【原文】
いにしへのひじりの御代みよの政まつりごとをも忘れ、民の愁うれへ、国のそこなはるゝをも知らず、万よろづにきよらを尽していみじと思ひ、所せきさましたる人こそ、うたて、思ふところなく見ゆれ。
「衣冠いくわんより馬・車にいたるまで、あるにしたがひて用ゐよ。美麗を求むる事なかれ」とぞ、九条殿くでうどのの遺誡ゆいかいにも侍はべる。順徳院の、禁中の事ども書かせ給へるにも、「おほやけの奉たてまつり物は、おろそかなるをもってよしとす」とこそ侍れ。
「衣冠いくわんより馬・車にいたるまで、あるにしたがひて用ゐよ。美麗を求むる事なかれ」とぞ、九条殿くでうどのの遺誡ゆいかいにも侍はべる。順徳院の、禁中の事ども書かせ給へるにも、「おほやけの奉たてまつり物は、おろそかなるをもってよしとす」とこそ侍れ。
【現代語訳】
聖なる古き良き時代の時代の政治の方針を忘れてしまって、一般市民が困って嘆いていることや、国に内乱が起こりそうなことも知らないで、何もかも究極に豪華なものを用意して、自分のことを偉いと勘違いし「ここは狭くて窮屈だ」というような態度をしている人を見ると、気分が悪くなるし、自分のことしか考えていない厭な野郎だと思う。
「作業着やヘルメット、シャベルカーからダンプカーまで、すべて間に合わせで済ませよ、新品や最新機種を欲しがってはいけません」と、死んだ右大臣の遺言にもあったことだし、順徳院が宮中の決まり事を書いた『禁秘抄』という参考書にも「天皇のおべべはコンビニで買えばよい」と書いてある。
聖なる古き良き時代の時代の政治の方針を忘れてしまって、一般市民が困って嘆いていることや、国に内乱が起こりそうなことも知らないで、何もかも究極に豪華なものを用意して、自分のことを偉いと勘違いし「ここは狭くて窮屈だ」というような態度をしている人を見ると、気分が悪くなるし、自分のことしか考えていない厭な野郎だと思う。
「作業着やヘルメット、シャベルカーからダンプカーまで、すべて間に合わせで済ませよ、新品や最新機種を欲しがってはいけません」と、死んだ右大臣の遺言にもあったことだし、順徳院が宮中の決まり事を書いた『禁秘抄』という参考書にも「天皇のおべべはコンビニで買えばよい」と書いてある。
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。