映像:前田家別邸の夏目漱石が浸かった湯殿。ここで前田卓(ツナ)女史と鉢合わせする。
夏目漱石ゆかりの温泉地:小天(おあま)温泉にやって来た。夏目漱石はよほど温泉
が好きなのか?それとも明治の社交場は温泉地という事情かここでも「坊ちゃん(道後
温泉)」同様名作を残している。実際にこの湯殿で起きたことを描いたのが小説「草枕」。
草枕:抜粋 { 宿の娘:那美(前田案山子(かがし)次女卓(ツナ))との遭遇シーン }
『・・・女の影は遺憾なく、余が前に、早くもあらわれた。・・・真白な姿が雲の底
から次第に浮き上がって来る・・頸筋を軽く内輪に、双方から責めて、苦もな
く肩の方へなだれ落ちた線が、豊かに、丸く折れて、流るる末は五本の指と
分れるのであろう。ふっくらと浮く二つの乳の下には、しばし引く波が、ま
た滑らかに盛り返して下腹の張りを安らかに見せる。張る勢を後ろへ抜いて、
勢の尽くるあたりから、分れた肉が平衡を保つために少しく前に傾く。逆に
受くる膝頭のこのたびは、立て直して、長きうねりの踵につく頃、平たき足
が、すべての葛藤を、二枚の蹠に安々と始末する。世の中に・・これほど自然
で、これほど柔らかで、これほど抵抗の少い、これほど苦にならぬ輪廓は決
して見出せぬ。・・・輪廓は次第に白く浮きあがる。今一歩を踏み出せば・・・・
あわれ、俗界に堕落するよと思う刹那に、緑の髪は、・・・風を起して・・・・・・・
渦捲く煙りを劈いて、白い姿は階段を飛び上がる。ホホホホと鋭どく笑う女
の声が、廊下に響いて、静かなる風呂場を次第に向(むこ)うへ遠退(の)く・・・』
鑑定:さあ、この文章を観てどう思うだろうか?漱石は画像右上の階段から降りてく
る前田家の娘ツナ(出戻り)の裸体を文章で現した。東大出のエリート教授
が表現するとこの様に面倒臭いものとなる。イヤラシサなど微塵もないのだ。
しかし、一般人ならこれは覗き表現にすぎない。藝術とはこの様に昇華する。
参照#夏目漱石 (則天去私) 探訪紀行