(パキスタンで拘束された自爆テロ犯 14歳 “flickr”より By Doug20022
http://www.flickr.com/photos/isle_of_paradise/3681927625/)
【テロ地獄】
パキスタン・ザルダリ政権が非常に困難な状況にあること・・・アフガニスタンと国境を接するパキスタン北西部部族地域でのイスラム原理主義反政府武装勢力の活動、それを抑え込むようにとのアメリカの圧力とミサイル攻撃、そんなアメリカへの国民の反発、国内政治的にはシャリフ元首相らの野党勢力の影響力拡大、大統領の法的正当性を司法権力が否定する可能性・・・については再三このブログでも取り上げてきました。
むしろ、これだけ厳しい状況でザルダリ政権がよく続いているものだと感心するぐらいです。
今月はじめ、パキスタン国軍がタリバン勢力一掃に向けて大規模な作戦に出ることが報じられました。
****タリバン掃討へ兵2万8千人展開 パキスタン軍****
ロイター通信は4日、複数の米国防総省当局者などの話として、パキスタン軍がアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンに対する地上掃討作戦のため、アフガンと国境を接するパキスタン北西部部族地域の南ワジリスタン地区に2万8千人規模の兵力を展開したと報じた。タリバンや国際テロ組織アルカイダの幹部らの潜伏先とされる「隠れ家」の一掃が狙い。【10月5日 共同】
************************
しかし、そうした軍事的緊張の高まりのせいか、今月に入って反政府武装勢力による大規模なテロが目立っています。
10月5日、首都イスラマバードにある世界食糧計画(WFP)の事務所で爆発が起き、イラク人職員1人とパキスタン人職員3人の計4人が死亡、7人が負傷。武装勢力は、かねて国連が政府軍の掃討作戦を後方支援していると非難していました。事件後、イスラマバードにあるすべての国連事務所は安全のため閉鎖されました。
10月9日、北西部ペシャワルの市民らでにぎわう市場で、自爆攻撃による大規模な爆発があり、少なくとも49人が死亡したほか、100人以上の負傷者が出ました。
10月10日、首都近郊ラワルピンディの軍司令部内の建物を武装集団が襲撃し、兵士を人質に立てこもる事件が発生。パキスタン軍特殊部隊は11日早朝、この建物に突入、人質42人(報道によって数字には差があります)を解放しました。AP通信によると、この事件で人質3人と武装集団8人を含む少なくとも19人が死亡。軍は武装集団のリーダー格1人を拘束したとされています。
拘束されたのは、10年以上前にパキスタン軍に在籍したモハマド・アキール司令官(通称ドクター・ウスマン)とも報じられています。【10月11日 毎日】
10月12日、北西辺境州シャングラ地区で政府軍の車列を狙った自爆攻撃があり、少なくとも41人が死亡、50人以上が負傷。死者の大半が通行中の市民でした。同地区西側のスワート地区を拠点に政府軍と戦闘を続ける武装勢力の犯行とみられ、自爆犯は10代前半の少年とみられています。【10月13日 毎日】
【核管理能力への疑念】
5日以降、上記4件のテロ事件が発生し、計約120人が死亡するという事態になっています。
特に、10日の事件は
“国の治安を守るべき軍が、足元の警備さえ十全にできていなかったことを露呈した。パキスタンでは軍が核兵器を管理しており、「核流出」に対する国際社会の懸念をさらに強めることになりそうだ。”【10月12日 産経】、
“1947年の建国以来、国の屋台骨を自任する軍の中枢が襲撃されたのは初めてで、国内には大きな衝撃が走っている。核兵器を管理する軍の本拠地が襲撃されたことで、核管理能力を疑問視する声が国際社会で再燃するのも避けられそうにない。”【10月12日 読売】
と、パキスタンの核管理能力への不安という文脈で論じられています。
【核政策へのアメリカの介入を求める支援法】
一方、パキスタンの核管理に関して、もうひとつの問題が浮上しています。
アメリカ上院が9月に可決したパキスタンへの非軍事支援法案を巡って、パキスタン政府と軍部や野党勢力が対立を深めているとのことです。
支援法は年15億ドルを5年にわたって提供する条件として、核政策へのアメリカの介入や武装勢力掃討の共同作戦などを求めています。この支援法を歓迎したパキスタン政府に対し、国軍などは「主権侵害」と批判しており、アメリカが強化を求めている掃討作戦に影響を及ぼすほか、政治混乱も誘発する恐れがあります。
****<パキスタン>米の非軍事支援法案巡り政府と軍部などが対立****
支援法は、アフガニスタン新包括戦略の一環として、パキスタンの民生支援を打ち出したオバマ米大統領の意向を受け、米上院外交委員会のケリー委員長(民主党)とルーガー委員(共和党)が5月に共同提案した。
9月24日に米上院で可決され、同日の国連総会中に開かれたパキスタン支援国会合でオバマ氏が発表し、日本を含む各国が拍手で歓迎。パキスタン政府も満足感を表明した。
ところが、最近になって、支援条件の内容をパキスタン各紙が相次いで報道。
▽核兵器関連材料の調達ネットワークの米側への明示と解体
▽米軍との共同軍事作戦
▽軍部が政治や司法に介入していないことの証明--などが判明した。
これに対し、軍部に太いパイプを持つ野党「イスラム教徒連盟クアイディアザム派」や最大野党「イスラム教徒連盟ナワズ・シャリフ派」などが、「核の主権放棄につながる」と批判。キヤニ陸軍参謀長が7日、ギラニ首相と会い「支援法はパキスタンの国力を低下させる」と訴える騒ぎに発展した。
現ザルダリ政権を率いる人民党は、支援法が民主化を推進するとの立場を堅持する。軍部の政治介入を排除し、政府の管理下に置きたいとの思惑があるためだ。
軍部の政治介入が常態化したのは、人民党創設者のアリ・ブット元首相(07年に暗殺されたベナジル・ブット元首相の父)がハク軍事政権により、79年4月に処刑されたのが始まりだった。
このため、人民党の軍部へのうらみは根深く、党内には支援法を機会に、核政策への影響力も持つ軍部の力をそぐ狙いがある。一方、米国は、オバマ大統領の核軍縮計画を促進するため、パキスタンの核をガラス張りにしたいとの思惑などがあるとみられる。
支援法はオバマ大統領の署名で発効するが、パキスタン議会が拒否すれば、実際の施行は困難となる。【10月8日 毎日】
************************
【アメリカがアフガニスタンにこだわる理由】
国軍・野党の反対を受けて、ザルダリ大統領は12日、法案の見直しを求めるためクレシ外相をアメリカに派遣しました。しかし、パキスタン政府は法案を一度は歓迎しており、アメリカ側が難色を示すのは確実とみられています。
今後、支援法案が暗礁に乗り上げれば、アフガニスタンとパキスタンの安定化をセットで考えているオバマ米政権の新戦略は、根底から見直しを迫られることになるとも。
なお、“クレシ外相は12日、パキスタンを訪問した岡田克也外相と会談した際、支援法案が「内政干渉に当たる可能性」を指摘。日本は米国のパキスタン支援を後押ししているだけに、岡田外相は「米国がこれだけカネを出すということは支援に本気である証拠」と述べ、対話による解決を求めた。”【10月13日 毎日】とのことです。
10日の軍司令部襲撃事件がもたらした核管理能力への不安と、核兵器関連材料の調達ネットワークのアメリカ側への明示と解体を求める支援法が、どのようにリンクしていくのでしょうか。
小説・映画の世界なら、国軍の核管理への関わりを低下させるために、10日の軍司令部襲撃事件の背後では人民党政権やアメリカ情報機関が関与している・・・なんて話もあるところですが・・・。
それはさておき、拘束された反政府勢力指導者が元軍司令官というのは、かねてより言われている、軍とタリバン・反政府勢力とのつながりを窺わせます。
そのことも、パキスタンの軍による核管理に疑念を抱かせる要因のひとつです。
アメリカが泥沼化するアフガニスタンから手を引けない最終的理由は、アフガニスタンでのタリバン政権復活が隣国パキスタンを不安定化させ、その核管理において重大な問題、最悪の場合、核がアルカイダなどテロ勢力側にわたる危険が生じる・・・という点にあるとも言われています。
したがって、支援法が求める核管理へのアメリカの介入は、アメリカとって重大な関心事です。