孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「中国型新植民地主義」  現地事情・国際規範を無視した中国企業の海外進出

2009-10-22 21:27:51 | 国際情勢

(礼節や信用などモラル向上を訴える、上海万博に向けたスローガンのようです。
“flickr”より By Jakob Montrasio
http://www.flickr.com/photos/yakobusan/261299198/)

【なりふり構わない自国利益優先主義】
一昔以上前は、中国を旅行していると、切符を買ったり、バスに乗ったりする際に、“並ばない、割り込む”とか“われ先に殺到する”とか、マナー・公衆道徳の面での問題が目に付きました。また、公衆トイレなど公共の場の汚さなどもひどいものがありました。
さすがに、経済発展とともに最近はあまりそういうことは目立たなくなりつつあるようにも感じます。

しかし、TVなどで散見する都市中間層の人々の言動には、“カネさえあればなんでもできる”というような露骨な拝金主義みたいな臭いも感じます。
国家レベルでも、いろんな国際関係の場で、民主主義といった理念とは無関係に、“自国の利益になることであればなんでもする”という対応を見ることが多くあります。
ひとことで言えば、大国にふさわしいモラルに欠ける印象です。

そうしたなりふり構わない自国利益優先主義で、欧米や日本が躊躇する場面でも積極的な拡大政策を採っている中国ですが、やはりそうした中国の対応への批判は一定にあるようです。

****海外進出の中国石油・鉱山企業 現地法律や習慣、軽視 米機関報告****
ワシントンの大手国際問題研究機関の「ウッドローウィルソン国際学術センター」はこのほど中国の石油企業や鉱山企業の世界規模での活動を分析した調査報告書を発表した。報告書によると、資源開発を外国で進める中国企業は外国の習慣や法律を重視せず、社会的責任や透明性にも欠けるため、現地で紛争を起こすことが多いという。

「中国の石油と鉱山の企業と資源資産の統治」と題する報告書は、ワシントンに拠点を置き、開発途上国でのエネルギー資源開発を専門に研究するジル・シャンクルマン氏らによって作成された。
報告書は、グローバルな石油取得活動を展開する中国国有企業の中国石油天然ガス集団(CNPC)、中国石油化工集団(SINOPEC)、中国海洋石油総公司(CNOOC)、中国中化集団(SINOCHEM)や、その他の鉱山資源を開発する中国冶金(やきん)科工集団公司、中国金属建設会社など官民の企業の実態を調べている。
報告書は、これら中国企業が欧米や日本の同種企業にくらべ、「環境保護、企業統治、企業の社会的責任などについて企業内の体制も幹部の意識からみても重視していない」とし、「経済協力開発機構」(OECD)が作成した「採掘産業透明性構想」が自然資源の国際規範となっているにもかかわらず、中国企業はそれに加わっていないことを批判的に指摘した。
石油以外の鉱山資源の開発について、中国企業が石油分野よりも小規模なことなどから、相手国の実情への配慮も欠いているとしている。その結果、起きた衝突などの実例(別表)を報告書は挙げている。
「この種の事件が起きたのは、中国企業側の幹部たちの配慮や知識の不足からの地元社会の文化、民族、社会、宗教などの実情に十分な注意を払わなかったことが主要因となった」と報告書は結論づけ、中国企業に活動先の外国の実態をよく知る努力を強めるとともに、企業の社会的責任や透明性を増すことを勧告している。
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 ■中国企業の海外での衝突例
 ▼コンゴ共和国で各種の鉱山資源の開発を続けていた一連の中国企業群が今年3月、生産や投資を突然、停止し、現地従業員の給料も未払いのまま撤退してしまった。その結果、両国間の対立となった。
 ▼パプアニューギニアでニッケルの開発を続けていた中国金属建設会社(MCC)が現地住民から環境破壊の抗議を受け、現地労働者の扱い方にも不満を浴びて、今年5月、大規模な暴動の被害を受けた。
 ▼ペルーの各種鉱山資源の開発を続けてきた中国首鋼集団が現地労働者の扱いを不当だと非難され、今年春、暴動的な抗議の被害を受けた。
 ▼ガボンの鉄鉱石資源を開発してきた中国機械設備輸出入会社(CMEC)は現地での活動に地元住民を雇わず、中国人のみを使ったことなどを非難され、ここ数年、大規模な抗議の標的となった。
 ▼スーダンやエチオピアで石油その他の資源を開発する中国企業の技師、労働者はここ数年、地元社会の慣習を無視したなどとされ、拉致や殺人という一連の暴力行為の被害者となってきた。【10月22日 産経】
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【アメリカの苛立ち】
アフガニスタン・カルザイ政権が「新生アフガン最大の経済プロジェクト」として採掘権の国際入札に乗り出した世界有数の銅鉱脈であるアイナク銅鉱山を、中国政府系の中国冶金科工集団公司など2社が昨年、投資総額約44億ドルで落札したことについて、“中国は豊富な資金力を背景に、本体事業に加えて発電所や輸送インフラ、モスク(イスラム教礼拝所)の建設など、「政府援助に相当する付帯条件」をパッケージとして提示。アフガン高官へのリベートについては直接的な言及を避けながらも、関係する高官との深い人脈形成を挙げ、「海外事業展開について、米国内と同等の公正なルール厳守が定められている米国企業では太刀打ちできない」と指摘した。”【10月19日 産経】といった記事もありました。

アイナク周辺では、今年2月に米軍が新たな防衛拠点を構築するなど、死傷者が増大する米国が中国の投資を「保護」する状態となっていると、同記事は指摘しています。
冒頭記事にある報告書は、こうした国際規範を無視した中国のやり方へのアメリカの苛立ちを現すものでもあるのでしょう。

【アフリカからの懸念】
中国からの投資を受ける国々からも、中国のやり方に対する懸念が指摘されています。

****アフリカ、新たな「中国型新植民地主義」に懸念の声*****
アフリカにおいて近年増大しつつある中国の影響力は、当初は熱狂的に受け入れられたものの、懸念する声が出始めている。「中国型新植民地主義」の危険性を指摘する専門家もいる。
アフリカ連合(AU)の経済部門の専門家は、「アフリカは、新植民地主義の一種から別の中国型新植民地主義へとやみくもに飛び移ってはいけない」と話す。
こうした態度は、2000年に中国・北京で第1回中国アフリカ協力フォーラムが開かれたころの熱狂とは対照的だ。フォーラムで、中国はほかの多くの国々とは異なり、資金源を多様化する手段として民主改革への条件は付けない支援を約束した。
アフリカには、中国からの輸入品の質が悪い、中国企業はアフリカへの技術移転をほとんどしない、中国は原油以外にはほとんど輸入していないためにアフリカ・中国間の貿易が不均衡、などの不満がある。(中略)

■慈悲深い中国、は幻想
南アフリカの研究者、Tsidiso Disenyana氏は、中国のアフリカに対する巨大インフラ建設計画は、地元経済に直接には利益を与えていないと指摘する。創出されるお金が国内経済には流通しないからだという。「中国は、自国の技術者や労働者を送り込んでくる。この国には熟練者、特に技術者が慢性的に不足していることは分かっているが、われわれは、地元の労働者に技術移転や訓練を実施するといった内容の条項を付け加える必要がある」(Disenyana氏)
一方、AUの中国大使は、中国政府はアフリカの債務を帳消しにする、アフリカ大陸への直接支援を倍増、関税を免除するなど、中国アフリカ協力フォーラムで合意された条項の大半を履行していると主張する。

一部の専門家は、アフリカの短絡的な発想を戒めている。ベナンのあるエコノミストは、「中国が必要な資源を探し求めるのは普通のことだ。しかし、その原材料を切望する様子に直面すると、人々は資源が無尽蔵ではないことを忘れているかのごとく、やみくもに熱中しているように見える。この場所を好きだからだとかわれわれが貧困状態を訴え続けてきたのでこの慈悲深い大国がやってきた、という幻想をアフリカ人はやめるべきだ。今日は中国でも、明日はインドやブラジルがやってくるかもしれない。彼らもまたアフリカの資源を狙っている」と話した。【10月6日 AFP】
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“慈悲深い中国”なんて幻想があることすら驚愕ですが、中国も“大国”として国際社会で振舞うのであれば、これまでのような“なりふり構わない自国利益優先主義” を脱して、相手国への影響・国際社会との協調という面にもっと目をむけるべきでしょう。

もっとも、その中国が相手国に“モラル”を要求する場面もありました。
13日に訪中したプーチン・ロシア首相との会談で、“ロシア当局が、中国人の出稼ぎ商人が集まるモスクワの市場を閉鎖し、密輸の疑いで数千億円相当の商品を押収した問題では、中国側はわいろで不法通関させるロシア税関の腐敗を指摘している。これに対し、両国は通関手続きの透明化を図るなど監督を強化する覚書に調印した。”【10月13日 朝日】とのことです。
モラルに欠けるのは中国だけではありません。
リベートを求めるアフガニスタンやアフリカ諸国も同様です。

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