透明タペストリー

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「はぐれんぼう」を読む

2023-12-27 | A 読書日記

■  図書館で北 杜夫の『巴里茫々』と一緒に借りてきていた青山七恵の『はぐれんぼう』を読んだ。青山七恵の小説を読むのは芥川賞受賞作の『ひとり日和』(河出書房新社)を2007年3月に読んで以来16年ぶりだ(過去ログ)。『ひとり日和』は芥川賞の選考会で石原慎太郎と村上 龍がそろって褒めたという(『芥川賞の謎を解く』鵜飼哲夫(文春新書))。

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『はぐれんぼう』青山七恵(講談社2022年)

『はぐれんぼう』というひらがな表記の書名、それから見返しに貼られている帯の**誰もが生き難さを抱えたこの世界の片隅にまるで光が溢れでるように紡がれた言葉たち。不可思議で切なく瑞々しい救済と癒しの物語。**という紹介文から心温まるハートフルな物語なのかな、と思って借りた。そうならばこの時季に読むのにふさわしい作品だ。だが、違っていた。これはホラーといってもいい作品だった。そう、ちょっとSF的な雰囲気のホラー。

主人公はクリーニング店でパートで働く優子。書名の「はぐれんぼう」とは持ち主が受け取りに来ない預かりものの衣類のこと。一か月以上経っても持ち主が現れない「はぐれんぼう」は箱詰めにされて倉庫に送られる。優子はクリーニング工場も倉庫もどこにあるのか、はっきりした所在地は知らない。

ある日、優子は箱詰めのはぐれんぼちゃんを自宅に持ち帰る。翌朝、優子が目覚めると持ち帰ったはぐれちゃんのブラウスやジャケット、スラックス、スカート、マフラー、ネクタイを身に着けていた・・・。 何これ、カフカ?

この日勤めを休んだ優子はそのままの格好で外に出て歩き始める。見慣れない住宅街を歩いて行くと、「諸」という表札の家の前に出た。クリーニング店で目にしたことがある一文字「諸」。優子は考える。**このネクタイが家に帰ろうとして、クリーニング屋の体を使ってここまで歩いて来たのではないか。**(39頁)そこはやはりネクタイの持ち主の家だったが、受け取りを拒否される。スカート、マフラー。他の家でも同様の対応だった。心温まるハートフルな物語ではなかった・・・。

この小説は「出発」と「倉庫」の二つの章でできているが、「出発」では優子と同じチェーン店のクリーニング店で働いていて、同じような経験をした人が一緒に「倉庫」を探し求めて歩いていき、「倉庫」に着くまでが描かれる。

「倉庫」に着いた優子たちが大きな倉庫の内に入っていくと、そこはスーパー銭湯のようなところだった。天国かと思わせるようなところで、何人かの人たちが自分に合った仕事をしながら自分のペースで暮らしていた。

読み進むと状況が一変する。天国から地獄へ。そして物語はホラーな展開に。

**(前略)床下からゴオオオと低い音が鳴り響く。わたしは反射的にアンヌさんを抱きしめてその場にしゃがみこんだ。次の瞬間、床ぜんたいが奥に向かってゆっくり傾斜しはじめて、わたしたちは床に散らばる服と共に、ずるずる下の方に滑りはじめた。**(313頁)

ここでは運び込まれた「はぐれんぼう」を大きな焼却炉で燃やして風呂の熱源や電源にしていて、はぐれんぼうを置いた部屋の床を傾斜させて焼却炉に落とし込んでいたのだ。落とし込んでいたのは衣類だけではなかった・・・。ひぇ~、ホラー。

ラストを書いてしまっていいのかどうか、「倉庫」から外に出てきた人たちは**煙突は先の方からひび割れていき、根本まで達した次の瞬間、屋根もろとも轟音を立てて爆発した。**(342頁)ところを見る。この先は省略する。

このシュールな作品で作者は一体何を描きたかったんだろう・・・。「はぐれんぼう」は何かのメタファーなのか? そうだとすればそれは何? 読み終えてあれこれ考える。忘れてしまいたい、でも完全には忘れたくないこと? そうだとすればそれを焼かれてしまうことってどうなんだろう。完全なる記憶喪失・・・。このことってどんな意味を持つ? ん~、分からない。

この作家の作品を何作か読めば、それらに共通するメッセージが分かるかもしれない。もう1作くらい読んでみてもいいがその機会があるかどうか。


 


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