■ 田中角栄。「日中国交正常化」「日本列島改造論」「ロッキード事件」といったキーワードがすぐ浮かぶ。
朝日新聞の記者だった早野透氏が、間近に見てきた田中角栄の表と裏、明と暗を戦後政治史をベースに詳細に描く『田中角栄』中公新書を読み終えた。
平成5年12月16日、田中角栄は「眠い」という言葉を残して息を引き取る。**角栄邸で、角栄の亡骸に対面した政治家は、細川護熙首相、河野洋平自民党総裁、そして土井たか子衆院議長の三人だった。土井は角栄の顔をのぞいて、「とてもいいお顔をしているわね」と言った。さまざまな苦労を抜け出て、ほんとにいい顔をしていると思った。そばで娘眞紀子が「お父さん、土井さんが来てくださったのよ。起きて」と泣いていた。**(389頁)本書で最後に紹介されるエピソードだ。
衆議院議長という立場、儀礼を超えて土井たか子は政敵の田中角栄と人間として向き合った。その誠実さを田中角栄が引き出したのかもしれない・・・。図らずも目が潤んだ。
何でも読んでやろうで、いい本に出合った。