(コンゴとの国境が近いEzo難民キャンプであくびする赤ちゃん “flickr”より By bbcworldservice
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【圧力と見返り】
このブログでも再三取り上げたように、アフリカのスーダンは西部のダルフール地方におけるアラブ系中央政府による黒人住民への無差別襲撃、北部の中央政府と南部のスーダン人民解放軍の間の南北包括和平合意が履行されるか・・・という大きなふたつの政治問題を抱えています。
特に、「史上最悪の人道危機」と呼ばれるダルフール紛争では、国連推計で約30万人が死亡、250万人が難民・国内避難民となっており、国際的批判を浴びているバシル大統領に対して、今年3月には国際刑事裁判所(ICC)が人道に対する罪などでの捕状を発行しています。
また、イラン、キューバ、シリアとともに、アメリカからは「テロ支援国家」に指定されて制裁対象となっています。
オバマ政権は、従来の強硬路線から、イラン・北朝鮮・ミャンマーなど「敵国」との対話をも重視する方向に政策転換していますが、スーダンについても「圧力と見返り」を基本とする路線に転換をはかっています。
****米国:対スーダン新政策、強硬姿勢を転換 圧力と見返り*****
オバマ米政権は19日、新たなスーダン政策を発表した。
西部のダルフール紛争を抱えるスーダン政府に対し、オバマ大統領は昨年の大統領選当時、「真の圧力を加えるべきだ」として、ブッシュ前政権より強硬な姿勢を取ると主張。だが新政策は「圧力と見返り」が基本で、スーダンのバシル政権への関与を深める内容になった。
クリントン国務長官は同日、記者会見し、新政策は「三つの主な目的がある」と言及。▽ダルフール紛争での大量虐殺と人権侵害の終結▽北部の中央政府と南部のスーダン人民解放軍(SPLA)が05年に署名した南北包括和平合意の履行▽スーダンをテロ組織の避難場所にしないこと--を挙げた。
オバマ大統領は同日発表した声明で、今週後半に対スーダン制裁を更新するとし、「和平を推進すれば見返りがあり、しなければ米国や国際社会の圧力がある」と指摘した。「見返り」についてクリントン長官は「政治的、経済的なメニューがある」とだけ述べ、詳細な説明を避けた。米メディアによると、テロ支援国家の指定解除も検討対象という。
オバマ政権内ではスーダン政策を巡り、ライス国連大使ら強硬派と、「バシル政権への関与なしにスーダンに和平はない」と主張するスーダン担当特使のグレーション氏が対立。両者の折衷案がとられることになった。ダルフール紛争に関連し、国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑でバシル大統領に逮捕状を発行。米政府高官は「バシル氏個人と協力するつもりはない」と語る一方、「他の政権高官との関係を深め、政策の達成は可能」と強調した。(後略)【10月20日 毎日】
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アメリカの新政策は、ICCのバシル大統領への逮捕状に関する国際社会の足並みの乱れを更に複雑化させそうだとの観測もなされています。
【南部で激化する部族衝突】
そのスーダンの国内では、最近、南部における民族衝突が激しくなっています。
“AFP通信によると、20日朝、南部ジョングレイ州のドゥク・パディエト村が武装集団に襲われ、治安当局と戦闘になった。住民51人を含む100人以上が死亡、住宅2千軒が放火された。南部の主要民族ディンカの村だ。
武装集団は、ディンカと対立関係にある民族ロウヌエルの男たちとされる。ディンカが住む別の二つの村でも8月、襲撃で60人以上が死亡している。”【9月24日 朝日】
スーダン南部地域は、20年以上に及ぶ内戦後、05年の包括和平合意を受けて誕生した自治政府が管轄していますが、南部に集中する石油資源を巡り、自治政府と北部を拠点とする中央政府の対立は解消されていません。
10年4月に大統領選が、11年には南部スーダンの独立を問う住民投票が予定されていることもあって、南部の部族間抗争に乗じ、南部スーダンの不安定化を狙った北部・中央政府側の関与も指摘されています。
国連によると、今年だけで2千人以上が殺され、25万人が家を追われています。
【干ばつ】
こうした南部の部族衝突の背景には、南北間の政治対立だけでなく、南部を襲っている深刻な干ばつが各部族を生き残りをかけた戦いに駆り立てている側面があります。
****スーダン南部で深刻な干ばつ、150万人が草で飢えしのぐ*****
いまだ内戦の痛手からの回復途上にあるスーダン南部の農村地域では現在、初夏の深刻な干ばつが原因で作物が育たず、百万人以上が草を食べて飢えをしのぐ状況に陥っている。
東赤道州のLobira Boma村で、Latuka族の女性が食べ方を見せてくれた。すり鉢代わりの石のくぼみで草をすりつぶし、細かい粉にする。「これをこうやって水に浸して、それから食べるんだ。毎日これを食べているよ」
この地方では、農民はソルガム(モロコシ)や雑穀、ピーナツなどを育てているが、これらの作物の栽培はなによりも雨が頼りだ。今年は5~6月の大干ばつで作物がほぼ全滅してしまった。「収穫がなく、食べるものがない。市場で穀物を買わなくてはならないが、そんな金はわれわれにはない」と副村長。(中略)
世界食糧計画(WFP)によると、干ばつに加えて物価上昇や部族間抗争の増加で、南部スーダンに暮らす150万人の食糧事情が脅かされている。【10月12日 AFP】
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【戦車は20台あるのに救急車はたったの1台】
干ばつは単に気候の問題ではなく、国民の生活を守るべき政治が機能していないことによる結果です。
内戦、部族衝突、干ばつによる飢餓・・・そうした殆ど国家機能が麻痺した状況で、直接的な犠牲者以外にも、更に多くの命が失われています。
****予防可能な病気で死亡する子どもは年間30万人、紛争国スーダン*****
ダルフール紛争を抱えるスーダンでは、予防可能な病気により5歳未満で死亡する子どもの数が毎年30万人以上にのぼっており、うち3分の1は生後1か月以内に死亡している――。ユニセフ(UNICEF)が27日、このような統計を発表した。
ユニセフ・スーダン事務所のニルス・カストバーグ所長が明らかにしたもので、スーダンでは毎年、30万5000人の子どもが予防可能な病気により5歳未満で死亡しており、そのうちの11万人は生後28日以内に死亡しているという。
人口5億5000万人のラテンアメリカとカリブ海諸国で出産が原因で死亡する女性は1年に1万人未満だが、人口約4000万人にすぎないスーダンでは毎年約2万6000人の女性が出産が原因で死亡しているという。
カストバーグ所長は「優先順位を正しく付けて対処する必要がある。わたしが最近出向いたある街では、戦車は20台あるのに救急車はたったの1台というありさまだった」と話した。
同国は現在も紛争状態にある。北部と南部の間で20年間にわたり続いてきた内戦が03年のダルフール紛争の引き金となり、この紛争ではこれまでに推定30万人が死亡している。また、05年に自治領となった南部の一部地域では、現在も部族抗争が続いている。【10月28日 AFP】
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「史上最悪の人道危機」の責任者であり、ICCから逮捕状も出ているバシル大統領との対話には批判的な意見もありますが、単に制裁を課して放置するだけでは、上記のような干ばつによる飢餓や子供の犠牲者を救うことはできません。
“戦車は20台あるのに救急車はたったの1台”という現状を転換し、国民の救済に資する形での“対話”なり“見返り”となるように留意してもらいたいものです。