■ 宇江佐真理さんの髪結い伊三次捕物余話シリーズは連作の形を取った長編小説。3月はこのシリーズの2巻目から11巻目まで読んだ。
前稿に書いたが、このシリーズは夫婦愛、家族愛の物語としても読むことができる。伊三次とお文夫婦とふたりの子どもがそれぞれ様々な人たちと関わりながら生きていく。巻が進むのと同時に彼らも歳を取り、周りの状況も変化していく。先が気になって読み急いでしまった。
宇江佐さんは現代社会の風潮や出来事を江戸に再現する。例えば次のように。
**出床に行けば、さほど待たされずにやってくれ、しかも手間賃が安い。いや、こっちは手間賃が高い分、丁寧にやっているつもりだし、出床よりも頭の保ちが違うと言ったところで通用しなかった。早さと安さが優先されるのもご時世なのだろうか。**(下線:筆者 「明日のことはしらず あやめ供養」10頁)
**二十五両は大金である。しかし、それで二人の命が失われたとすれば安過ぎる。世の中、突き詰めればすべて金であろうか。**(下線:筆者 「今日を刻む時計 我らが胸の鼓動」316頁)
**「いってェ、何があったのよ」
「聞いてねェんですかい。八つ(午後二時頃)過ぎ辺りに頭のおかしな野郎が日本橋で出刃を振り回し、通りすがりの者を次々と刺したんでさァ。日本橋は血の海になっているそうです」** (「今日を刻む時計」44頁) こんな事件が何年か前、都内で実際に起きている。
さて、今日も『名もなき日々を』を読む。
3月はこの本も読んだ。
『やわらかな生命 福岡ハカセの芸術と科学をつなぐ旅』 福岡伸一/文春文庫