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『都会の鳥の生態学』唐沢孝一(中公新書2023年)
■ 4月に『カワセミ都市トーキョー』柳瀬博一(平凡社新書2024年)を読んだ。生息環境の変化により、青梅や奥多摩湖まで生息域を後退させていたカワセミが1980年代に徐々に都心に戻ってくる。この本は都心の環境に適応したカワセミたちの生態観察記、と括ることができるだろう。
環世界ということばをこの本で知った。柳瀬博一さんは『生物から見た世界』を参考文献として取り上げ、次のように書いている。**さらに人間の場合、生き物としての「環世界」だけじゃなく、自身の経験に基づく、ごく個人的な「環世界」の中でも暮らしている。この環世界はユクスキュルが定義した「感覚器で知覚できる世界」とは、ちょっと違う。個々人が後天的に獲得した言語と知識と経験と好みがつくり出す大脳皮質がつくった「文化的な環世界」である。**(265頁 赤字表記は私がした)
自分の環世界に存在しないものは認識できないということは、経験的に知っている。先日、上高地を散策した。ウグイスが盛んに鳴いていた。他の野鳥も鳴いていたが、名前は分からなかった。私の環世界には野鳥は存在していない。
上掲書の関連本である『都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』で唐沢孝一さんは観察対象を広げ、都会で生息するスズメやツバメ、カラスなどの身近な鳥の生態を明らかにしている。サギなどの水鳥やハヤブサなどの猛禽類も取り上げられている。鳥たち相互の関係についても述べられていて興味深い。
**ツバメは、雌も雄も、若鳥も、別々に渡りをする。日本に戻ってきてから婚活を始める。雄ツバメには、早く日本に戻って営巣場所を確保し、婚活を有利に進めたい思惑がありそうだ。**(27頁)
ツバメは幼鳥だけで渡りをするとのことだが、**親鳥に教えてもらうことなく渡りのコースをどのように知ることができるのだろうか。**(51頁) 知らなかったなぁ・・・。知らないことは当然のことながら疑問にも思わない。
電柱の腕金(角型鋼管の水平部材)を単独ねぐらにしているスズメがいる、ということが紹介されている。つがいと思われる2羽のスズメが隣り合う電柱の腕金をねぐらにしていることも観察できたとのこと。既に書いたように、鳥の生態については何も知らないので、読み進めていて、鳥たちの興味深い生態に驚くことばかりだった。
新宿副都心の超高層ビル群を生息地にしているハヤブサのことも紹介されている。ハヤブサにとって、超高層ビルの壁面はそそり立つ岩場そのものだろう。六本木ヒルズの窓枠の外に止まっているハヤブサの写真が掲載されているが、他にも鳥たちの生態を捉えた何枚もの写真が掲載されている。
漫然と鳥を見ていても分からない生態が、観察を続けていると、徐々に分かってくるだろう。そうすれば私の環世界に野鳥が入り込んでくるかもしれない・・・。
知らない世界を覗いてみるのは楽しい。新書はそのガイドブック。
撮影日2023.01.16 みぞれが降る中、柿を啄ばむヒヨドリ