映画とライフデザイン

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映画「夜を走る」佐向大&足立智充

2022-06-07 17:56:11 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「夜を走る」を映画館で観てきました。


映画「夜を走る」は大杉漣の遺作教誨師でメガホンをとった佐向大監督の作品である。予告編から気になっている作品であった。題名から、事件をやらかして逃亡するロードムービーを想像していた。日経新聞の映画評でどうやら違うとわかり、しかも予測不能な展開らしい。観に行こうとしたが、上映館が少なく難しい。ようやくスキマ時間を見つけて観ることができた。

この映画はイケる!観て損のない価値がある。
先の読めない脚本はたしかに予測不能で、意外な展開が十分楽しめる。B級映画の匂いがムンムンするが、うまくまとめる佐向大監督の手腕に驚く。クライムサスペンスが基調であっても、ブラックコメディ的要素を持つ。内田けんじ監督運命じゃない人、三木聡監督亀は意外に早く動くのようなB級カルト映画になる可能性がある。

郊外にある金属のスクラップ工場で働く秋本(足立智充)は鉄クズの仕入に営業車で走り回る40歳の独身である。うだつが上がらず、会社業績に貢献できない。同僚の谷口(玉置玲央)と飲みに行ったあと、偶然駅で昼間産廃処理の営業に来ていた女性に出会う。一緒に飲み直した後、酔いが進んだ女性の介抱をしようとしてイザコザが起きる。その処理に慌てて隠蔽工作しようとして右往左往する話である。


ここから先の展開は言わぬが花であろう。改めて予告編を見直したが、介抱した後このようにストーリーが動くとは想像もつかない。かなり脚本が練られてつくられている。ネタバレにならないように、悪さを犯して隠蔽工作で逃げ回るロードムービーでないとだけ言っておこう。

⒈低予算映画丸出しと佐向大監督
有名な俳優は出ていない。せいぜい孤独のグルメの松重豊くらいだ。でもどこかで顔を見たことがある奴が多い。主演の足立智充にしても、出演作品を調べるとほとんど自分は観ている。どれもこれもどんな役だったかなと思う。他にも出演作を確認するとそんな連中ばかりだ。佐向大監督の手腕はなかなかのものだ。そういう役者たちを巧みに起用する。

しかも、脚本を書くときに、この映画で扱う仕事について調べて取材しているようだ。金属スクラップ工業の業界、夜の怪しい水商売系とそのバックの存在、新興宗教じみたカルト集団など。セリフにその職業独自のディテールがあらわれる。


単にスクラップ工場だけをとっても、主役の職業は鉄屑をいろんな事業所を回って買い取る仕事をしている。被害に遭う女性も産業廃棄物の処理に関する営業をしている。こんな仕事があることすら普通だったら知らない。クローズアップするにも取材しなければわからないだろう。

⒉善と悪の接点と偽善者たち
一般に映画では善と悪のバランスを取ることが多い。それこそ山田洋次監督の近作では悪人がいないことすらある。逆にここでは、善人はいない。あえて言えば、準主役の谷口の素直な幼い娘くらいか?不倫をしている妻が真っ当な顔をして、夫が外で女をつくったのを非難して私が悪いことしたのと平気で言っている姿や偽善的なカルト集団に所属する笑顔に満ち溢れる人たちなど善人そうな顔をしていても実は悪という人が数多く登場する。社会の縮図をうまく掴んで佐向大監督が描いている。


⒊冬薔薇との比較
たまたま「夜を走る」を観る前に、阪本順治監督の冬薔薇を観た。名優の活躍があり、レベルはそれなりだが、名監督阪本順治の脚本にはIT化の進んだ現代には時代錯誤的なものを感じた。ところが、ブログで先日自分が指摘した部分がこの映画ではちゃんとプロットに入っている。


クライム映画なのに警察が出てこないのはおかしいというコメントを書いた。冬薔薇では人が死んだり、半グレ同士の抗争があっても警察の存在がない「夜が走る」では行方不明の人物が出てくるわけだから当然警察が出てくるし、配役もある。聞き込みもされるし、取り調べもある。現代で考えれば当たり前の防犯カメラの捜索などもでてくる。普通であればそこまで考えるべきなのにそうでないのは怠慢というわけだ。

ここまで重層構造にできているとは予期していなかった。大杉漣が生きている時から、一緒に構想を練ったという。長年にわたっての構想が実ったようだ。個人的には教誨師」も好感を持てた。次作に期待する。
コメント
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