■ オウム真理教による一連の事件から既に10年以上の年月が流れた。
この本の著者の伊東乾さんと、地下鉄サリン事件の実行犯の一人とは東大の同級生。実行犯は大学院で素粒子理論を専攻していた。博士課程に進学した直後に「出家」したという。そんな「優秀な科学者」がなぜ荒唐無稽な教団に入り、あのような事件を起こしたのか・・・。
裁判では決して明らかにならない心の深層に潜む「何か」。
著者は学生時代を振り返り、勾留中の同級生と接見を重ねてその「何か」を思索する。同級生と著者を分けたものはなんなのか。ほとんど偶然のような小さな分岐点・・・。
実行犯は中目黒駅で地下鉄日比谷線の先頭車両に乗り込む。新聞紙に包んだサリン入りのナイロン袋を足元にそっと置く。恵比寿駅に停車する直前にビニール傘の先端を袋に突き刺す・・・。
著者は中目黒から地下鉄に乗るところから本書をスタートさせている、十年前、同級生がとった行動をトレースするように。
『さよなら、サイレント・ネイビー 地下鉄に乗った同級生』伊東乾/集英社
第4回開高健ノンフィクション賞受賞作