映画とライフデザイン

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映画「愛にイナズマ」 松岡茉優&石井裕也

2023-10-29 17:10:22 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「愛にイナズマ」を映画館で観てきました。

映画「愛にイナズマ」は先日「月」を公開したばかりの石井裕也監督松岡茉優主演で描く新作ヒューマンドラマである。2作同時並行でつくったのだろうか?暗さの極致をゆく「月」とはタイプが違うのは予告編でわかる。ただ、松岡茉優や池松壮亮が大声をだしてケンカしているような印象はあまりよくない。

それでも、石井裕也のオリジナル脚本となると興味はわく。元妻満島ひかり主演の「川の底からこんにちは」で石井裕也監督を知ってから、作品によって好き嫌いがあっても追いかけている監督だ。先入観なく恐る恐る観にいく。

映画監督として名前がWikipediaにも載る折村花子(松岡茉優)は、プロデューサーの原(MEGUMI)の推薦で新作の監督を任せられる。新作は花子の実家について書いた脚本で映画歴の長い荒川(三浦貴大)が助監督につくことが決まる。ところが、花子のやり方に原と荒川がやたらとケチをつけるので、嫌気がさしている。そんな時花子は町を歩いていると、ケンカの仲裁に入ったのに殴られて倒れている男を見つけた。その後、バーでバッタリその男正夫(窪田正孝)に会う。正夫と同居する落合(仲野大賀)がたまたま花子の映画に出ることになっていて意気投合する。


その後、花子は自分のオリジナル脚本なのに監督を降ろされる始末に憤慨。実家の父親(佐藤浩市)に連絡して、実際の家族ドキュメンタリーとして映画を撮ろうと長い間疎遠だった長兄誠一(池松壮亮)や次兄雄二(若葉竜也)を呼び出し、正夫も連れて行ってカメラをまわす。

予想外によくできた作品だった。十分楽しめた。
予告編を観て良いなあと思った後、実際に観に行く。悪くはないけど期待ほどでもないことがある。昨年でいえば「ある男」や「死刑にいたる病」がそうだった。この映画は真逆で、予告編の期待を裏切ってよかった。出演者がよくわからずわめいていて家族再生の物語と想像できるけど、ごちゃごちゃしているなあと思っていた。自分と同じように感じてスルーした映画ファンがいれば悲劇だ。

基調になるのは松岡茉優演じる映画監督の成長物語である。前半戦は窪田正孝との出会いも語られるけど、ようやくチャンスをもらって這いあがろうとする健気な姿を映す。そこに石井裕也監督がたぶん実体験として感じてきた業界の暗部や映画づくりのエピソードを織り込む。これがリアルでいい。

主人公が葛藤する相手として、いやらしくMEGUMIや三浦友和のセガレを配置する。石井裕也が映画界で言われたことのあるイヤな言葉をセリフにしている感じがする。いじめられる松岡茉優応援したくなる気持ちになってくる。


加えて、コロナ禍で出没した道徳自警団的な少年を登場させたり、アベノマスクのことや飲食店が休業補償金でかえって潤う話などコロナ禍で経験したエピソードを盛り込む。われわれが昭和30年代の映画を観てこんなことあったんだと思うのと同じように後世の人たちはコロナ禍を振り返るかもしれない。

単なる家族再生の物語だけだったら、こんなにいいとは思わなかっただろう。映画界の裏話的要素が濃くでていい。だから退屈しない。池松壮亮や若葉竜也、佐藤浩市など石井裕也監督作品の常連をうまく脇に使って、監督と初コンビの松岡茉優と窪田正孝を引き立てる。いくつか疑問点はあっても満足できる。

⒈松岡茉優
花子は常にハンディカメラをもって外出先での一挙一動に目を配る。気がつくことがあると、左利きのペンでメモを走らせる。カッコいい。あとで何か使えることがあればと映画ネタをかき集める姿勢がいい。でも、家賃は滞納して督促がくるくらいの極貧生活だ。Wikipediaに映画監督として名前があっても、実質デビュー作。プロデューサーと助監督から、「あらゆる行為には理由がないとダメだ」と散々言われてめげるけど後がないから粘る

実家の父親とは疎遠。父から電話が来ても出ない。兄2人とは10年会っていない。それでも、自らの脚本で映画化が決まり準備していた監督を外されると、実家に乗りこみ、家族を撮っていくぞと父と兄にカメラを向ける。食肉工場で働いていた従順な正夫を実家に引き連れ挽回をはかる。思わず応援したくなる女の子だ。


働き方改革で日本人がみんな怠け者になりつつある中で、昨年の「ハケンアニメ」吉岡美帆のように仕事にがっつく女の子がメインになる映画って好きだ。

⒉池松壮亮
黒澤明に対する三船敏郎みたいな存在になりつつある石井裕也監督作品の常連だ。前半戦は松岡茉優の映画づくりに向けての話が中心で出番がない。今回は主役の兄役で脇に回るけど、後半に向けて徐々に存在感が高まる。池松壮亮は斜に構えた感じの会社社長秘書役で1500万するBMWを乗り回す見栄っ張り。妹の撮影になんで付き合うの?という感じから徐々に変わっていく。

主役のジャズピアニストを一人二役で演じる「黒鍵と白鍵のあいだ」が公開されたばかりだ。池松壮亮はピアノを練習して頑張ったにもかかわらず、残念ながら映画自体に欠点が多すぎた。しかも、一晩の話にしようとするのに無理があった。

ネタバレに近いが、最後に向けて池松壮亮の見せ場を用意する。個人的にはこのパフォーマンスを見て胸がスッとした


⒊佐藤浩市
今年は公開作多いなと思ったら、なんと8作目(Wikipediaでは9作)だ。自分より少し年下で同世代なのに頑張るねえ。殺し屋役だった「藤枝梅安2」では強い存在で恐怖感を増してくれた。おかげで映画に広がりができた。意外に流行らなかったが、自分は好きだ。

こうやって15年間ブログやっていると、佐藤浩市が主役を張った「KT」「ああ、春」なんて古い作品も取り上げている。三井住友信託銀行のCMなどで映画だけでなく露出度が高い。

もともと二枚目俳優なんだけど、「春に散る」「愛にイナズマ」いずれも白髪で登場して死にいたる病にかかっている設定だ。今回の方が、妻に逃げられて家族も近寄らず男一人で余生を過ごす情けない役。こんな役が続くと、同世代としては複雑な思いもする。ただ、家族の再生が実現しそうなのでまあいいか。


⒋窪田正孝と仲野大賀
食肉工場で働く飄々とした青年だ。ひょんなキッカケで花子と知り合う。地道に貯めたお金を金欠の花子に提供して、花子の思い通りに映画を撮らせてあげようとする。いわゆるいい人だ。宮沢りえが選挙に臨む「決戦は日曜日」の秘書役も宮沢りえの不始末を処理する良い人役で、気のいい奴って配役も多い。その反面で、「春に散る」では横浜流星と対決するアクティブなボクサーを演じた。斜に構えた男って池松壮亮が演じそうな役だったけど、うまくこなす。

石井裕也監督の「生きちゃった」で主役を演じた仲野大賀窪田正孝と同居する俳優志望の役だ。ただ、配役がもらえず結局自殺してしまう。この映画にはベテラン俳優の役で大賀の実父中野英雄も出演している。2人同時には出ないが、場面が近いので思わず唸った。石井裕也はあえて意識したのか?

中野英雄が自殺する証券マン役で出ていた「愛という名のもとに」は高視聴率で自分も見ていた。当時、バブル崩壊が表面化したころで、自分の後輩がいた大手證券ではバブル崩壊で住宅ローンが支払えない人が社内で百人単位で出たと言っていた。金利も現在より数倍高いし証券マン受難の時期だ。もっとも今のZ世代は生まれていないけど。

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