(10月28日におきたパキスタン北西部ペシャワルの市場での爆弾テロ “flickr”より By بابا جان
http://www.flickr.com/photos/hratari/4054807311/)
【TTP掃討作戦と報復テロ】
パキスタン軍が今月17日、イスラム過激派反政府武装勢力の連携組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の拠点である北西部の部族支配地域「南ワジリスタン管区」への本格攻撃に着手したことは、10月18日ブログ「パキスタン軍 南ワジリスタン地区でのイスラム武装勢力への本格攻撃開始」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091018)で取り上げたところです。
そのとき、この作戦が泥沼化しつつあるアフガニスタン・パキスタン情勢にとって、ひとつの転機となりうる可能性がある掃討作戦でもあること、ただ、報復テロ激化による国内治安悪化、および、多くの難民の発生という、パキスタンにとって大きな負担が強いられる戦いでもあることを書きました。
実際、28日にはアフガニスタン国境に近いパキスタン北西部ペシャワルの市場で爆弾テロとみられる爆発があり、死者は105名に達したと報じられています。
この事件直前にはクリントン米国務長官がパキスタン入りしており、アメリカ政府を威嚇する狙いも込められているようだとも。
“爆発があったのは、日用品としては地域最大規模のキサハニ市場で、駐車中の車が爆発。市場を縦貫する道路は、崩落した建物のがれきで完全に埋まった。救助活動は難航しており、死者はさらに増加する恐れがある。
武装勢力によるテロ攻撃は、今月中旬に政府軍が部族支配地域、南ワジリスタンでアフガンのタリバンと共闘関係にある武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)への本格攻撃を開始して以降、急増している。28日現在で市民350人以上が死亡するなど、国内は戦場と似た治安状況に陥っている。”【10月28日 毎日】
【「まもなく復讐を開始する」】
こうしたTTPの激しいテロ活動については、指導者交代の影響があると報じられています。
****パキスタン:タリバン組織の指導者交代し過激化*****
90人以上が死亡したパキスタン北西部ペシャワルの28日のテロで、関与が疑われている武装勢力連携組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、指導者が“残忍”として名高い司令官に交代してから過激化したことがわかった。パキスタン政府軍は現在、TTPへの本格攻撃に取り組んでおり、今後、TTP側がさらなる無差別テロで反撃に出る可能性もある。
TTPの指導者はハキムラ・メスード総司令官(30)。治安関係者からは「パキスタンのザルカウィ」と呼ばれている。「イラクの聖戦アルカイダ組織」を率い、イラクで残忍な無差別テロを行っていたザルカウィ容疑者(06年の米軍の空爆で死亡)に匹敵する過激さで知られているためだ。
ハキムラ・メスード総司令官は、今年8月にアフガニスタン駐留米軍のミサイル攻撃で死んだベイトラ・メスード総司令官の側近で、全司令官の一致で後任に決まった。
しかし、治安関係者によると、ベイトラ総司令官がムシャラフ前政権時代に政府と和平を結ぶなど政治家としての顔も見せたのに対し、ハキムラ総司令官は、ベイトラ総司令官に代わってTTPの軍事部門を指揮。アフガニスタンの北大西洋条約機構(NATO)軍の補給路攻撃や外国人拉致・暗殺を首謀するなど、その過激さで組織内の地歩を固めた。
今月初め、ハキムラ総司令官は、北西部の南ワジリスタン管区で同じ部族出身の地元記者3人だけを潜伏先に呼んで記者会見し、「我々はかつてないほど強力になった。まもなく復讐(ふくしゅう)を開始する」と政府軍への徹底抗戦を宣言した。
ハキムラ総司令官を直接取材したナシル記者は、「政府とTTPとの対話など期待できなくなった。パキスタンは、血で血を洗う抗争に突入した」とハキムラ総司令官就任後のTTPの変容ぶりを指摘する。実際、今月に入ってTTPが起こしたテロ攻撃の死者は350人にのぼる異常事態となった。
またTTPのナンバー2にはハキムラ総司令官のいとこ、カリ・フセイン氏が就任。自爆攻撃を計画立案し実行犯を養成しており、この2人が過激さを増幅させているとみられている。【10月29日 毎日】
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「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の過激化するテロ活動は、イスラム主義・反米的なパキスタン国民のイスラム過激派からの離反を招き、記事にもある“政府とTTPとの対話など期待できなくなった”状況と合わせて、パキスタン政府・軍の過激派への対決姿勢を後押しすることになり、これまでとかく曖昧な関係にあった両者が力と力でぶつかる結果、過激派勢力が大きな打撃を受ける結果も考えられなくはない・・・という気もします。
【テロ警戒 全土で休校】
ただ、南ワジリスタンではTTPは山岳地帯にこもり、冬の積雪を待って持久戦に持ち込もうとする動きもありますし、イスラム過激派の影響は南ワジリスタンなど北西部だけでなく、パキスタン南部へも拡大しつつあります。
***パキスタン:タリバンの勢力、南部でも拡大 当局は警戒感*****
パキスタン北西部の部族支配地域を拠点とする反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の影響力が、同国中部のパンジャブ州南部に広がっている。TTP掃討作戦を続けるパキスタン軍・治安当局は、同州が武装勢力による治安かく乱の新たな震源となる恐れがあるとして警戒を強めている。(中略)
パンジャブ州でのTTPの影響力増大を懸念する治安当局は、武装戦力メンバーの摘発を強化。今月16日には同州南部の最大都市ムルタンで、衣服に爆弾を仕込んだ男を潜伏先の民家で取り押さえた。ただ、地元記者は「行き過ぎた捜査や誤認逮捕も少なくない」と語り、捜査活動が逆に反政府感情を高めかねない問題点を指摘。テロ対策の難しさを浮き彫りにした。【10月26日 毎日】
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首都イスラマバードの「イスラム国際大学」で20日に起きた3人死亡の連続自爆テロを受け、パキスタン政府は同日夜、ほぼ全域の小学校や高校、大学などの学校を少なくとも1週間は休校にするよう命じています。
全国の都市部では、自爆犯らを発見するための検問所の新設が急増しており、全土で無差別テロへの警戒感が高まっています。28日のペシャワルでの爆弾テロはそうしたなかでの事件でした。
“こうしたテロの脅威について、北部ラワルピンディの小学校教諭、アシュファクさん(42)は、「パキスタン全土が戦場のようだ。子供たちを守るための休校は仕方ないが、掃討作戦がテロリストたちを追い込み、逆にテロを増産しているようにも見える」と不安を募らせた。”【10月21日 毎日】といった声も国民にはあります。
“国内は戦場と似た治安状況に陥っている”“血で血を洗う抗争に突入した”・・・という状況で、イスラム過激派の力をそぐところまで追い込めるのか、パキスタン社会がそこまで耐えられるのか・・・厳しい情勢になっています。
【いらだつクリントン米国務長官】
そんなパキスタンを“叱咤激励”すべく乗り込んだのがクリントン米国務長官でした。
****クリントン米国務長官、パキスタンのアルカイダへの対処のまずさなど厳しく指摘*****
パキスタンを訪問中のヒラリー・クリントン米国務長官は29日、同国の文化の中心地ラホールで新聞社の編集幹部や企業幹部らとの対話集会に出席した。このなかでクリントン長官は、パキスタンの国際テロ組織アルカイダへの対処のまずさや経済政策の改善について厳しく指摘した。
クリントン長官は28日から、アルカイダとの戦いの前線にある同盟国パキスタンを訪問している。同国政府を励まし、高まる反米感情を緩和することが目的だが、「過去に誤りはあったが、両国関係の新たなページを開きたい」とのメッセージを伝えた後、いらだちを隠せない様子でまくし立てた。
バラク・オバマ米大統領がパキスタンをアルカイダとの戦いの中心地と位置づけてから同国を訪れる最高位の米政府当局者であるクリントン長官は、アルカイダ指導者はパキスタン国内にいないとする同国政府の考えに異議を唱えた。
2002年以降、アルカイダはパキスタンに隠れ家を持っています」「(パキスタン政府が)本当にアルカイダを捕まえたいと思っているのにパキスタン政府の誰も彼らの所在を知らず、捕まえられないというのは信じがたいことです。本当に彼らを捕まえられないのかも知れませんが、私には分かりません・・・しかしわれわれが知る限り、彼らはパキスタンにいます」
さらに、75億ドル(約6900億円)に上る米国の対パキスタン非軍事援助にパキスタンの軍や野党からパキスタンの主権侵害だとの批判があがっていることにもいらだちを示した。
「失礼だとお感じになるかもしれませんが、パキスタンは国内の公共サービスや事業機会にもっと投資すべきです」「(パキスタンの)国内総生産(GDP)に対する税金の割合は世界でも最低水準です。米国では動産、不動産を問わずあらゆるものに課税していますが、パキスタンではそうなっていません」「パキスタンの人口は1億8000万人で、将来3億人になると予測されています。今すぐに計画を始めずに、このような課題にどう対処するというのでしょうか」などと厳しく批判した。【10月30日 AFP】
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アメリカ・クリントン長官の苛立ちが伝わる記事です。
“同国政府を励まし、高まる反米感情を緩和することが目的”だそうですが、テロとの戦いの最前線で大きな犠牲を払っているパキスタンにすれば、非常に耳障りな発言かも。