連日報道されている耐震強度偽装事件は、なぜこんな事件が起こったのか、原因は 多々有ると思うが、「技術」を取り巻く社会的制度面から考えてみました。建築設計の業務 は、一級建築士が行う事に成っているが、一級建築士事務所の看板を上げているのは 大抵「意匠設計」すなわち建築デザインを専門とする一級建築士です。ここが元請けとな って「構造設計」と「設備設計」を下請けに出すのです。したがって、構造設計士と設備設 計士の名前は表に出る事は無く、さらに業務費のかなりの部分を元請けの建築事務所に ピンハネされているのです。「意匠設計」「構造設計」「設備設計」を一括受注すれば、元 請けには「濡れ手に粟」の金額が転がり込んでくるのです。
先日の国会参考人質疑を聞いていれば、元請けの一級建築士は構造に関しては、全く の素人であることがよく分かると思います。同じ資格を持つ「構造設計士」と「設備設計 士」には、責務の内容に見合う社会的地位と報酬が与えられていないのです。ここに技術 者としてのモラルハザードが生ずる一因が有ると考えられます。
一級建築士の資格は、「意匠設計士」「構造設計士」「設備設計士」それぞれ別の資格と すべきです。さらに、三業務一括発注の禁止と業務の主要部分を下請けに出すことの禁 止です。同時に一級建築士の責務に対する罰則の強化、社会的地位の向上、妥当な報 酬を制度化しなければ成りません。この様に言うと、規制緩和や自由競争の原則に反す ると思われるかも知れませんが、長い目で見れば安全で安心できる社会を構築するため には、この方がローコストと成るはずです。
昔から日本の社会は、情報や技術に対する評価が低すぎます。青色発光ダイオード騒 動などはその典型です。いまでこそあまり使われなくなった言葉ですが(意識して使ってな い)現場の技術者はブルーカラー、総務・営業などはホワイトカラーと言います。まさに差 別用語ですが、内実的にはいまでも厳然として存在する実態です。両者は車の両輪で、 どちらが欠けても社会は機能しません。それにしても、技術者にとっての春はまだまだ先 ことに成りそうです。