■ 『きことわ』朝吹真理子/新潮文庫 読了。読了とはしたものの、字面を目で追っただけだった。描かれているのが夢なのか現なのか、読んでいて判然としなくなって・・・。
**貴子の寝息が永遠子には自分の寝息におもえていた。ふれあううちに、自分の息づかいもからまってしまったようだった。**(19頁)
**春子の声は夢の路(みち)を通して、二十五年後の永遠子の耳にとどいた。呼吸音を残して空間がかしげ、春子も、和雄も、貴子も、永遠子も、車内のすべてがにわかにくずれていった。**(20頁)
**ひらいたはずの目は夢の瞼がおりたままだった。ため息まじりに起きあがる。いまついたその息も、夢のなかでついているのか、現実の吐息なのか、わからなくなる。夢の外と内の差があるばかりでいずれにせよひとつの身体がついた息に違いはないのだった。**(22、23頁)
理屈でこのようなものがたりを理解しようとしてもだめだろう・・・。感性を頼りに描かれている夢の世界、記憶の世界を漂うこと。絵画にも通じる鑑賞法で独特の世界を味わうことができれば・・・。