孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  議長・評議会選延期 アッバス議長不出馬表明で事態は不透明

2009-11-14 14:18:29 | 国際情勢

(ベルリンの壁が崩壊して20年、今なおパレスチナを分断する壁 “flickr”より By MissyKel
http://www.flickr.com/photos/missykel/434058651/)

【「全有権者が投票できない以上、実施すべきでない」】
パレスチナ自治政府のアッバス議長は先月下旬、対立するハマスの合意なしに議長・評議会選を来年1月24日に実施すると発表。
更に、今月5日、自身は議長選に出馬しない意向を表明しており、その真意について様々な憶測がなされています。
とりあえず議長・評議会選については、パレスチナ中央選挙管理委員会が、ガザ地区を実効支配するハマスの合意なしには選挙は「実施できない」との判断から延期勧告を行っており、先送りの流れになっています。

****パレスチナ:議長選と評議会選の延期勧告 中央選管****
パレスチナ中央選挙管理委員会は12日、アッバス自治政府議長に対し、来年1月予定の議長と評議会(国会に相当)の両選挙を延期するよう勧告した。AP通信によると、ナセル選管委員長は、自治区ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスが選挙を拒否する現状を指摘。「全有権者が投票できない以上、実施すべきでない」と語った。
アッバス議長は諾否を表明していないが、勧告を受けるとみられている。先のアッバス議長の不出馬表明で情勢は混迷を深めていたが、選挙が先送りされれば、アッバス議長の「任期」も自動延長される可能性が高い。【11月13日 毎日】
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【エジプト調停 頓挫】
対立が続きパレスチナを分断するアッバス議長率いるファタハとハマスの和解については、エジプト政府が仲介役となり、選挙を来年6月まで先送りし、ガザの治安や再建問題で妥協点を探るという内容で調停を試みていました。ファタハはこれを受諾しましたが、ハマスは傘下の武装組織の扱いなどを不満として、また、ハマス内部にも意見の対立があることから、受諾に難色を示していました。

アッバス議長の“議長・評議会選を来年1月24日に実施”発表は、こうしたハマスに譲歩を迫る“揺さぶり”策とも見られていましたが、ハマス側は反発を強め、10月26日を期限としていたエジプト仲介の和解協議は頓挫しました。
協議自体は今後も続くと思われますが、その後の議長の不出馬表明で、先行きは見えない状況となっています。

なお、アッバス議長の任期は今年1月に満了していますが、ハマスの同意なしに延長された経緯があり、ハマスは議長令は無効と反発しています。今回の選挙先送りで、“アッバス議長の「任期」も自動延長される可能性が高い”とのことです。

【「(決意は)駆け引きや策略ではない」】
アッバス議長の不出馬の真意については、政治的に追い詰められていること、入植問題でのアメリカのイスラエルへの譲歩によって“はしごを外された”形になったこと、後継者がいないことを背景にアメリカ側への譲歩を迫る駆け引きに出ているとの見方・・・様々なことが言われています。

****パレスチナ:米の譲歩に失望 アッバス氏不出馬表明*****
パレスチナ自治政府のアッバス議長が5日、次期議長選(来年1月24日予定)に不出馬を表明した背景には、中東和平交渉の停滞やガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスとの対立で、政治的に追い込まれていた事情がある。自治区が自治政府の影響下にあるヨルダン川西岸と、ハマス支配下のガザに分断されている現状では、選挙の実施自体も不確定といえ、議長の不出馬表明で先行きの不透明度はさらに増している。

「(米国が)イスラエルの立場を支持したことにとても驚いた」。アッバス議長は5日の演説で、和平交渉を仲介する米国への失望感を吐露した。
イスラエル占領下の西岸や東エルサレム、ガザを将来の独立国家の領土と考える自治政府は、西岸などに散在するユダヤ人入植地問題を重視。和平交渉再開の前提として入植活動の「完全凍結」をイスラエルに迫ってきた。だが、これまで歩調を合わせていたクリントン米国務長官は先月末のエルサレム訪問時、凍結要求を拒否するイスラエルに譲歩して「凍結は前提でない」と言明した。
ハマスのガザ支配を解消できないアッバス議長にとって、求心力の維持には和平交渉での進展が不可欠だ。右派主導のネタニヤフ・イスラエル政権が誕生し、和平の実現に意欲を示すオバマ米政権こそが「頼みの綱」だったが、その米国に「はしごを外された」(外交筋)形となった。
アッバス議長は演説で「(決意は)駆け引きや策略ではない」と強調したが、実際のところ有力な後継候補はおらず、不出馬の「真意」は不明。議長は過去にも、窮地で自身の進退を持ち出したことがある。【11月6日 毎日】
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アッバス議長は、イスラエルとの2国家共存による和平を目指す穏健派で、欧米だけでなく、ペレス大統領らイスラエルの和平推進派の信頼も厚い存在です。
現段階では和平路線を引き継ぐアッバス議長の有力な後継者はおらず、議長が退けば強硬派が台頭することも予想されます。そのため、今回の不出馬表明には、イスラエルや米国から譲歩を引き出すための「捨て身」の戦術との見方もあります。【11月6日 朝日】

【世代交代の動きも】
ただ、人事はいったん表面化すると、本人の思惑を超えて走り出し、後戻りできなくなることもあります。
****パレスチナ:翻意か世代交代か アッバス議長の不出馬表明*****
アッバス・パレスチナ自治政府議長(74)が5日、次期議長選(来年1月予定)への不出馬を表明したことで、早くも「後継者」を巡る観測が出始めている。アッバス氏は翻意に含みを残し、米欧もイスラエルとの和平路線を追求する同氏の続投を望んでいるが、一方で、世代交代はパレスチナの長年の懸案でもあった。今後、水面下での駆け引きが活発化しそうだ。

自治政府筋によると、アッバス氏は不出馬の表明前に、側近に対して自身に代わる議長候補の選定を「指示」していた。同氏が進退を持ち出すのは初めてではないが、中東和平交渉の具体的な進展がなければ、今回は本当に引退する可能性も高いという。
だが、現時点で有力候補はいない。AP通信によると、アッバス氏率いるファタハの若手幹部マルワン・バルグーティ氏(50)が意欲を示しているが、02年にテロ関与の殺人容疑などでイスラエル当局に逮捕されて以来、獄中の身だ。経済通として米欧が信頼するファイヤド首相(57)も取りざたされるが、求心力に欠ける。

故アラファト前議長を継いだアッバス氏は、対イスラエル武装闘争終結を宣言した穏健派。これまで米国やイスラエルは和平交渉の相手として、パレスチナの「総体」でなく穏健な「個人」に執着してきた側面も強く、世代交代は進まなかった。
イスラエル紙ハーレツによると、ペレス同国大統領は4日夜、アッバス氏に電話で「いま去れば、独立国家実現のチャンスは消える」と再考を促した。パレスチナ政局の混迷は交渉相手の「不在」を意味するだけに、和平に消極的なネタニヤフ政権は静観している。【11月6日 毎日】
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なお、クリントン米国務長官は5日、「アッバス議長がいかなる新しい立場についても、協力することを楽しみにしている」と語り、慰留するかどうかについては明言を避けたとも報じられています。

【アメリカの取組も行き詰まり】
アラファト前議長が去り、アッバス議長も身を引くとなると、最悪の場合、自治政府崩壊ともなりかねません。
ファタハ・ハマスの分断状況、イスラエルのネタニヤフ保守政権と合わせて、中東和平はいちからの出直しになりそうです。

****中東和平交渉、再開に向けた米国の取り組みも難航****
2009年11月11日 08:48 発信地:ワシントンD.C./米国
中東和平交渉の再開に向けた米国の取り組みが行き詰まりを見せていることが10日、あらためて明らかになった。
バラク・オバマ米大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は9日午後、ホワイトハウス内で1時間40分あまりにわたって会談を行った。
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植活動継続に対し米国が反対する姿勢を示したことをめぐって緊張が高まっている中での会談となったが、ネタニヤフ首相は、慣例となっている米大統領との公式行事出席や記者会見も行わず、帰国の途についた。(中略)

ネタニヤフ首相は会談に先立ち、パレスチナ側と直ちに和平交渉を行う用意があるとしていたが、見通しは暗いようだ。
米国に対してはパレスチナ側からの圧力も高まっている。先日、来年1月の議長選に立候補しないことを表明したパレスチナ自治区のマフムード・アッバス議長の側近は10日、米国による中東和平再開の取り組みが停滞し続ける場合は、同議長が辞任する可能性もあると発言した。同議長の辞任は、パレスチナ自治政府の崩壊につながりかねないと見られている。【11月11日 AFP】
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