(今年1月の世界経済フォーラムに出席したブレア前英首相 “flickr”より By World Economic Forum
http://www.flickr.com/photos/worldeconomicforum/3488873772/)
【アイルランド批准】
EUの機能強化・政治統合を目指す新しい基本条約「リスボン条約」の是非を問うアイルランド国民投票については、9月30日ブログ「アイルランド EU政治統合に向けたリスボン条約について再投票」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090930)でも扱ったところですが、予想されたように、3日の国民投票で圧倒的な賛成多数で条約が批准されることが決まりました。
暫定集計で賛成67.13%、反対32.87%という数字が報じられていましたので、ほぼダブルスコアだったようです。
昨年6月には批准を否決して欧州全体を慌てさせたアイルランドでしたが、昨秋以降の金融・経済危機はハイテク産業の隆盛と金融立国路線で「ケルトの虎」と呼ばれたアイルランドを直撃。銀行は経営悪化に陥り、07年に4・4%だった失業率は12%台まで急上昇。
打撃を和らげる「救世主」となったのがEUとユーロでした。経済危機で「金融立国」の夢破れたアイルランド。国民は「条約を拒めば孤立する」との不安から賛成票を投じ、経済の「守り手」の役割をEUに求めたと説明されています。【10月4日 毎日より】
リスボン条約骨子は以下のとおりです。
・任期2年半の常任議長(大統領)と、現在の共通外交・安全保障上級代表の役割を強化した外交安全保障上級代表(外相)を新設
・欧州理事会の意思決定迅速化のため、加盟国数の55%以上が賛成し、かつ賛成国の人口がEU総人口の65%以上となる場合に可決する特定多数決の適用範囲を拡大
・外交、財政、社会政策などの分野は全会一致を維持
・国際協定に調印できるようEUに法人格を付与
・全加盟国から1人ずつ選んでいた欧州委員の数や欧州委員会職員の定数を削減
チェコとポーランドでまだ大統領署名が行われていませんが、両国は近く批准する見通しとも報じられています。
ただ、イギリスの野党・保守党はリスボン条約に否定的で、来年6月までに行われる総選挙で政権をとれば、条約批准を白紙に戻す構えを見せている・・・というように、不確定要素も残されています。(実際の政策としては、イギリスひとりが孤立の道をとるというのも難しいようには思われますが)
“ブリュッセルの欧州政策センターの上級政策アナリスト、エマヌイリディス・ヤヌス氏は「条約が発効しても実行には困難が伴い、欧州の統合と拡大への道のりはまだまだ長い」との見解を示している。”【10月4日 産経】
【“嫌われブレア”浮上】
そんななかで、常任議長(EU大統領)候補として、イギリス労働党のブレア前首相の名前が挙がっています。
****初代EU大統領にブレア氏?=野党保守党は猛反発-英****
アイルランド国民投票で欧州連合(EU)の新基本条約「リスボン条約」の批准が事実上承認されたことを受けて、同条約に基づき創設される欧州理事会常任議長(EU大統領)にブレア前英首相が任命されるとの憶測が英国で強まっている。しかし、野党保守党は反発しており、独仏両国にブレア氏を拒否するよう求めていく構えだ。
ブレア氏は以前から、初代EU大統領の有力候補と取りざたされていたが、アイルランドの国民投票で条約批准が可決される見通しが強まる中、こうした憶測が最近、英マスコミで急浮上した。【10月4日 時事】
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“ブッシュのプードル”とも揶揄され、政権末期には非常に評判が悪かったブレア前首相がどうして・・・ということについては下記のような記事も。
****嫌われブレアがなぜEU大統領?*****
トニー・ブレアは英首相時代にヨーロッパで数多くの敵をつくった。03年には各国の反対を押し切ってアメリカのイラク開戦に加担した。EUを熱く支持すると口で言いながら、実際にはほとんど統合政策に関わらなかった。
そのブレアがなぜEU大統領の有力候補なのか。EU大統領は、今年秋にアイルランドが2度目の国民投票で「リスボン条約」批准を可決したら新設されるポストだ。
イギリス政府は既にブレア支持を表明。イタリアも熱心に後押ししているほか、フランスとドイツでさえ受け入れるつもりらしい。
ブレア人気はヨーロッパが変化している証拠だ。これまでEUの要職は、加盟国が駆け引きした末に選ばれた凡庸な人物が占めてきた。しかしEU大統領はヨーロッパの広報責任者であり調停役でもある。ブレアのようなカリスマ性がないと務まらない。
ブレアにはほかにも有利な点がある。まずフランス語がしゃべれる。社会主義者ではあっても市場の役割を重視しているので、保守派の反発は買わないだろう。最大の強みは、逆説的だが国籍だ。イギリスの欧州懐疑主義を和らげるには、イギリス人をトップに据える以上の良策はない。【8月5日号 Newsweek日本版】
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【保守党反発 仏独の思惑】
“イギリスの欧州懐疑主義を和らげるには、イギリス人をトップに据える以上の良策はない”とのことですが、返り咲きが予想されている野党・保守党にあっては、野党に追い落とした“仇”ブレア前首相へのアレルギーは相当なものがあります。
****「ブレアEU大統領」阻止を 英保守党、条約発効で****
「ブレア前英首相の欧州連合(EU)初代大統領就任を阻止せよ」。英中部マンチェスターで5日開幕した英最大野党、保守党の年次大会で、EU大統領に本命視されている与党労働党出身のブレア氏の就任を阻もうとする動きが加速している。
アイルランドがEUの新基本条約「リスボン条約」批准を決定したことを受け、条約発効に伴って新設されるEU大統領の人選が焦点になる中、保守党を野党に追いやった「政敵」の復権阻止は最重要課題ともいえそうだ。
「ブレア(前首相)はセールスマンのような男だ」。党大会初日の5日の演説でこう断言、ブレア氏の大統領就任に反対を呼び掛けたのはジョンソン・ロンドン市長。イラク戦争参戦で米国に追随、国民の支持を失って退陣したブレア氏が今になってなぜ、EU大統領のような重責を担うことになるのか。党大会に集まった多くの保守党関係者の一致した見解だ。
英紙タイムズが5日発表した世論調査によると、英国民の53%がブレア氏の就任に反対。保守党支持者の間では反対が約7割にも上っており、保守党の「ブレア・アレルギー」は一層鮮明になった。
英各紙によると、党大会開催と並行して、保守党幹部は人選の鍵を握るドイツやフランスなどの首脳に「ブレア反対」を伝達するなどロビー活動を開始。来年6月までの総選挙で政権への返り咲きが濃厚なだけに、「各国も保守党の意向を無視できない」(同党関係者)との見方も出ている。【10月6日 共同】
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イギリスとフランス・ドイツのせめぎあいのなかで、先ずはイギリス保守党が一番嫌う“ブレア前首相”で揺さぶりをかける・・・といった思惑もあるとも。
****「EU大統領」にブレア氏浮上…知名度抜群、弱みは母国****
EUは週明け以降、条約発効と同時に新設される欧州理事会常任議長(EU大統領)の人選に着手する。英国のブレア前首相が有望視される一方、加盟国間の利害調整には小国出身者が適任との意見も出ている。
「サルコジ仏大統領がブレア氏支持を決めた」。英紙ザ・タイムズは2日、消息筋の話としてそう報じた。サルコジ大統領は以前にルクセンブルクのユンカー首相の名を挙げ、「常任議長にふさわしい」と発言したこともある。
ブリュッセルのEU関係者の間では、オランダのバルケネンデ首相、ベルギーのファンロンパウ首相らの名も浮上している。選考は加盟国間の水面下の調整で行われ、最終的に首脳会議で採決される。
常任議長は、27加盟国間の利害調整に加え、対外的な「顔」としてEUの影響力向上を図る役割を担う。国際社会で知名度抜群のブレア氏だが、母国の英国がユーロ圏ではなく、出入国審査免除協定にも加盟していないなど、欧州統合に消極的という弱点がある。ユンカー氏は、ユーロ圏財務相会合の常任議長を務めており、調整手腕には定評があるが、欧州域外では無名に近い。
「ブレア待望論」の背景には、仏独と英国のせめぎ合いもありそうだ。英国の野党・保守党はリスボン条約に否定的で、来年6月までに行われる総選挙で政権をとれば、条約批准を白紙に戻す構えを見せている。これに対し、条約の早期発効を目指す仏独は、EUトップにブレア氏を引っ張り出すことで、揺さぶりをかけているという見方だ。【10月4日 読売】
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ブレア前首相が常任議長となれば、常任議長というポイトが文字通り“EU大統領”的な重みを持ってくることも考えられます。
ただ、ブレア前首相が“EU大統領”として振舞えば、サルコジ仏大統領あたりと衝突しそうな気もしますが。
さて、どうなりますか。