孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オバマ大統領のノーベル平和賞受賞 よりよい未来に向けての人々の希望実現へ

2009-10-10 14:16:58 | 国際情勢

(4月5日 プラハでのオバマ夫妻 “flickr”より By adrigu
http://www.flickr.com/photos/97793800@N00/3414724749/

【すべての国の人々の願望を代表して米国の指導力が肯定されたもの】
昨夜、ネットのニュースサイトで「オバマ米大統領、ノーベル平和賞」の見出しを見て、ジョークか皮肉か、その類の記事かと思いました。内容を読み文字通りの受賞と知り、正直驚きました。
メディアは今、この件に関する記事で溢れていますので、私が敢えて書くべきこともないのですが、極めて妥当な、喜ぶべき受賞ではないかとの感想を持っています。

ノーベル賞委員会が発表した平和賞授賞理由の全文は以下の通りです。
****外交に比類ない努力…平和賞授賞理由の全文******
本委員会は国際的な外交と諸国民の協力強化に向けたオバマ大統領の比類なき努力を理由に授賞を決めた。とりわけ「核兵器のない世界」の構想とそれに向けた取り組みを重視した。
オバマ氏は国際政治に新たな環境をもたらし、国連をはじめ国際機関の役割を重んじる多国間外交が中心的な位置を回復した。困難な国際紛争の解決手段として対話と交渉が優先される。「核兵器のない世界」を目指す構想は、軍縮交渉を力強く促した。オバマ氏の主導で、米国は今や、世界が直面する気候変動問題でより建設的な役割を演じている。民主主義と人権は強化されよう。

オバマ氏ほど、世界の注意をひきつけ、よりよい未来に向けて人々に希望を与えた人はめったにない。彼の外交は、世界を主導する者は世界の大多数の人々が共有する価値と態度に基づいて行動しなければならないという考えに立脚している。
本委員会は108年間、オバマ氏が今まさに提唱する国際的な方針を促すことを目指してきた。「今は、地球規模の課題に対処するため、我々全員が応分の責任を果たすときだ」とのオバマ氏の訴えを支持する。【10月9日 読売】
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これに対し、オバマ大統領は受賞に関する声明で、「受賞は私の業績への評価とは受け止めていない」と述べ、「世界の人々の希望」が米国のリーダーシップに寄せる期待を確認したものだと語っています。
*****ノーベル平和賞:オバマ氏「深く謙虚に受け止め」と声明******
ノーベル賞委員会の決定に驚き、深く謙虚な気持ちで受けとめている。これは私自身が成し遂げたこととは思っていない。すべての国の人々の願望を代表して米国の指導力が肯定されたものとして受けるのだ。ノーベル賞の歴史を見ると、受賞が特別な業績にだけでなく、大義に弾みをつける手段として用いられたこともある。だから、この受賞を行動を呼び掛けるものとして受け入れる。すべての国に21世紀の共通する挑戦に直面することを求めるものだ。

我々は核の恐怖の中で生きることはできない。だから私たちは核兵器なき世界を目指す具体的な措置を開始した。すべての国は核利用の意図が平和目的であることを明示しなければならない。
気候変動がもたらす脅威も容認できない。我々はエネルギーの使い方を変えなければならない。人種や宗教が異なる人々との新たな関係を築かねばならない。イスラエルとパレスチナの人々が平和に生きる権利を認識しなければならない。
すべての人が教育を受け、疫病や暴力などの恐怖のない、まっとうな生活ができるようにすべきだ。

すべての問題が私の任期中に解決できるわけではない。だが、一人の人間や一つの国だけで解決できないと分かっていれば、これらの問題は解決できる。この賞はすべての人々が分かち合うべきだ。【10月10日 毎日】
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【スタートラインに立つことの意義】
「核兵器のない世界」を訴えたプラハ演説、イスラム社会との“新たな始まり”を訴えたカイロ演説にもかかわらず、「言葉だけで、まだ何も実現していない」との批判があります。
最近、支持率が下降しているアメリカでも、冷ややかな見方は少なくないようです。
確かに、「核兵器のない世界」はこれからの課題であり、見えるのは高いハードルばかりの感はあります。
中東和平も、3首脳会談にもかかわらず、困難さだけが浮き彫りになっています。
イラン、北朝鮮、ミャンマーなどの国々への対話の呼びかけも、まだ見るべき成果は挙げていません。
また、泥沼化するアフガニスタンの現実もあります。

ただ、“何も実現していない”というのも、やや言い過ぎのようにも思えます。
「核兵器のない世界」についても、前回05年の会議では事前に議題ですら合意できず、1か月の会期の半分以上が議題の討議で費やされた核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた準備委員会は5月、最大の焦点だった議題について合意しました。(交渉の中身を巡る対立は依然解消されず、問題は先送りされた形ではありますが)

ジュネーブ軍縮会議も5月、「兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)」の交渉開始を全会一致で決めました。核軍縮に関する本格的な多国間交渉は、軍縮会議で96年に条約案がまとまった核実験全面禁止条約(CTBT)以来13年ぶりとなります。(その後は予想通り難航し、結局年内交渉開始は断念されることになりましたが)

9月24、25日に開催された包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進会議に、前政権下で欠席を続けたアメリカは10年ぶりに復帰しクリントン国務長官を派遣しました。
また、国連安全保障理事会は9月24日、拡散・核軍縮に関する初の首脳会合をオバマ大統領を議長として開き、米国提案の「核兵器のない世界」を目指す決議を全会一致で採択しました。

ロシアが猛反対していた東欧でのミサイル防衛(MD)計画の見直しによって、第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約を巡る米露交渉の進展が期待されており、ロシアの対イラン核問題への協力も得られる形となっています。(ロシアが具体的な制裁という場面で、どこまで協力するかは不透明ですが)

こうした動きは、その後の交渉が進展していないことや、その実効性に問題があるにせよ、オバマ大統領の「核兵器のない世界」への表明を受けたものであり、少なくとも“動き出した”ことにおいては評価できるものかと思われます。
温暖化対策においても、国際協調の場に世界のリーダーであるアメリカが復帰したことは、まず出発点に立てたという意味で大きな前進です。

“まだ何も実現していない”という批判には、誰かスーパーマンが現れて難問を一挙に解決してくれるのではという幻想があるのではないでしょうか。
問題の解決は決して一国、ひとりの力ではどうにもならないものであり、長い時間をかけた試行錯誤をともなった、場合によっては“一歩後退”的な場面も含めて、地道な取り組みが必要です。
冷ややかに傍観するだけでなく、そうした努力のスタートラインに立つことは、実現の可能性が持たれるという意味で、大きな意義があることです。

【We can】
今回の受賞は、アメリカ大統領として初めて包括的な核廃絶への道筋を提示し、多国間主義に基づく国際協調に再び希望を抱かせたことに対するものです。
就任わずか8か月余の大統領が成し遂げた「業績」でなく、世界に投げかけた「理念」への評価であり、その理念が“よりよい未来に向けて人々に希望を与えた”ことに対するものです。
オバマ大統領が言うように“すべての国の人々の願望を代表して米国の指導力が肯定されたものとして受ける”ものです。

オバマ大統領の登場で、世界の空気が変化しました。この世界が変えられるのではないかという希望が多くの人々に与えられました。
この“変化への希望”という一点においても、十分に受賞に値するものだと思います。
その変化・理念の実現には、オバマ大統領ひとりではなく、世界中の国々、人々の地道な努力が必要になります。
決して“Yes, I can.”ではなく、“We can”です。

そして、その希望が幻想に終わらないように、世界中の国々、人々の地道な努力の後押しをするための今回受賞だったと考えています。

コメント (1)
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