■ しばらく前から読んでいる『のぼうの城』はいよいよ後半、俄然面白くなってきた。が、注文しておいた武澤秀一さんの『空海 塔のコスモロジー』春秋社が届いたので、ちょっと寄り道。こちらを一気に読了した。
同じ著者の『マンダラの謎を解く』講談社現代新書や『法隆寺の謎を解く』ちくま新書と同様、「!」な謎解き。
先日取り上げた中公新書は学術的にオーソライズされた内容のものが多い、と思う。もちろんそれはそれで興味深いのだが、「!」な内容となると物足りなくも無い。その点、「謎を解く」という明快なスタンスで書かれた武澤さんの著書は読み物としても面白い。
武澤さんはローマのパンテオン(内部に空間をはらんでいる)とインドのサーンチーの塔(内部に空間を持たない)を内と外の反転、虚と実の反転とトポロジカルな捉え方をしている。
このあたりの見方や伽藍配置の変遷から塔の意味、位置付けの変化を読み解くあたりはやはり建築家の眼だろう。
図版を豊富に示しながらの実証的な論考、大変興味深く読んだ。
**それにもまして大きな懸念があった。半球体という裸形の幾何学が日本の風景のなかに露出することへの違和感である。中国で拒否された「卵」が日本で受け入れられるとは、とうてい思われない。インドの塔をもってきても日本の風景になじまなければ、そしてそこでつちかわれた感性になじまなければ、結局のところ根づかない。日本人の感性を考えると、大きな「卵」が露わになるのは、中国における以上に違和感をもたれる恐れがある・・・。(中略)
そこで編み出されたのが、すでになじんでいる伝統的な屋根を塔全体にかぶせ、さらには巨大な「卵」に直接取り付けて「卵」は一部だけ見せるという、大胆な折衷的デザインであった。**
インドのサーンチーから大塔(だいとう 表紙の高野山創建大塔復元立面図参照)へのデザインの転換についての考察。これを空海のデザインセンスと指摘する著者。このあたりが「!」なのだ。