透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

本の魅力

2010-12-01 | A 読書日記



■ 今年、2010年は電子書籍元年と言われる。 紙の本と電子書籍をめぐる議論が盛んだ。『本は、これから』岩波新書も電子書籍の時代を迎えて紙の本がどのように変貌するのかを論じた一冊。37人の論考が収録されている。「本好き」の私には必読書だろうと先日買い求めた。

本書に収録されている内田樹(たつる)氏の「活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?」と題する論考を興味深く読んだ。

**自分が全体のどの部分を読んでいるかを鳥瞰的に絶えず点検することは読書する場合に必須の作業**と内田氏は指摘している。確かに本を読むときは、時々本の小口を見て半分くらい読み進んだとか残りは4分の1だな、というように確認する。このような把握がしにくい電子書籍は紙の本に劣るということだ。この点はアナログ時計とデジタル時計の違いにも通じるか。

氏は更に**「読み始めてから読み終わるまでの全行程を上空から鳥瞰している仮想的視座」からスキャンする力がなければ、そもそも読書を享受するということは不可能**とまで書いている(43頁)。

**紙の本では頁をめくるごとに、「読みつつある私」と「読み終えた私」の距離が縮まり、(中略)最後の一頁の最後の一行を読み終えた瞬間に、ちょうど山の両側からトンネルを掘り進んだ工夫たちが暗黒の一点で出会って、そこに一気に新鮮な空気が流れ込むように、「読みつつある私」は「読み終えた私」と出会う。読書と言うのは、そのような力動的なプロセスなのである。**と指摘し、**電子書籍ではこの小刻みな接近感を読者にもたらすことができない。**と続けている(45頁)。氏の視点によれば紙の本が圧倒的に優位なのだ。

数日前、『子どもの絵は何を語るか』について「先日、書店で本をさがしているとき、この本が私を呼んでいるような気がした。即、手にとって、レジへ直行した。時々このようなことがある。このようにして入手した本はなぜか面白い。」と書いたが、氏も同様のことに触れ、本の送り手が敬意と愛情を込めている本には固有のオーラがある、と書いている。本とは「宿命的な出会い」が必要だが、電子書籍ではそれができないとも。

内田氏の説得力のある論考はこの本の中ではピカ一だった。