
(ヤンゴンの街角 今年3月 手前の子供の顔が白く塗られているのは、ふざけている訳ではなく、タナカという木の粉を顔に塗るミャンマーの風習です。日焼けを防止し、清涼感が得られるとのことで、多くの女性や子供が行っています。
“flickr”より By judithbluepool
http://www.flickr.com/photos/74399150@N00/3455037197/)
【アメリカ 軍事政権との対話の本格化】
ミャンマーを訪問したキャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)らは4日、ヤンゴンのホテルで、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんと約2時間会談しました。
****米次官補、スー・チーさん初会談 軍事政権との対話意図説明か*****
米国のアジア政策の責任者であるキャンベル氏がスー・チーさんと直接顔を合わせるのは初めて。軍事政権との対話を始めた米国の政策変更の意図をあらためて説明、対ミャンマー制裁解除問題などについて意見を交わしたとみられる。【11月4日 共同】
*****************************
キャンベル次官補らは、ミャンマーのテイン・セイン首相とも会談しています。
米政府高官のミャンマー訪問は、95年のオルブライト国連大使以来14年ぶり。
キャンベル氏は今回の訪問目的について「実情調査」と説明していますが、国際社会はオバマ政権による軍事政権との対話の本格化と受け止めています。
一方、ミャンマー民主化グループからは、性急な軍事政権との関係改善を危惧する声も上がっているようです。
****ミャンマー:米高官が訪問へ 関係改善の成果は未知数*****
政治・経済制裁を軸としたブッシュ前米政権の強硬姿勢は、軍事政権の孤立化を招き、ミャンマーに対する中国の極端な影響力増大や、軍事政権と北朝鮮の関係強化をもたらした。オバマ政権の政策転換にはこれらへの反省があるとみられる。
一方、軍事政権にとっても米国との関係改善は、来年に予定される総選挙の結果を国際社会に認めさせるための追い風になる。
だが、米国との関係改善が始まった後も、軍事政権は民主化や人権問題で本質的な譲歩には一切応じていない。スー・チーさんに対しては米国人侵入事件を利用して軟禁を延長し、総選挙に関与させない姿勢を明確化。9月の恩赦でも重要な政治犯は釈放せず、少数民族武装組織への軍事的圧力も強めている。
スー・チーさんは9月、それまでの軍事政権との対話拒否姿勢を転換し、制裁解除に向け政権に協力すると表明した。スー・チーさんの真意は不明だが、米国の政策転換で自身が取り残されたまま政権と国際社会の関係改善が進みかねないとの危機感から、態度を軟化させざるを得なかったとの見方もある。
タイを拠点とする反軍事政権系誌「イラワディ」のアウンゾウ編集長は最新の評論で、「(軍事政権に特使を派遣してきた)国連外交はほとんど成果を上げられなかった」と指摘。交渉術にたけた軍事政権が米国の態度軟化に応え、どれほど意味のある妥協姿勢を示すか疑問だと警告した。【11月2日 毎日】
***************************
【中国・北朝鮮に近づくミャンマー】
ミャンマーと中国の接近ぶりを示すニュースとして、昨日こんなものもありました。
****中国、ミャンマーと結ぶパイプライン着工*****
AP通信は3日、中国の国有石油大手の中国石油天然ガス(CNPC)の話として、同社がミャンマー(ビルマ)と中国雲南省を結ぶ石油、天然ガスのパイプライン建設に着工したと報じた。中国にとって、マラッカ海峡経由で海上輸送している中東産の原油を陸路輸送するルートを確保する重要な事業となる。
CNPCのホームページによると、10月31日に着工を宣言する式典が開かれた。完成すれば全長771キロ、年間輸送量は約1200万トンに達するという。【11月3日 朝日】
*************************
ミャンマーと北朝鮮の関係については、北朝鮮がミャンマーを核関連を含む兵器取引の中間基地として活用しており、最近は北朝鮮の主な兵器関連企業がミャンマーで活発な活動を展開しているという主張がアメリカ議会で提起されています。
****北朝鮮はミャンマーを兵器取引基地に利用、米議員*****
米国のエド・ロイス下院議員は21日、下院外交委員会で開催された公聴会で、ミャンマーが米国に対し安保上の脅威を与える5つの理由を挙げながら、「北朝鮮がミャンマーを利用している」と指摘した。
ロイス議員は、北朝鮮が兵器と輸出禁止品を移転するためミャンマーの港湾や小型飛行場を利用しており、この夏に米国がミャンマーに向かっていた北朝鮮の貨物船に対し憂慮したのもそのためだと述べた。また、ミャンマーが核開発計画に利用されかねない技術を購入したとし、改めて核コネクション疑惑を提起した。
このほか、北朝鮮の兵器会社1社がここ数か月間、ミャンマーで活発に活動してきたことや、核関連の目的があるともいわれるミャンマー首都近隣の広範囲な地下通路の建設を北朝鮮が支援しているとの報道も、脅威の理由として挙げた。
一方、ロイス議員の主張に対し、キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「北朝鮮とミャンマー間の協力要素がある」と述べ、否定しなかった。国家安保問題において最も懸念されることは、北朝鮮とミャンマーの軍事分野での協力、その他の分野での協力の可能性と関連があるとし、両国の軍事協力に対する米国の懸念を重ねて表明した。【10月22日 聯合ニュース】
***************************
オバマ政権によるミャンマー軍事政権との対話の本格化という政策転換は、こうした国際関係を憂慮してのものでもあります。
【「長期戦」】
“米政府は当面、現行の経済制裁の緩和については「軍政が主要な懸念に対処した場合のみ協議に応じる」(キャンベル氏)との方針だが、軍政の行動次第では(1)米企業による直接投資の解禁(2)臨時代理大使の大使への格上げ――など関係改善の「アメ」があり得ることも示唆し、具体的な行動を求めると見られる。”【11月2日 朝日】とのことで、アメリカ政府は「長期戦」も念頭に、軍事政権の出方を慎重に探る姿勢とも。
一方、アメリカ政府の新政策を受けてミャンマー軍政は10月初め、アウン・チー対話調整担当相とスー・チーさんとの対話を1年9カ月ぶりに復活させました。また、10月下旬の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議では、テイン・セイン首相が、スー・チーさんの対応次第では軟禁措置を緩和する可能性に言及したとされています。
***************
(スー・チーさん率いる国民民主連盟)NLD広報官のニャン・ウィン氏も2日、朝日新聞に「事態は間違いなく動き出している」と述べた。
だが、ミャンマーの地元紙記者は「米国が求めるスー・チーさんらの解放は、軍政が(来年に予定される)総選挙で負ける危険性を高めるので不可能だ。このギャップを埋める策を両国が持ち合わせているとは思えない」と楽観論を打ち消す。
スー・チーさんの解放なしに国際社会が納得する可能性は低いうえ、米国内では「対話のテーブルに着けば最も卑劣な体制に正当性を与えることになる」(野党共和党議員)などと拒否反応も根強い。早期の見返りを期待する軍政との対話は曲折も予想される。【11月2日 朝日】
**************************
ミャンマー軍事政権の最高指導者、タンシュエ国家平和発展評議会議長は国内出張中でネピドーにはいないとされ、キャンベル氏との会談は行われない見込みです。
このことからも、今回すぐに軍事政権が実質的な譲歩に応じる可能性はないと思われます。
また、来年総選挙前にスー・チーさんの政治活動を回復させることも考えられません。
しかし、新たな流れが生まれていることも事実であり、この流れをより太く確実なものにしていく努力は惜しむべきではないでしょう。
軍事政権側も、ここで成果を示すことが国際社会復帰へのほとんど最後の機会と考えて対応してもらいたいところです。
今月15日には、シンガポールで米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議が開かれますが、この会議にミャンマーからはテイン・セイン首相が出席すると報じられています。
こうした場を通じて、対話が積み重ねられることを望みます。