■ しばらくA(建築)モードを続けましたのですぐにB(本)モードには切り替りません。ということで今回はこの本について。
この子ども向けの絵本は建築家や作家らにより「家」について書かれたもので、シリーズ化されています。既に益子義弘さん、妹島和世さん、みかんぐみなどの建築家達がこのテーマで絵本を書いています。
子ども向けということで伊東さんは平易な文章で代表的なプロジェクトについて書いています。この絵本では「中野本町の家(ホワイトU)」「せんだいメディアテーク」巻貝のような形をした「リラクゼーション・パーク・イン・トーレヴィエハ」福岡の「ぐりんぐりん」台中のオペラハウスと同じ考え方で設計されたコンペ案「ゲント市文化フォーラム」などがとり上げられています。
伊東さんは建築理念を、そしてそれを具現化するための方法論を、きちんと説明してくれる建築家です。一方、安藤さんはおそらく直感的に建築の最終的な形がイメージできて、それを美的な感性を頼りに具現化している建築家だと思います。だから安藤さんは方法論をあまり語りません。
話を絵本に戻します。「せんだいメディアテーク」には「チューブの家」というタイトルが付けられています。その書き出しは**この家には大きな木の幹のような柱が13本も立っていました。**となっています。
「せんだい」のコンペの初期のイメージスケッチは繰り返しあちこちに掲載されていますからよく知られていますが、そこには海草のような柱というメモが書かれています。
ゆらゆらとして存在感の希薄な海草のような柱から物としての圧倒的な存在感が感じられる木の幹のような柱という、チューブと呼ばれる鋼管トラス構造の柱の捉え方の変化。これは伊東さんの建築観の変化を端的に示しています。
以前も書きましたが、透明で存在感の希薄な建築など出来ない・・・。「せんだい」で鉄と格闘する溶接工達の姿を目の当たりにして伊東さんはそう気が付いたのです。そのことは伊東さん自身が書いています。
なんだかすっかりAモードですね。で、伊東さんはチューブを樹に喩えるようになりました。絵本では**各階の床はの間にかけ渡されています。中にいる人は森の中の大きな木の上に住んでいるみたいです。**と書いています。「せんだい」のガラスのスクリーンのファサード、あれはもはや「水槽」のイメージではないのです。「有機的な樹間」に「抽象的なフラットスラブ」を架け渡した構造(伊東さん自身) あるいは キューブをチューブが貫いた構造(長谷川堯) せんだいメディアテークの構造はこのように捉えることができる、というわけなんですね。
「せんだい」直後の作品、「まつもと市民芸術館」の外壁はコンペの段階では「透明」でしたが(建築展では透明な外壁のパースが展示されていました)、途中で壁としてきちんと存在感のある、あわあわなパネル(ガラスを象嵌したGRCパネル)に変更されています。これも伊東さんの建築観の変化の反映、そう考えてよさそうです。
「幾何学的な建築、抽象的な建築から有機的な建築、自然に近い建築へ」
建築展の会場外のショップで購入したこの絵本を読んで、伊東さんの建築理論の復習をしました。
**さあ、道から未知の家への冒険にでかけよう。**絵本の帯にはそう書かれています。これは伊東さん自身の決意表明のようにも思えます。