(イラン革命防衛隊幹部が標的となった18日の自爆テロは、イラン東南部シスタンバルチスタン州ピシン(Pisheen)で起きました。ピシンはパキスタン国境の町です。イランとパキスタンに両脇から包みこまれるような位置にあるのがアフガニスタンです。“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4024195401/)
昨日の「パキスタン軍 南ワジリスタン地区でのイスラム武装勢力への本格攻撃開始」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091018)に続き、パキスタンの話題。
【政府・主要野党との会合で決定】
昨日も取り上げたように、パキスタン軍は17日、3万人以上の兵力を投入し、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の活動拠点であるアフガニスタン国境の北西部部族地域・南ワジリスタン地区の地上掃討作戦を開始しました。
報復テロの激化、難民の増加など多大の負担を伴う今回の作戦について、パキスタン国内でどの程度意思統一できているのかが気になったのですが、“地元紙によると、掃討作戦の開始は政府と主要野党による16日の会合で決定された。”【10月18日 産経】とあります。
“主要野党”と言うからには、人民党・ザルダリ政権の最大の政敵であり、よりイスラム色が強く国内イスラム原理主義政党とも連携することがあるパキスタン・ムスリム連盟シャリフ派のシャリフ元首相も賛同したということでしょう。
一応、国内の政治的コンセンサスは得ているということでしょうか。
【ISIのタリバン支援】
掃討作戦にあたる国軍のなかはどうなっているのでしょうか?
以前から、国軍において影響力の大きい諜報機関・軍統合情報部(ISI)はアフガニスタンのタリバンの生みの親でもあることから、イスラム原理主義勢力と今も強い絆があるとも言われています。
****パキスタン諜報機関がタリバン支援、狙いは西側援助=アフガン政府顧問****
アフガニスタンのスパンタ外相の上級政策顧問であるダブード・モラディアン氏は、ロイターのインタビューに答え、同国で自爆テロなどの攻撃を繰り返す武装勢力に対し、隣国パキスタンの諜報機関である軍統合情報部(ISI)が支援を行っているとの見方を示した。
英国際戦略研究所のセミナーでロンドンを訪れたモラディアン氏は、ISIによる武装勢力の支援について、核保有国であるパキスタンが不安定化するという懸念を西側諸国に与え、財政支援を得ようとするのが狙いだと語った。(中略)
モラディアン氏は、ISIとアフガンのタリバンとの関係はかなり緊密で、「ISIはタリバンのパキスタン国内での活動について、完全に承知した上で関与している」と話す。
ISIはタリバンの攻撃に単に目をつぶっているだけなのかという質問に、モラディアン氏は「違う。標的を選んだり、タリバン幹部に世論について伝えたりする際には戦略的な目的がある」と説明する。(中略)
また、モラディアン氏は、アフガンでのISIの関与がタリバンとアルカイダを含んだ「テロのトライアングル」の一部になっていると指摘。さらに、ISIの関与がアフガンで混乱が続く理由の一つになっているとも語る。このため、モラディアン氏は、パキスタン政府が軍とタリバンとの関係を断ち切らせるために取り組む必要があると訴えた。【10月18日 ロイター】
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“核保有国であるパキスタンが不安定化するという懸念を西側諸国に与え、財政支援を得ようとするのが狙いだ”というのはどうでしょうか。
より一般的には、ISIがタリバンを支援している背景について、“宿敵インドとの対抗上、後背地のアフガンへの影響力を確保するため”ということがわれています。
そうした国軍内部の親イスラム原理主義勢力は、今回の南ワジリスタン掃討作戦でどうなるのでしょうか?
【掃討作戦で変わるアフガン・パキスタン関係】
****パキスタン:反政府勢力掃討本格化 対タリバン戦略岐路に*****
パキスタンの有力紙「ジャング」は18日、パキスタン軍が17日に着手した部族支配地域の武装勢力連携組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)への攻撃で、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンなどTTPと連携する全武装勢力が、パキスタン軍との戦闘に合流する決定をしたと報じた。事実ならばパキスタン軍はアフガンのタリバンと初めて戦闘に突入する。衝突が本格化すれば、米国の「対テロ戦」の主戦場はパキスタンへと移る可能性が高まる。
同紙は当局者情報として、タリバンや反米武装組織「ヘズビ・イスラミ」(ヘクマティアル派)などアフガンの武装勢力と、TTPなどパキスタンの武装勢力のそれぞれの幹部が、アフガン側に集まり、パキスタン軍への攻撃に参加することで合意したと報じた。
また、パキスタン英字紙「ニューズ」などは、最近のパキスタン国内のテロ攻撃にアフガンのタリバンも関与しているとの当局者情報を報じている。
ただ、アフガンのタリバンのアフマディ広報官は18日、毎日新聞の電話取材に「パキスタン軍と戦うことはない」と報道を否定。「パキスタンでの軍事活動を狙う米国の情報戦だ」と語った。
アフガンのタリバンは米軍を敵視しているが、米国の「対テロ戦」を支援するパキスタン軍との対立を回避してきた。その背景には、パキスタン当局との関係がある。
パキスタン軍部は90年代後半、アフガンのタリバン政権を支援。01年の米同時多発テロでムシャラフ前政権が「断絶」を宣言したが、国内の武装勢力への軍事作戦は展開しても、アフガンのタリバンとの対立は避けてきた。インドとの対抗上、後背地のアフガンへの影響力を確保するためだ。
一方、アフガンのタリバン側にも、ハッカーニ司令官ら有力幹部がパキスタンの部族地域を隠れ家にするなど、米軍との戦いにおいてパキスタンを後背地にする利点があった。
しかし、パキスタン軍によるTTPへの掃討作戦が本格化した今、パキスタン軍とアフガンのタリバンとの関係悪化は確実で、パキスタンの対タリバン戦略は大きな岐路に立っている。【10月18日 毎日】
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今後、アフガニスタンのタリバンやパキスタンのイスラム原理主義勢力とパキスタン国軍が敵対するという、比較的わかりやすい構図になっていくのか、相変わらずもやもやした関係が続くのか・・・?
【イランでのテロにパキスタン関与か?】
一方、イランもパキスタンと国境を接する国ですが、18日に起きたイランの革命防衛隊を狙った自爆攻撃に関して、アハマディネジャド大統領はパキスタン治安機関(ということは、恐らくISIでしょう)の関与を示唆しています。
****イラン大統領、自爆攻撃でパキスタンの関与示唆****
イランのアハマディネジャド大統領が18日、同国南東部で革命防衛隊の幹部など35人が死亡した自爆攻撃について、パキスタン治安機関の数人が関与していたとの情報を得ていると述べた。ファルス通信が伝えた。
それによると、アハマディネジャド大統領は、パキスタン政府に対して早急に容疑者逮捕に協力するよう要請した。
また国営テレビによると、イラン外務省がパキスタンの在テヘラン外交官を呼び、今回の攻撃の容疑者がパキスタンからイランに入国した証拠があると伝えたという。【10月19日 ロイター】
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当初、イランは、事件の背景にアメリカがいるとの批判を行っていました。
ラリジャニ・イラン国会議長は18日、「今回のテロリスト攻撃は米国の行動によるものだとわれわれは考える。わが国に対する米国の敵意のしるしだ。オバマ米大統領はわれわれに手を差し伸べようなどと言ったが、このテロリスト作戦によって彼は自らの手を焼いたのだ」と発言し、米国が関与していると非難していました。
また、革命防衛隊も外国政府が関与しているとの見解を発表し、「世界のごう漫な国が、あの地域にいる彼らの追従者や傭兵をたきつけ、わが防衛隊と部族長らの大会議に対するテロリスト攻撃を実行させたのだ」と述べています。【10月18日 AFP】
こうしたアメリカ批判は、真偽のほどはともかく、よく見られる責任転嫁ですので、“またか・・・”という感じでしたが、パキスタンの関与となると具体性を帯びてきます。
イランでは、イスラム教シーア派信者が国民の大半を占めていますが、事件現場となったイラン南東部はスンニ派住民が多く、パキスタンやアフガニスタンと国境を接し、イラン国内でも貧しい地域である同地では、このところ爆弾攻撃など暴力行為が急増していたとも報じられています。【10月19日 ロイター】
テロを実行したとして、イラン側が犯人引渡しをパキスタンに求めているスンニ派過激派組織ジュンダッラー(神の兵士)の指導者はパキスタンの神学校で学び、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダの影響を受けていると指摘されています。【10月19日 産経】
現段階では事実関係は不明ですが、パキスタンのISIは、インドやアフガニスタン、更にはイランと、この地域で政治的な事件が起きるといつも名前があがる厄介な存在です。
かつての日本の関東軍のように、政治的コントロールが機能していないようにも見えます。