『ことばと思考』今井むつみ/岩波新書
■「サピア・ウォーフの仮説」については以前も取り上げた。これは言語が世界の見え方を規定する、認識の仕方を規定するという仮説だが、本の帯の「異なる言語の話し手は世界の見え方が違う?!」 から分かるように、著者はこの仮説に認知心理学の立場から回答しようという興味深い試みについて書いている。
**ことばを持たないと、実在するモノの実態を知覚できなくなるのではなく、ことばがあると、モノの認識をことばのカテゴリーのほうに引っ張る、あるいは歪ませてしまうということがこの実験からわかったのである。66頁**
**言語は私たちにとってなくてはならないもので、言語をわざわざ使えなくするような人工的な状況でなければ、脳は無意識に、そして自動的に、なんらかの形で言語を使ってしまうのである。これを考えれば、言語を介さない思考というのは、言語を習得した人間には存在しない、という極論も、あながち誤っていないかもしれない。202頁**
言葉を覚える前の赤ちゃんや、異なる言語を使う人たちを被験者にした実験などを通じて、本書のテーマに迫る論述を興味深く読んだ。日本人が虹を赤橙黄緑青藍紫の7色だと認識するのはなぜか、本書を読めば理解できるだろう。