孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  政治的立場が悪化するアッバス議長

2009-10-07 20:10:48 | 国際情勢

(9月25日 国連総会で演説するアッバス議長 “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/3962423005/)

【「しぶしぶ握手した」】
先月22日、オバマ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相、アッバス・パレスチナ自治政府議長による3首脳会談がニューヨークで行われ、オバマ大統領は直ちに無条件で和平交渉を再開するよう求めました。しかし、イスラエル占領地でユダヤ人入植活動を続けるネタニヤフ首相と、入植活動の完全凍結を求めるアッバス議長の溝は埋まらず、交渉再開に向けた実質的進展はありませんでした。
(ミッチェル米中東特使は、オバマ大統領の提案で交渉再開に向けた協議が3首脳会談の翌週、ミッチェル米中東特使も加わって集中的に行われることが決まったと発言していましたが【9月24日 読売】、特にその後の進展は報じられていないようです。)

“ネタニヤフ首相とアッバス議長の直接会談は、イスラエルに右派主導政権ができた3月末以来初めて。両者はオバマ大統領に促されて握手をしたが、AP通信は「しぶしぶ握手した」と伝えている。”【9月23日 毎日】という記事が、会談の雰囲気を表しています。

そもそも、この3首脳会談についてイスラエルは比較的前向きでしたが、自治政府はイスラエルによるヨルダン川西岸への入植活動継続に反発し、会談実現は困難と見られていました。
会談が実現した背景については、オバマ大統領側がアッバス氏に出席を強く促した可能性が高いとも言われています。

会談実現のため、アメリカがパレスチナ側に対し、イスラエルに強い姿勢で臨む意向を伝えたとの見方もあるとも報じられていましたが、入植活動凍結を和平交渉再開の条件とているパレスチナ・アッバス議長側はその確約が得られない中で会談に臨み、“予想通り”何の進展もなかったことで、アッバス議長の組織内での立場は苦しいものになっているようにも思われます。

【「もはやパレスチナの代表と見なさない」】
アッバス議長の立場を苦しくしているもうひとつの問題が、国連人権理事会がつくった調査団が9月15日に報告した報告書の取扱に関する問題です。
イスラエルの軍事行動を「戦争犯罪」と強く批判したこの報告書について、国連人権理事会で報告書支持決議案の採択を延期することを、アメリカの強い要請があって、アッバス議長が同意したというものです。

昨年末から約3週間続いたイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ攻撃について調査団は報告書で、一般市民を意図的に攻撃したイスラエル軍の行動は国際人道法違反で、戦争犯罪に当たると批判する一方、軍事行動のきっかけとなったガザの武装勢力によるイスラエルへのロケット弾攻撃も、戦争犯罪などに該当すると認定しました。
報告書は、礼拝中のモスクを爆撃したり、パレスチナ人を「人間の盾」にしたりといったイスラエル軍の行為が戦争犯罪に当たると主張。非人道兵器とされる白リン弾を住宅密集地で使うなどの過剰な軍事行動の実態を指摘しています。
さらにイスラエルに対し、公正な独自調査を要求するよう国連安全保障理事会に勧告。同国が十分な対応をしない場合には国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう求めています。

****パレスチナ議長:国連報告書巡り「反逆者」とハマスが批判*****
イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区攻撃を「戦争犯罪」と糾弾した国連報告書への対応を巡り、パレスチナ自治政府のアッバス議長が厳しい内部批判にさらされている。国連人権理事会で予定された報告書支持の決議案の採択が、議長の「同意」により来年3月の次回会期まで延期されたためだ。ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは議長を「反逆者」と非難し、これを理由に、議長側との和解に難色を示している。(中略)
人権理は2日、報告書を支持する決議案を採択し、議論の場を安保理に移す予定だった。しかし、AP通信によると、今期から理事国になった米国が強く抵抗。「中東和平交渉に悪影響を与えかねない」とアッバス議長を説得し、採択延期に持ち込んだという。
ガザ攻撃を「正当防衛」と主張するイスラエルも「報告書を安保理に送付すれば和平交渉再開の希望はついえる」と警告していた。

人権理が議題を先送りするのは異例。アッバス議長側は「報告書へのさらなる支持獲得のための延期」と釈明したが、パレスチナ内部では議長が圧力に屈し、イスラエルの「戦争犯罪」を追及する矛を収めたと映った。
ハマスの強硬派幹部ザッハール氏は5日、アッバス議長を「もはやパレスチナの代表と見なさない」と批判。ハニヤ最高幹部は「こんな状況で同じ(和解協議の)テーブルに着けるだろうか」と述べ、議長の母体ファタハとの対立解消に疑問を示した。(中略)
アッバス議長への不満はファタハ内部でもくすぶっている。議長の基盤のヨルダン川西岸ラマラでは5日、数百人が集まり、「報告書を無視することは(ガザ攻撃で死亡したパレスチナ人の)犠牲を無視することだ」と抗議した。
一方、シリアも議長を非難、6日からの議長の同国訪問中止を発表した。【10月6日 毎日】
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記事にもあるように、強硬派のイスラム原理主義組織ハマスと穏健派ファタハとの和解協議が25日にカイロで開かれることになっており、エジプトのアブルゲイト外相は、アッバス議長とも会談した上で「25日に(ファタハとハマスを含む)パレスチナ各派のための協議を行い、26日に和解合意に調印することで見解が一致した」と、楽観的見通しを語っていましたが、雲行きが怪しくなっています。
和解協議はこれまで何度も直前で開催が先送りされたことがあります。

ハマスとの対立、ファタハ内部での権力関係で、その指導力に問題のあるアッバス議長ですが、先月の3首脳会談といい、今回の国連人権理事会での処理といい、結局アメリカの要請に従う形で、いよいよその立場は苦しくなっています。もちろんアッバス議長側には、アメリカの要請を無視できない事情があるのでしょうが。

アメリカも、パレスチナを代表する者として認めうるのはアッバス議長しかいないなかで、パレスチナ問題の解決には“パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの「2国家共存」しかない”と言いつつ、その権力基盤を崩すような事態に追い込んでいくというのは、どういう考えなのでしょうか。
結局、イスラエル支持の大枠から抜け出せないということでしょうか。

【「衝突はイスラエルがエルサレムを占領する限り続く」】
政治が出口を見出せないなかで、パレスチナの情勢は再び険悪なものになっています。

****イスラエル当局が「岩のドーム」を封鎖、パレスチナ人と警察が衝突 エルサレム*****
イスラエル・エルサレムの旧市街にあるアルアクサ・モスク周辺で4日、イスラエル警察とパレスチナ人との間で衝突が発生した。同モスクはユダヤ教徒が「神殿の丘」、イスラム教徒が「岩のドーム」と呼ぶ、両教徒にとって崇拝の対象となっている場所で、1週間前にも同様の衝突が起こっている。
警察や目撃者によると、イスラエル当局がアルアクサ・モスクへ通じる道路を封鎖。同モスクに通じるライオン門の外で祈りをささげるために集まったパレスチナ人150~200人と警官とが口論になり、衝突に発展したという。人びとの投石に対し、治安部隊は音響弾や放水で応戦した。
医療関係者によると衝突で7人が負傷したほか、警察当局は3人を拘束したと発表した。

警察側は、モスクへの立ち入り禁止は、モスクのスピーカーから人びとに参集を呼びかける放送が流されたためとしている。警察当局の報道官はAFPに対し、「(モスクの)スピーカーから暴力を扇動する放送が流されたため」と説明した。
目撃者によると、この放送は、イスラエル当局が現在行われているユダヤ教の祭り「仮庵祭(スコット)」の期間中に、同モスクへのユダヤ人入植者の立ち入りを許可するとのうわさが広まったことを受けて行われたものだという。【10月5日 AFP】
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****イスラエル警察、イスラム指導者を逮捕=パレスチナ側の反発必至*****
イスラエル警察は6日、聖地エルサレムでの混乱をめぐり、反イスラエル的な言動でパレスチナ人らを扇動したとして、地元イスラム指導者のラエド・サラフ師を逮捕した。同師の影響下にあるイスラエルやパレスチナのイスラム教徒が反発を強めるのは必至だ。
イスラエル当局は最近、ユダヤ教の祝祭期間中であることを理由に、イスラム教徒がエルサレム旧市街の聖地に立ち入るのを厳しく制限。これに対し、パレスチナ側の若者が投石で抵抗するなどし、サラフ師は「衝突はイスラエルがエルサレムを占領する限り続く」などと当局を刺激するメッセージを発していた。【10月7日 時事】 
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政治の膠着は住民の不満を増大させ、不満が爆発して衝突に至り、衝突で更に政治は身動きとれなくなる・・・という悪循環です。
政治の膠着状態を動かす現実的力を持ちうるのはアメリカですが、一連の動きを見ていると、それもあまり期待できないようにも・・・。

コメント
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