575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

ヤマユリ          草女

2009年06月26日 | Weblog
小学生の低学年の頃、学校へ通う道に規制はなかった。この季節は少し遠回りしてお寺の北側をよく通ったのは、白くて大きなユリが咲いていたからだ。暗い森のはずれは、水田より一段高くそこに4,5本あった。野辺にあるものは見つけた人のものとおもっていたけれど、あまりの美しさに手をだすことができなかった。
 今思えばそれらはヤマユリに違いない。そしてこんなにも野山の歩いているのに・・それ以来自生のヤマユリに出会ったのは一度、それも天竜川下りの船のなかから、絶壁に咲いてのを見かけただけ、もう30年も前のことだ。
ヤマユリは絶滅危惧種に指定されてはいないが、数は激変していると思っている。19世紀には海外への輸出が始まり、また百合根としても最高なヤマユリは減り続けている。そんなヤマユリの球根を見つけたのは、連れ合いに付き合ってカーマホームセンターに行き、所在なさげに球根売り場を見ていた時である。1球980円にも驚いたが、もっと驚いたのは「オランダ産」の表示があっから。4月の初め、植える時期にはもう遅いし、球根は見るからに干からびているしかし、長年見たいと思い続けてきた球根がそこにある。咲かなくていい思いつつ、わが庭の中で一番適しているだろう場所にその夕方埋められた。
 DNAを調べれば日本に自生しているヤマユリとは違うかもしれない。しかし山から盗掘したものとは違いはるかに育てやすいはず。そこに人の手が加わっているからだ。
 そして、咲いた、咲いた、オランダ産のヤマユリ。3個しか花をつけなかったけれど。60年ぶりに近い再会を素直に喜んでいる。
 カサブランカ、マルコポーロなど豪華なユリが花やの店頭を飾っているが、元をただせば、日本のヤマユリであり、カノコユリである。誇らしいことではあるが、それらの自生種がかくも激減していることと、60年ぶりの再会はオランダ産であることは今の日本の現実なのだ。
  
 もうひとつ、驚いたことがある。生産地の蘭にオランダのシールが貼ってあったので、注意深く剥がしてみると、茨城県と印刷されていた。このヤマユリはいまの日本の姿そものもを映しているのだ。一体この百合は何処が産地なのだろう?長い間消費者を騙し続けてきたのは食品ばかりではないらしい。

 ヤマユリは雨にも負けず豪華に咲いているが、秘められた隠し事と欲望のまま野山を開発した日本人の心を映している。

   くもの糸ひとすぢよぎる百合の前     高野素十
   百合の芯皆りんりんとふるひけり     川端茅舎
   山百合へ逮夜の窓が開けてある      橋本いさむ
コメント (1)
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