透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「なぜ?」から始める現代アート

2013-01-20 | A 読書日記



 先週久しぶりにNHKの「日曜美術館」を見た。東京都現代美術館で現在開催中の「アートと音楽」という展覧会を紹介していた(20日の夜8時から再放送される)。

「見るアート」と「聴く音楽」 このふたつの芸術の境界領域に広がる新しい世界。坂本龍一と日比野克彦が作品を鑑賞しながら語り合うという番組だった。

紹介された作品の中で特に印象に残ったのは大きな円形の水面に形は同じだがサイズが違う白い器がいくつも浮かんでいて、水の流れであちこちに移動するときにぶつかって音をたてるというもの。器のサイズによって音程が違うから、坂本龍一が認めていたように「音楽」を奏でる。水の流れが創り出す音楽。

なるほど、これはアートと音楽、ふたつの芸術領域の間にあるものだと納得した。器の動きによって可視化された音楽・・・。

この展覧会が開催されている東京都現代美術館のチーフ・キュレーター、長谷川祐子さんの『「なぜ?」から始める現代アート』NHK出版新書を読んだ。長谷川さんは金沢21世紀美術館で芸術監督を務めたという経歴を持つ。何年か前、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演していたが、有能な人だなあと思った。

長谷川さんは本書に**現代アートは、その方法と素材の多様さゆえに、面白い現象を引き起こします。 (中略) アートは、人と人、領域と領域の隙間を埋めていくための、有効な一つの装置です。要するに「隙間装置」「関係装置」の性質をもっていると考えてください。**(24頁)と、現代アートを説明している。

また、**アートは、このように時を超えて生き残る「通時性」と、共有する現代(いま)をときめかせる、いまをともに生きるという「共時性」の、二つの力をあわせもっている。それがまず、大きなところでアートというものの魅力だと思ってください。**(18頁)と語っている。

東京都現代美術館の展覧会が面白くなってきたと思うが、それは2006年からチーフ・キュレーターを務めている長谷川さんの力に因るところが大きいのだろう。

この美術館はちょっと不便なところにあるのが難点だ。


 


「東京家族」

2013-01-20 | E 週末には映画を観よう

 山田洋次監督の「東京家族」を観た。

2011年の10月からアイシティシネマで映画を観る度にカードにスタンプを押してもらっている。その数が6個になって、今回は無料だった。

山田洋次監督といえばはやり寅さんだが、あの映画のテーマは家族の絆、それからふるさとだ。2歳で満州に渡り、そこで終戦後まで過ごしたという山田監督が想い描き続けた日本のふるさと。

寅さんは日本各地を気ままに旅するが、あれは山田監督のふるさと探しの旅でもあるのだ。旅先で寅さんは寂しさを感じるのだろう、葛飾柴又で暮らす妹さくらや、おいちゃん、おばちゃんのもとに帰っていく。寅さんは糸の切れた凧ではない。ちゃんと見えない糸で家族と繋がっているのだ。

「東京家族」のテーマも家族の絆とふるさと。そう、寅さん映画と同じだ。山田監督は都鄙の暮らしと風景を対比的に描く。高層ビルが立ち並ぶ都会の無機的な風景と島の豊かな自然、人情に厚い人びとの暮らし。

瀬戸内海の小島から老夫婦が3人の子どもとその家族に会うために東京に出てくる。東京と田舎とでは生活のリズムが違う。次第に生じる「ズレ」。子どもたちが両親を歓迎していないわけではない。生活のリズムが合わないだけなのだ。

ラスト、父親(橋詰功)が、次男(妻夫木聡)の恋人(蒼井優)と交わす会話の場面にはジーンときた。**この先厳しい時代が待っているじゃろうが、どうか、どうか、あの子をよろしくお願いします。**

こうして家族の新たな絆が結ばれる・・・。