(前回選挙の際の、投票を呼びかける看板。 兵士が守っているから、自爆テロに巻き込まれたり、タリバンに指を切り落とされたりすることはありません・・・というメッセージでしょうか。この地での投票は命がけです。
“flickr”より By Todd Huffman
http://www.flickr.com/photos/oddwick/3820021436/)
【「新政権の正統性の担保につながる」】
このところパキスタンやアフガニスタンの話題を扱うことが多くなっていますが、昨夜から今日にかけて一番話題となっているのは、やはりアフガニスタンの大統領選挙の件です。
来月7日に決戦投票となったようですが、国際社会はこの決戦投票実施を歓迎しています。
“大規模な不正が指摘されるなかでカルザイ氏がそのまま当選を決めれば、新政権の正統性に疑問符がつきかねないうえ、反カルザイ派の反発による混乱も懸念されることから、欧米諸国などは決選投票の受け入れをカルザイ氏に働きかけてきた。国連アフガニスタン支援団の関係者も「正統性への疑問を引きずらないためにも大歓迎」と話す。”【10月20日 毎日】
****カルザイ、アブドラ両氏に電話=決選投票を歓迎-米大統領****
オバマ米大統領は20日、アフガニスタンのカルザイ大統領、アブドラ前外相にそれぞれ電話し、同国大統領選挙で両者による決選投票の実施が決まったことを歓迎する意向を伝えた。ホワイトハウスが発表した。
オバマ大統領はカルザイ氏に対し、決選投票を受け入れたことについて「アフガン国民にとり最善の決定だ」と称賛。今後もアフガンへの支援を続けていく方針を示した。【10月21日 時事】
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【「無意味な選挙に何度も投票に行くほどひまじゃない」】
しかし、この決戦投票の結果、何か事態が好転する期待があまりもてない、むしろ徒労感を抱かせるような印象を個人的には感じます。
****アフガン大統領選、11月7日に決選投票*****
アフガニスタンの選挙管理委員会は20日、8月20日に投票があった大統領選の決選投票を11月7日に実施することを決めた。暫定1位のカルザイ現大統領の得票率が不正調査の結果、決選投票を待たずに当選できる過半数を割り込んだためだ。大規模な不正が顕在化するなか、国際社会は「新政権の正統性の担保につながる」と歓迎しているが、課題も山積している。
選管によると、カルザイ氏は暫定結果で54.6%を得票していたが、不正票を差し引いた結果、最終的に49.67%と過半数に届かなかった。決選投票は、暫定結果で27.8%と2位につけたアブドラ前外相との間で争われる。
カルザイ氏は20日、カブールで記者会見し、「1回目の投票は不正の汚名を受けた。選挙の合法性を確保するため、決選投票に進まなければならない」と述べて受け入れる考えを表明。アブドラ氏側も歓迎の意向を示した。同国初の大統領選となった04年の前回選挙ではカルザイ氏が第1回投票で当選しており、決選投票が行われるのは初めてとなる。(中略)
だが、決選投票の実施には多くの難題がある。アフガンでは早ければ今月末にも雪が降り始め、国土の多くを覆う山道を閉ざす恐れがある。投票できない人が続出する可能性もあり、正統性への疑問につながりかねない。
また、タリバーンなど反政府武装勢力による妨害行為も懸念されている。8月の投票の際には投票所にロケット弾が撃ち込まれたり、選管職員が殺害されたりした。
不正をどう防ぐのかも大きな課題だ。8月の投票では日本などから約1100人の国際監視団が入ったが、6千カ所以上の投票所の監視には少なすぎるうえ、治安上の問題で監視団が行けない地域が多かった。再び大規模な不正が起きれば、新政権の信頼性は地に落ちることになる。
長引く選挙に、市民の間にはいらだちやあきらめも広がる。カブールの携帯電話店員ハビブラさん(20)は「選挙でテロが増え、客が出歩かなくなった。とにかく早く決めてほしい」。織物商のガジ・ムハンマドさん(32)は「どうせ次も不正だらけ。無意味な選挙に何度も投票に行くほどひまじゃない」と声を荒らげた。 【10月20日 毎日】
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単に、降雪やタリバンの妨害、選挙管理という円滑な実施を阻む要因だけでなく、決戦投票を行うことがもたらす新たな混乱、外国勢力の介入のイメージという問題もあります。
【国際社会介入の印象】
****アフガン大統領選 民族対立に発展懸念 さらなる政治的混乱も*****
アフガニスタン大統領選は、不正票をめぐる2カ月の混乱を経て、カルザイ氏とアブドラ元外相による決選投票の実施が決まり、ようやく大統領選出に向けたプロセスが前進した。だが、治安などアフガンを取り巻く状況は8月の選挙から悪化の一途をたどっており、決選投票が公正に行われる保証もない。決選投票実施を歓迎する米国などとは裏腹にアフガン国民の心中は複雑だ。
「8月の選挙は命の危険をおかして投票した。でも、決選投票には行かない」
地元記者によると、カブールに住む多数の有権者がこう語っているという。8月選挙の投票率は38・17%。決選投票ではそれを大きく下回る20%台にまで落ち込むとの予測が出ている。カルザイ大統領は20日の記者会見で「投票率が上がることに期待したい」と期待を述べたが、現在の治安状況を考えれば、投票率アップは望み薄といえる。(中略)
一方、両候補の一騎打ちはさらなる政治的混乱を起こし、国内を一層不安定化させる可能性がある。決選投票では、最大民族パシュトゥン人であるカルザイ氏の優勢は揺るがないとみられているが、第2民族のタジク人のアブドラ氏に「3位のハザラ人が支援に回る」(アブドラ陣営)との見方も出ており、民族対立に発展する可能性もはらむ。
また、有権者には、国際社会が自分たちの選挙に必要以上に介入し、結果をねじ曲げたとの思いも広がる。カルザイ氏は今回、米国などの再三の説得によって決選投票を受け入れた。20日の記者会見は米国のケリー上院議員と並んで行われており、アフガン国民には、カルザイ氏が米国の圧力に屈したとも映る。
この2カ月間に、国民と国際社会の間に生まれた摩擦は、カルザイ氏自身も含め、同国の行く末に大きな影を落としたといえる。【10月21日 産経】
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アメリカは、汚職が横行し統治能力を示せないカルザイ政権に冷ややかですし、カルザイ大統領はアメリカなどの空爆による民間人犠牲を常に批判しています。
今でも、カルザイ大統領とアメリカの関係はこのように溝がありますが、今回アメリカが決戦投票実施を強く迫ったことで、この溝は更に深いものになったと思われます。
これだけの問題・課題を抱えながら「新政権の正統性」のために敢えて決戦投票を行い、その結果おそらく投票率は20%台・・・というのが“徒労感”を抱かせる原因です。
【民主選挙神話】
駐留米軍トップのマクリスタル国際治安支援部隊司令官が「増派したとしても、アフガン政府の汚職体質が改善されない限り、情勢好転は望めない可能性がある」と述べているように、アフガニスタン政権のグッド・ガバナンスが不可欠であり、そのためには「新政権の正統性」が重要・・・ということなのでしょうが。
もっとも、軍閥・地方有力者にポストをばらまいているカルザイ新政権でも、あるいはそのミニ版であるアブドラ新政権でも、“汚職体質”がすぐに変わるとも思えません。
民主的な選挙を行えば社会もよくなる・・・という民主選挙神話にもかかわらず、ケニヤでもジンバブエでもイランでも、選挙によって混乱が増幅されています。
また、アメリカが民主的選挙を強く求めた結果、パレスチナではハマス政権が生まれ、エジプトではイスラム原理主義勢力が台頭するといったことも、かつてありました。
もちろん、民主的な選挙の価値を否定するものではありませんが・・・。
タリバンとの戦闘状態にあるアフガニスタンに“ないものねだり”しても仕方がないという感じもしています。
重要なのは形式的な正当性ではなく、いかに汚職体質を一掃し、国内統治の改善につとめる新政権に近づけるか・・・ということでしょう。そのため新政権・国際社会は何ができるかということでしょう。