■ 木曽郡木曽町の新しい役場庁舎本体が完成して見学会(27、28日)が開催されることを知り、昨日(27日)出かけて見学した。見学会は町民向けとのことだったが受付の担当者に了解していただいた。手渡されたリーフレットには地元の木と技でつくる「木の國木曽」とある。このコピーは新庁舎のコンセプト(計画理念)を的確に表現している。
2017年に実施された公募型プロポーザルで千田建築設計の提案に決定した。私は公開で行われたプレゼンテーションを聴いていたこともあり、このプロジェクトに関心を寄せていた。2018年から2019年にかけて基本設計・実施設計が行われ、2019年9月から工事が進められていた。
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なだらかな切妻大屋根に4つの越屋根を載せた外観は地味で、造形上の創意・工夫は特に見られない。もっとも、設計者の独りよがりな奇を衒ったデザインなどこの地には歓迎されないだろうが。大屋根に直行させて載せた越屋根の棟は水平ではなく、勾配を付けているが、私は設計上の意図を読み取れない。確かプロポーザルの時は越屋根はHPシェルの面だったように思う。
ちなみに屋根の鈍い赤色はかつて木曽谷の民家の屋根の大半に使われていて、なぜ木曽の屋根は赤いのかという記事が地元紙に掲載されたことがあった(*1)。
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この庁舎の建築的な特徴は木曽街道の町屋に見られる出梁造り(だしばりづくり)と呼ばれる架構を構造に採用していること。
2本の柱に両端持出しの梁を架け(写真③参照)、梁の上の小屋束で母屋を受けるという架構を庁舎の短辺方向(梁間方向)に4フレーム並べて(写真②)ユニットを構成し、長辺方向(桁行方向)にいくつも並べるというシステムによって、この庁舎の構造を成立させている。
このユニットを外部につくっているのは(写真①②)、設計者としては当然の演出。この架構システムを見出したとき、設計者は「いける」と思ったかもしれない。地元の材料を使い地元の伝統的な構法を地元の技術でつくるという提案はよく分かる。
次は内部の様子。
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細長い敷地形状から、庁舎が細長くなることは必然。この庁舎の長さは108.650メートル(*2)。「中山道のこみち」と名付けられたこの通りの両側にすべての必要諸室を配した単純明快な平面計画。木曽街道の宿場を建築的なレベルで再構成している。奈良井宿の写真と比べるとこのことが分かる。木曽町にふさわしい空間構成・空間デザインだと思う。実に上手い。設計者は敢えて一番端にメインの出入口を計画したのだろう(長辺のほぼ中間にサブの出入口が計画されている 写真⑤)。
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この写真は長辺方向の中間にある出入口を撮ったものだから仕方がないが、右側の真壁に構造フレームが表れている。この壁面も撮っておくべきだった・・・。
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〇:出梁を示す 左:奈良井宿
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フレーム①と②の間に計画された事務室
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③④間に計画された事務室 屋外に露出させたフレームと同様のフレームが分かる。
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フレームユニットの間隔が広いところもあるが、その両フレーム間に架けられた梁のサイズ(梁成)がそれ程大きくないのはなぜだろう。梁の曲げ応力は柱部分で最も大きくなり、そこを添え梁で補強している?? ⑨の写真はこの様に読み解けばよいのだろうか・・・。
カウンター側に書庫が並べられている。来庁者の視線をカットして職員のパソコン画面を見られることがないように、という配慮だろう(写真⑧)。カウンターは会計を除き全て椅子対応のローカウンター、プライバシーに配慮した仕切りも設置されている(写真④)。これが役場庁舎の基本(*3)
庁舎の内装は使う材料を限定し、落ち着いた雰囲気を創出している。窓の障子は庁舎の事務室に使われることはあまり無いと思われるが、和の雰囲気を高めている。
大会議室(議場)のような大きな空間は出梁造りの構造フレームでは対応できなかったようで梁にはテンション材に丸鋼を用いたハイブリッドなトラスを用いている。従来の役場庁舎の議場を見慣れている者からすると、随分簡素な設えだが、これで議場として支障なし、ということなのだろう。いや、むしろこのくらいの設えが会議室としても使われるこれからの議場には相応しいだろう。
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越屋根部分の様子 それ程大きな開口ではないが高窓から入る自然光はやはり好ましい。
「木曽町はなかなか良い庁舎を造ったなあ」との感想を抱いた。
役場新庁舎の開庁は4月の予定。開庁後にまた様子を見に行きたい。
*1 トタン(亜鉛メッキ鋼板)屋根に塗る錆止め塗料は以前は赤色が一番安価、というのが理由だったと思う。過去ログ
*2 リーフレットの施設概要による。
*3 数年前にできた某庁舎はハイカウンター、仕切り無しという設え。