(オリンピック招致決定のニュースに沸くリオデジャネイロ市民 "flickr”より By visionshare
http://www.flickr.com/photos/visionshare/3975061082/)
【カリスマ性に翳り?】
16年夏季オリンピック招致はブラジル・リオで決着しましたが、初の南米、かつ、今をときめく新興国ブラジルということで極めて妥当な結論だったと思います。
東京落選については、北京オリンピックのど派手な演出がまだ記憶に新しいところですので、最初から無理があったと個人的には思っており(大方の国民も同様でしょう)、まあ、当然という印象です。
以外だったのは、前評判の高かったシカゴの1回目での落選でした。
支持層が東京と重複しており、1回目投票では、あまり無残な結果にならないよう東京の顔をたてる形で票が東京に流れた・・・・という事情も報じられてはいますが、国内に医療保険制度改革やアフガニスタン増派などの難題を抱えるなか、無理を押して出席したオバマ大統領にとっては非常に痛い結果でした。
(世論調査によると、大統領の43%がコペンハーゲン行きに反対。賛成は36%にとどまっていました。)
その高い個人的人気、カリスマ性が最大の支えのオバマ大統領にとって、そのカリスマ性に疑問を持たせる形になっただけに、今後の国内政治の舵取りにさえ懸念を抱かせる敗北でした。
****【五輪招致】オバマ大統領への批判、早くも噴出 シカゴ1回目落選で****
シカゴへの五輪招致に向けコペンハーゲン行きを強行したにもかかわらず、1回目の投票でまさかの落選という結果に終わったオバマ米大統領への批判が、早くも噴出し始めた。このところ支持率低下に直面している大統領だけに、今回の失敗がさらにカリスマ性を奪う結果となれば、政権運営にも影響が出かねない。
2日午前(日本時間3日未明)。シカゴ中心部の広場に設置された大型スクリーンの前で、早くも勝利を確信したようなお祭り騒ぎを繰り広げていた市民たちは落選の瞬間、水を打ったように静まりかえった。
期待が大きかっただけに、地元メディアからは手厳しい批判が噴き出している。シカゴ・トリビューン紙は「わがオバマ大統領の訴えに、国際社会は思ってもみなかった拒絶を示した」と意外性を強調した上で、「自らの政治的な強みを、細かなことに浪費しすぎるといった批判はますます強まるだろう」と断じた。
AP通信は、「コペンハーゲンでの派手な失敗は、オバマ大統領は政治家というより有名人といった方がよいのでは、という批判を勢いづけることになるかもしれない」と分析。医療保険制度改革など、政治的な難題への取り組みにも水を差しかねないと指摘した。
オバマ大統領自身は帰国後、「勝てなくてもすばらしい試合ができるのがスポーツの醍醐味だ」と虚勢を張るのが精いっぱいで、さすがに落胆を隠せない様子だった。【10月3日 産経】
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【自らの手で五輪開催?】
今後の政権運営への影響すら危惧されるオバマ大統領とは逆に、リオ開催を勝ち取ったブラジルのルラ大統領は、開催時の大統領復活の話すら出ています。
ブラジルでは憲法の規定で大統領(任期4年)の連続3選は禁止されており、2期目のルラ大統領は来年の大統領選には出馬できませんが、1期おいて14年の大統領選に再出馬・・・という話です。
****ブラジル:五輪追い風 ルラ大統領14年選挙に立候補も****
ブラジルのリオデジャネイロが2日、2016年の五輪開催都市に決まり、同国の中道左派、ルラ大統領(63)は大きな得点を挙げた。今も7~8割の支持率を誇る大統領は、来年末で2期8年の任期を終えるが、南米初の五輪招致を成功させたことで、いったん退任して次々回14年の大統領選に立候補し、自らの手で五輪開催を担うのではとの観測も出ている。
ブラジルのテレビは、リオ五輪開催を射止め「人生でこんな感動的なことがあるとは思わなかった」と涙を流す大統領の様子を繰り返し放送した。その人柄、親しみやすさも人気の理由だ。リオは大統領支持が高い地域。市民からは「大統領の力で五輪が決まった」という声も聞かれた。
14歳で旋盤工になり、労働組合で頭角を現した。03年の大統領就任直後は、急進左派的な経済政策を取るのではないかという否定的な観測があり、市場は大混乱した。しかし、現実的な経済政策を取ってマイナスイメージを払しょくし、国外からの投資を呼び込んだ。また、低所得者層への生活手当の充実や最低賃金の引き上げなどの政策に力を入れ、貧しい人々から絶大な支持を確立。これらの政策は、貧困層の消費意欲をかき立てブラジル経済の活性化につながった。
昨年来の世界的な金融危機への対応も素早く、ダメージを最小限に食い止めた。「ルラ大統領はブラジルの成長期にちょうど就任するという幸運に恵まれた」という見方は定着しているものの、経済界のルラ政権に対する評価は高い。
中南米諸国からの信頼も厚く、ここ数年、「ルラ大統領を見本としたい」という左派系指導者が目立つ。オバマ米大統領はブラジルの経済・社会政策を称賛。中南米を代表する政治指導者としての地位を築いている。
憲法の規定で大統領(任期4年)の連続3選は禁止されており、ルラ氏は来年の大統領選に出馬できない。ただ、1期おいて大統領に返り咲くことは可能だ。有力紙フォリャ・ジ・サンパウロのモタ論説委員は「来年の大統領選で野党が勝てば、14年に現与党候補としてルラ氏が出馬する可能性が高くなる」と分析する。【10月3日 毎日】
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【「新たな主役は私たちだ」】
ウリベ大統領のコロンビアを除いて、左派政権一色に染まった感のある中南米にあって、ルラ大統領も左派政権ではありますが、チャベス大統領などの急進派とは一線を画する中道左派、左派穏健派として現実主義的な経済運営で実績を挙げ、その人柄とともに国内人気が高く、国際的にもWTO交渉などで新興国の旗手として活躍していることは上記記事のとおりです。
ただ“左派”と称されるだけに、“オバマ大統領も称賛”とはありますが、アメリカとは一線を画する国際政治へのかかわりも見られます。
****強気のルラがねらう世界新秩序*****
大統領選における不正疑惑の渦中にあるイランのアハマディネジャド大統領と、彼を支持する宗教指導者たち。そんな彼らを民主国家ブラジルが公然と支持しているのだから驚きだ。
先頃訪欧したブラジルのルラ大統領はイラン大統領選の不正疑惑を否定し、抗議デモをサッカーファン同士の争いになぞらえた。国連人権理事会の会合に出席した後に彼は「選挙結果に異議を唱えているのは野党だけだ」と言い、アハマディネジャドをブラジルに招く意向をあらためて表明した。
これまで外交面では慎重姿勢を貫き、舞台裏での交渉を重んじてきたブラジルだが、最近はそうでもない。先進国には挑戦的な姿勢で臨み、途上国の戦略的パートナーには迎合するというのが新たな外交姿勢だ。
その背景にあるのは、経済力を付けたブラジルの国際的な威信の高まり。ルラはこの威信をてこに世界新秩序を構築する立役者となろうとしている。「G8はもう終わりだ」と、同国のアモリン外相も言う。「新たな主役は私たちだ」
その一環としてブラジルは、これまで先進国が独占してきたIMF(国際通貨基金)や国連安全保障理事会、世界銀行の主要ポストを自分たちによこすよう要求。その一方で従来の強国にけんかを売って自らの実力を見せつけようとしているらしい。
例えばアメリカ主導の米州自由貿易圏構想に反対しながら、自由貿易政策を独自に追求。OECD(経済協力開発機構)加盟でいわゆる「先進国」の仲間入りするという目標も捨ててしまった。
もっともこれは避けられない事態だったのかもしれない。ルラは多国籍企業やIMFへの痛烈な批判を武器に政治家としてのキャリアをスタートした。金融危機を引き起こしたのは「青い目の金融機関トップだ」と語るなど、その左派的な姿勢は今も垣間見ることができる。(後略)【7月8日号 Newsweek日本版】
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ブラジルはこれまで、北朝鮮やスーダンにおける人権侵害への非難に二の足を踏んでいるようですが、“反米姿勢”というのは中南米にあっては一番国民受けがよいポーズですので、どの指導者もそうした姿勢をとりがちな面もあります。
【ルラ大統領 内心は?】
ところで、ルラ大統領の個人的人気にもかかわらず、来年10月の次期大統領選挙は与党左派後継者のルセフ官房長官よりも、中道のホセ・セラ氏(サンパウロ州知事)が優勢と言われています。
このような中道・現実主義あるいは右派・保守派復権の動きは、チリやウルグアイなど他の南米左派政権国にも見られます。
もし与党左派のルセフ官房長官が次期大統領になれば、14年選挙にも引き続き彼が出てくることになりますが、現在言われているように与党敗北となれば、14年選挙はルラ氏が左派から再出馬して大統領復活、自らの手によるオリンピック開催を狙う・・・という事情のようです。
そういう事情になると、ルラ大統領としては、次期大統領選挙では与党左派の敗北を内心期待するのかも・・・というのは下衆の勘ぐりでしょうか。