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『マスク社会が危ない 子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?』明和政子(宝島社新書2022年)
■ 著者は「子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?」というサブタイトルの問題、テーマを設定し、帯にあるように**「表情が読めない」と、脳と心が育たない!**と回答している。本書にはその内容が書かれている。論理的な文章は内容が難しくても読みやすい。
**子ども期は本来、他者の多様な表情を経験しながら、他者の心の状態を理解したり共感したりする、ヒト特有の社会性を身につけていくきわめて重要な時期です。この時期の経験こそが、個人が生涯もつことになる特性の土台となるのです。(後略)**(3頁)
子どもの脳内ネットワークは社会的環境、他者との関わりの中で情報を受け取りながら構築されていく。ところが他者が皆マスクをして情報を遮断してしまっている。このような環境、状況が子どもたちの脳の発達に好ましくない影響を与える可能性は否定できない。にもかかわらず、日本では子どもたちの環境を考慮したコロナ対策が講じられていない。大人も子どもも一律な行動規範。
付箋を貼りながら読んだが、これほど多く貼ったのは初めてかもしれない。
エリザベス女王の国葬の様子をテレビで見たが、マスクを着用している参列者はいなかった。大リーグの大谷翔平選手の活躍を報ずるスポーツニュースを見てもスタジアムにマスクをしている観客は見当たらなかった。本書にはマスク着用者と非着用者とで新型コロナ感染者数にどのくらいの差が出ているのか試験をした結果も紹介されている(*1)。
日本のコロナ対策も諸外国のように次のフェーズ、コロナと共生しながら自由に、個人の考え方に基づいて行動できる社会に移行してもよいのではないか。そうしないと子どもたちの脳が健全に育たない。
本書には子どもたちの環境としてフィジカル(現実)空間とサイバー(仮想)の違いについても書かれている。子どもたちの社会的感性は身体感覚が得られる現実環境で育まれるのに、教育現場にはますます仮想環境が導入されていく・・・。
多くの人に読んで欲しい。現在子育て中であってもなくても。
*1 **コペンハーゲン大学病院が2020年4月から5月にかけて成人6024人をマスク着用グループとマスク非着用グループの2つに分けて試験を実施したところ、1ヵ月後にマスク着用グループで新型コロナに感染した人の割合は1.8%、マスク非着用グループでは2.1%と、マスク着用による感染リスク低下の有意な差は確認できませんでした。**(126頁)
**もしマスクに感染を防ぐ力があったとしても、現実社会ではそれが実感できるほどの効果は発揮できないということです。**(127頁)
私は流体に関するベルヌーイの定理を思い起こし、マスクを着用した状態だと、マスク近傍の空気の流速がマスク無しのときより速くなって、勢いも増してコロナウイルスを吸い込みやすくなるんじゃないのかな、などと考えたりもした。