史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「幕末外交と開国」 加藤祐三著 ちくま新書

2010年02月05日 | 書評
本書は、日米和親条約の締結から百五十年目の平成十六年(2004)に発刊されたものである。嘉永七年(1854)に結ばれたこの条約については、「無能無策」である幕府が「黒船の軍事的圧力」に屈した結果、極端な不平等条約を結ばされたとする説が横行している。本書では、ペリーの最初の来航から条約が結ばれるまでの一年間について、日米各々の資料を追いながら、その詳細を明らかにした。その結果、日米和親条約は、先進国間で結ばれていた対等な条約ではないにしても、中国やインドが戦争の末に押しつけられた「敗戦条約」とは異なり、ほかのアジア諸国では類を見ない「交渉条約」だったという。著者が提唱している「敗戦条約」「交渉条約」の定義については、本書を参照してもらいたい。日本が、アジアで唯一友好的に交渉条約を結ぶことができた背景には、幕府の並々ならぬ努力と、巧みな交渉と、事前の情報収集などがあった。本書で紹介されているペリーと林大学頭(復斎)とのガチンコのトップ交渉は、息を飲むほどの緊迫感である。政権を担っていた幕府が、手練手管を尽くして戦争を回避し、平和裡に条約締結にこぎつけたことは、もっと高く評価して良いだろう。
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