透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「余寒の雪」

2015-12-14 | A 読書日記

 『余寒の雪』宇江佐真理/文春文庫を読んでいる。7篇の短篇が収録されているが、表題作「余寒の雪」は人情物で印象に残る作品だった。

主人公は知佐という二十歳を迎えた娘。剣術修行に励み、伊達藩の手練れの剣士達と互角に闘う腕の持ち主。御殿女中に武芸を指南する女剣士・別式女として御殿奉公に上がる夢を抱いている。知佐の父親である原田文七郎は、奉公に上がるのは並大抵のことではなく、一生を独身で通す者も多いことを案じていた。

文七郎が親戚を交えて娘の将来の話をすると、親戚のひとりから妙案が。

知佐は叔父さん夫婦と一緒に江戸へ、連れていかれたところは・・・。

**「遠路はるばるご苦労様でございます。鶴見俵四郎の母親の春江でございます。どうぞ、よろしくお願い致しまする。ささ、お上がり下さいませ。(後略)」**(267頁)

**「御祝言は明日の夜と致しますが、それでよろしゅうございましょうか?(後略)」**(267、8頁)

**「誰の祝言?」知佐はぎょっとして、さなの顔を見た。 「叔母さん、どういうことだ?おれは祝言の話など聞いていねえぞ」**(269頁) 

**「お前は、剣は強いが別式女となる器量はない。となると、お前の身の振り方はどうなる?いつまでも原田の家にはおれぬ。嫁に行くしかないだろうが」**(271頁) 

承服しない知佐に叔父は**「まずは俵四郎殿に会ってからのことだ。お前がどうでも不承知ならば無理強いはせぬ。おれと一緒にまた仙台に戻ろう」**(272頁)となだめる。

北町奉行所で同心を務める俵四郎は3年前に妻を病気で亡くし、やもめ暮らしをしていたのだった。俵四郎には松之丞という5歳の子どもがいた。

親戚のひとりから出た妙案というのは知佐を俵四郎の後添えにしようということだったのだ。

知佐は松之丞に**「(前略)おれはおぬしのお父っ様の後添えとして連れて来られたが、あいにく、おれはその気持ちがないゆえ、ご免被るつもりだ。(後略)」**(273頁)と話す。

*****

松之丞の父親と祖母が留守をして、知佐が面倒をみていた夜、松之丞が高熱を出す・・・。

ここまで書けば結末が予想できると思う。この手の人情物はいい。