年04月28日 02時26分28秒 | 詩・文芸・作品
この作品は今回で終る。物語の骨組みに作者の想いやあこがれを入れて部分的に肉付けした感じだけで、この物語は終ってしまった。後のことや細部の肉付けは読者の想像力にゆだねられている。この作品は警鐘をならしたくて書いたというものではなく、思いつきが自然に予言的内容となったのだろう。書きあげてから作者自身『我ながら恐ろしい』と想ったかも知れない。

大分前に書かれたものだが、今の福島第一原発の予断を許さない状況に重ね合わせてしまうところがあって不気味だ。私は宮崎駿の《風の谷のナウシカ》を再読し始めた。森さんの《原始力発電所》も恋や情愛や哀しみをいれてシナリオを書いたら、すばらしいアニメができるだろうなぁと想ったりするんである。

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 原始力発電所
       森 哲弥

 11・川魚漁師            
研究は別方向からもすすめられた。最大八六〇ボルトの電気鰻の起電力を二〇〇〇ボルト台まであげられないか。その取り組みにとって奥アマゾン切っての川魚漁師トッポピのこの地域の魚に対する卓越した知識と、その漁法、調理法、加工法、繁殖、養殖と魔術と見紛うばかりの技術にまじかに接することが出来たのは幸運であった。トッポピの脳内に体系的な生物学的知識はない。しかしそこには何千年来蓄積されてきた川魚漁師としての知恵が貯えられている。繁殖等の生物学的手技もあざやかなものである。
ジョージ儼哲は電気鰻に他の魚体から摘出した電気柱を移植して電荷を増やし起電力を高める実験に成功したが。トッポピに冷笑を浴びせられた。「そんなことをしたら旦那、魚は喜んて電気を出しませんぜ」トッポピのとった方法は魚卵を秘密の薬草の搾り汁に漬けるというものだった。その卵から育った電気鰻の起電力は二〇〇〇ボルトに達したのである。
トッポピはその薬草の群生地を容易にジョージ儼哲に明かさなかった。彼はなにかに怯えていた。「ひい祖父さんに叱られる」彼はそういった。川魚漁師は自然を変えることは許されない。掟を破ればいずれ自分に災難が降り掛かる。ジョージ儼哲はそれはアマゾンの川魚漁師に限ったことではないと思った。だがもう人類は舵を切ってしまった。早晩大鉄槌で一撃を食らうだろう。ただそれまでの時間生きていなければならない。ジョージ儼哲はトッポピを説得して秘密の薬草の群生地を教えてもらった。             
                     
 12.原子力から原始力へ      
ジョージ儼哲はこの高度に起電力を高めた発電魚を使っての発電および蓄電方法を全世界に普及させた。集中的な発電システムではないので大規模インフラは必要ない。大型水槽と付帯の蓄電ユニットがあれば十分だ。個別型、独立型発電所なのだ。一般家庭は個々の発電所と契約し専用容器に「電気液」を充填してもらえばいい。LPガスの要領で。電気鰻は遺伝子操作で全世界で棲息可能となった。しかし劣化防止のために、ときどきはアマゾンの野性の血を入れなければならない。
電気鰻の供給はアマゾンの川魚漁師トッポピが引き受けているが、「出し渋る」とすこぶる評判が悪い。「なんとかなりませんかね」ジョージ儼哲の所へ苦情が行く。トッポピはアマゾンの生態系を守れる範囲でしか出荷しないことを彼はしっている。ジョージ儼哲は言う。
「みなさん電気の使いすぎではありませんか。原子力発電所の時代は大爆発でおわりましたいまは自然が便りの原始力発電所の時代です」
                     
 エピローグ           
ウクライナの吟遊詩人が持っていた手帳の詩にあった《空飛ぶ卵》。数百年前、惨状から逃れた人々が乗っていたという。あるいはそうかもしれない。その子孫にあたる人々が今もどこかで生きているかも知れない。
また、こうも考えられないだろうか。太古、現生人類の黎明期、ある地域で人類の文明が著しく発展し、ついに《ドラゴンの心臓》を持つにいたった。そして或る日・・・
この時《空飛ぶ卵》に乗った子孫としてならジョージ儼哲も当てはまるかもしれない。いや彼のみでなくすべての人々にそれは言えるだろう。すべての人が何処かの、または何時の時代かの「悍ましき地層」と関わりがあるのではないかということが。           
                     
                     (おわり)
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コメント (2)
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