(“8月1日に死去したフィリピンのアキノ元大統領の遺体を納めたひつぎが3日、マニラ首都圏を巡った。地元メディアなどによると、約12万人の市民が沿道に出て別れを告げた。ひつぎを乗せた車両が通ると、詰めかけた群衆から黄色い紙ふぶきが舞い、そこかしこで「ありがとう」と声が上がった。”【8月3日 毎日】
“flickr”より By Primum Non Nocere
http://www.flickr.com/photos/primum_non_nocere/3784592234/)
最近、アジアでは台風・豪雨、地震・津波の大災害が続いていますが、フィリピンでは、台風16号「ケッツァーナ」による大洪水により240人の死者(9月29日時点)が出ました。
【1年ぶりに終息】
そのフィリピン南部ミンダナオ島で続いていたイスラム反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」と国軍の戦闘はようやく終息に向かっています。
政府側とMILFの和平交渉が昨年8月に決裂して以降、国軍によると戦闘で双方で約350人が死亡しており、子供や高齢者を中心に避難民268人が衛生上の問題などから死亡しています。
政府側は7月23日に停戦を宣言、MILFも25日、戦闘の一時停止を宣言しました。
MILF側には、停戦は7月の訪米を控えたアロヨ大統領が成果をアピールするための一時的なもので、訪米後には国軍側が再び挑発行為を繰り返すのではないかと懸念する声もありましたが、和平交渉に向けての枠組み作りがなんとか進んでいるようです。
****フィリピン:政府とMILFが国際交渉団設置で合意*****
フィリピン政府は16日、ミンダナオ島を拠点とする反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」との協議で、双方の和平交渉にオブザーバー参加する国際交渉団の設置で合意したと発表した。
交渉団には、イスラム諸国会議機構(OIC)や欧州連合(EU)が参加する見通し。MILF側は日本が参加する可能性も高いとしている。
比政府は「国際交渉団の設置により、1年に及んだ戦闘で中断していた本格的な和平交渉が再開されることを望む」と期待を表明した。【9月16日 毎日】
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記事にもあるように、日本にも国際交渉団への参加要請がありました。
*****フィリピン:反政府組織、日本に国際交渉団への参加要請*****
フィリピン南部ミンダナオ島で自治権拡大を求め政府と衝突を続ける反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」は24日、日本政府に対し、和平交渉にオブザーバーとして加わる国際交渉団への参加を正式に要請した。MILFのイクバル和平交渉団長が毎日新聞の取材に明らかにした。
日本政府は、和平交渉のもう一方の当事者の比政府側から正式要請があった段階で、受諾するとみられる。国際交渉団には、イスラム諸国会議機構(OIC)や欧州連合(EU)が参加する見通し。すでに要請を受けている英国は、国際交渉団へ参加する意思を表明している。【9月24日 毎日】
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その後は情報は確認できていませんが、鳩山政権・岡田外相にとってもいい舞台ではないでしょうか。
もうひとつのイスラム原理主義過激派アブサヤフとの方は、まだ戦闘が続いているようで、8月12日には、国軍とアブサヤフの交戦で少なくとも53人が死亡したことが報じられています。
【“イスラム教徒に敬意を表するため”】
ミンダナオ島を中心に多くのイスラム教徒を抱えて紛争が絶えないキリスト教国フィリピンですが、こんなニュースもありました。
*****国旗の太陽の光が一つ増える?=両院協議会が合意-比*****
フィリピン国旗に描かれている太陽の8本の光を1本増やす法案がこのほど、同国の上下両院協議会で承認された。光はスペインからの独立を求めて決起した8州を示しているが、新たな光は同じく侵略に抵抗したイスラム教徒に敬意を表するために加えられる。法案が今後両院で可決されれば、光が9本になる可能性が高い。【9月26日 時事】
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“侵略に抵抗したイスラム教徒に敬意を表するため”というのは、今になってどういうことかと、「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」との和平交渉に絡んだものか?・・・と、訝しく思ったのですが、フィリピンに妻子が暮らす知人に話したところ、「大統領選挙をにらんでの、イスラム教徒向け人気取り政策ではないか」とのこと。
さもありなん・・・というところです。
【次期大統領選挙に向けて】
来年5月で任期が切れ、再選が禁じられているアロヨ大統領は、改憲で議院内閣制を導入し、首相として権力を維持しようとしていると言われ、これに反対するグループが連合体を結成し、反アロヨ大統領の動きを強めているとの報道もありました。
アロヨ大統領が権力に固執する背景として、憲法改正に反対する連合体結成の仕掛け人の一人で、アロヨ大統領の下で01年から05年まで社会福祉開発相を務めたコラソン・ソリマン氏は、「汚職にまみれており、権力を失った途端に逮捕されるのを恐れているからだ。彼女には権力が必要で、権力が彼女に金を与え、権力と金が周囲の人々を従わせている。私が閣僚に就いていたころ、彼女の取り巻きに“いかなる代償を払っても、政治的に生き残ることが重要だ”と言われたことがある。」と話しています。【7月28日 毎日より】
フィリピンの政局は次期大統領選挙に向かって走りだしており、いろんな人の動きも伝えられています。
その一人は、銀幕のスターから大統領になったものの、不正蓄財などで終身刑の判決を受け、恩赦で釈放されたエストラダ前大統領。
****恩赦の前大統領が映画復帰=エストラダ氏、選挙の布石か-比*****
人気映画俳優からフィリピンの大統領になったものの、不正蓄財などで終身刑の判決を受け、恩赦で釈放されたエストラダ前大統領(72)が約20年ぶりに映画界に復帰することになり、このほど撮影が始まった。インクワイアラー紙(電子版)が報じた。
エストラダ氏は来年5月の大統領選の出馬を検討しているとされる。任期途中で辞任したため、再選を禁じる憲法規定も適用されないと主張しており、映画出演は大統領選に向けたアピールとも言えそうだ。
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本人が出馬するのか(できるのか)はともかく、議会から弾劾の訴追を受け、逮捕で政治生命も終わったとの印象があったこの人は、恩赦後も野党陣営に大きな影響力を持つ実力者だとのことです。
【「ピープルパワー」のヒロインの長男も】
もう一人、最近名前を見たのが、8月1日に亡くなったコラソン・アキノ元大統領の長男ベニグノ・アキノ上院議員。
「コリー」の愛称で親しまれたコラソン・アキノ元大統領は、マルコス独裁打倒のため帰国したところマニラ国際空港で暗殺された悲劇の政治家ベニグノ・アキノ上院議員の妻でもありますが、大統領選挙に出馬してマルコス大統領と争い、「ピープルパワー」の大波に乗ってマルコス追放、大統領就任を実現しました。
ただ、任期中の評価はさほど高いものではありませんでした。
“「ピープルパワー」に乗った「国民和解」はしかし、マルコス派と反マルコス派の対立解消にとどまらず、共産ゲリラとの和平、そのための農地改革、イスラム教徒ゲリラとの和平など革命的領域にまでおよび、それらに異を唱える軍内、政界の不満分子による反乱や地主らの抵抗に遭って結局、尻すぼみに終わる。
政策面では目に見える実績を残せず、大統領任期中に起きた大小7度の反乱事件を凌(しの)ぎきっただけで、アキノ時代は幕を閉じた。アキノ政権は軍内保守勢力や富裕層の寄り合い所帯にすぎず、はなから限界をはらんでいたというほかない。(中略)女性らしいソフトな政権運営とイメージで、長期独裁体制後の、そして冷戦末期から冷戦後への不安定期を乗り切って政権を維持し、後任にバトンを渡したという意味では、移行期にふさわしい指導者だったかもしれない。今にしてそう思う。”【8月2日 産経】
そのコラソン・アキノ元大統領の死亡はフィリピン国民に、23年前、街頭に出た無数の市民が独裁政権を倒し、世界に強烈な印象を残した「ピープルパワー革命」のヒロインの記憶を強く呼び覚ましたようです。
その長男ベニグノ・アキノ上院議員も、次期大統領選挙への出馬を表明しています。
****故アキノ元大統領の長男、大統領選出馬を表明 フィリピン****
前月死去したコラソン・アキノ元大統領の長男ベニグノ・アキノ上院議員(49)は9日、来年行われる大統領選に出馬する意向を表明した。故フェルディナンド・マルコス元大統領の20年にわたる独裁政権を転覆させた母親の偉業の継承を目指す。(中略) 議会議員を11年務めるベニグノ氏だが、大統領選への立候補を真剣に考え始めたのは、元大統領の死後、アキノ家に対する支持の大きさを目の当たりにしてからだという。
貧困が広がるフィリピンで、ベニグノ氏は「富裕層や既得権益をもつ人たちだけでなく、あらゆる人に民主主義が機能するようにしたい」と意気込みを語った。【9月9日 AFP】
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なかなかにぎやかな選挙戦になりそうです。
「ピープルパワー革命」はフィリピンの民主主義を象徴するものではありますが、普段の地道な「富裕層や既得権益をもつ人たちだけでなく、あらゆる人に民主主義が機能する」政治の実践は、革命以上に真の“民主主義”が必要とされます。