透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

風景を層で捉える

2022-11-08 | A あれこれ

 長野県朝日村の朝日美術館で今月(11月)27日までの会期で開催されている「加藤邦彦・温子展 ― 自然と共に生きる―」を鑑賞した。幸運にもお二人とも在廊中で、展示作品のモチーフのこと、ドイツの芸術事情などについてじっくりお話を伺うことができた。

お二人は約40年間のドイツでの創作活動を経て、現在は伊那市美篶(みすず)で創作活動中とのこと。

 



展示会場には鑑賞者に太古に誕生した生命体を想起させるような邦彦さんの不思議な造形の彫刻と、温子さんのイチョウをモチーフとした具象と抽象のどちらともとれるような表現の油彩画や石版画がおよそ120点展示されている。私が魅せられたのは温子さんの上掲作品(写真撮影・掲載の許可をご本人からいただいています)。

緑の風景を5つの層によって表現している。層の幅を次第に小さくし、また層の色相・明度を変えることによって遠近感を表現している。そうか、層か・・・(って駄洒落ではない)。

風景構成要素を再構成して作品にするのだが、作品を観ると、作者が風景をどのように捉えているのか、どのような風景に魅せられているのかが分かる。同じ風景を見てもその捉え方は人それぞれ。ぼくは今まで風景を層の重なりとして捉えて風景スケッチをしたことはなかった。この作品を観て、層の重なりとして捉えた風景の魅力に気づかされた。


安曇野市堀金にて 撮影日2022.11.06

今までは塊状のもの(住宅群の個々の住宅の塊、その後ろの屋敷林(たぶん)の塊、山々の塊)から成ると見ていた風景を、上記のような奥行き方向の厚さのない層の重なりから成る風景として魅力的に見えるようになった。

今までに描いたスケッチでこのような風景を描いたものを挙げるとすれば本の表紙に使った作品かな。でもこのスケッチを描いたときは層から成る風景の美ということは意識していなかった。


拙著『あ、火の見櫓!』の表紙にしたスケッチ 安曇野市三郷にて 描画2019.05.06