**その日、雪おこしの雷が鳴り、稲妻が走った。葬儀が終わる頃、氷雨があがって灰色の空から斜陽がもれた。北国の冬がすぐそこまできていた。**
優れた小説の書き出しのようだ。それもそのはず、この本の著者・早野透氏は朝日新聞で政治部部長、編集委員などを歴任し、96年から14年間「ポリティカにっぽん」という政治コラムを執筆した文章のプロ中のプロなのだから。
『田中角栄 戦後日本の悲しき自画像』 中公新書を読んでいる。この手の本もいままであまり読んだことがなかった。城山三郎の小説『官僚たちの夏』はおもしろかったが、そのくらいか。約400頁の新書は普通の倍のボリュームだが、昨日(11日)半分ほど一気読みした。へたな小説よりよほどおもしろい。
早野氏は田中角栄の担当記者として、ときには角栄邸を訪ねてその語り口を聞いてきた。厖大な取材メモから書き起こした政治家、いや人間田中角栄。
とりあえず本稿では以下に備忘録を記しておくに留める。
**田中角栄に対するもっとも鋭い批判者となる立花隆は、「抽象思考ゼロの経験主義者」と断じた。**(11頁)
**池田(筆者注:池田勇人)が太平洋ベルト地帯の「日本の縦軸」を意識していたのに対し、角栄は太平洋側と日本海側を結ぶ「日本の横軸」を意識していた。**(161頁)
**毎朝、英字紙を読みこなす国際通、頭脳明敏なリベラル、経済に強いといわれた宮澤(筆者注:宮澤喜一)を「彼は日米間の通訳にすぎない。政治家ではない」と角栄がからかうゆえんである。**(177頁)
読了後に加筆するつもり。