(ミャンマーからのカレン族難民が暮らすタイ北部のマエラ難民キャンプ 07年当時のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の発表によれば、この難民キャンプから1万人規模でアメリカへの第三国定住が進められていました。 移民社会のアメリカと日本社会では、難民の受け入れについて差があるのは当然ではありますが・・・
“flickr”より By jackol
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【「二度とあってはならない事態だ」】
最近、日本政府のミャンマー難民に関するふたつの話題を目にしました。
ひとつは、難民認定をめぐって提訴手続き途中の者を、入管が強制送還したというケースで、国連のグテーレス難民高等弁務官は、「保護の可能性が残っている時に強制送還してはならない」と批判しています。
****ミャンマー少数民族:入管が難民保護希望者を強制送還****
ミャンマー軍政に迫害される恐れがあるとして、日本での難民保護を求めていた少数民族の男性が先月末、法務省入国管理局に強制送還されたことが分かった。国連のグテーレス難民高等弁務官は20日、東京都内で会見し、「保護の可能性が残っている時に強制送還してはならない。二度とあってはならない事態だ」と批判した。
NPO難民支援協会(東京)によると、ミャンマーでの07年9月の大規模反政府デモ以降、同国からの保護申請者を日本政府が意に反して送還した例はないという。男性はこの反政府デモに参加。一緒に行動した友人が逮捕され、身の危険を感じたため、07年12月に出国。成田空港で難民認定を申請し、入国した。だが、今年2月に難民不認定処分を受け、収容された後、再度、仮放免を申請。処分取り消しを求めて提訴する意思も文書で示したが、提訴期限を4カ月残す先月29日に送還された。今はインドへ逃れているという。
協会は「強制送還は命を危険にさらす行為」と訴え、千葉景子法相に理由の開示を求めた。入国管理局は毎日新聞の取材に「個別事案には答えられない」と回答した。日本は昨年、過去最多の57人を難民と認定。うち54人がミャンマー人だった。【11月20日 毎日】
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グテーレス難民高等弁務官は、この事案に限らず、日本政府の難民認定が極めて少ないことに言及しています。
****「日本は難民認定増やして」 国連高等弁務官が会見*****
来日中のグテレス国連難民高等弁務官は20日、東京都内で記者会見し、日本の難民の認定者数が欧米などの先進国に比べて少ないことについて「日本の受け入れ制度が世界基準に達し、認定者が増えることを希望している。また、申請は公平に認めるようにしてほしい」と述べた。
日本政府が、紛争や迫害を逃れて周辺国などで暮らす難民を受け入れる「第三国定住」を10年度から実施することについては、「アジア地域で先駆けた試み。日本の立場や評価を高めることになる」と期待を示した。
グテレス氏は今回、鳩山由紀夫首相や岡田克也外相らと会談した。「人道支援の分野で日本はもっと重要な役割を果たすことができる。世界の平和構築のため、仲介者としてより積極的に関与してもらいたい」と話した。【11月20日 朝日】
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【「アジア地域で先駆けた試み」】
ミャンマー難民に関するもうひとつの話題は、上記記事でグテレス国連難民高等弁務官が期待を表明している「第三国定住」の件です。
****ミャンマー難民、来秋から受け入れ試行*****
政府は、他国で一時的に保護された難民を日本に受け入れる「第三国定住」制度の試行として、タイに逃れたミャンマー難民の受け入れを2010年秋から行うことを決めた。
同制度は難民問題の恒久的な解決策として国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が各国に取り組みを要請している。政府は将来の本格実施をにらみ、試行期間とする10年度から3年間にミャンマー難民を年30人ずつ計90人程度受け入れる計画だ。来年2月ごろ、UNHCRから候補者リストの提供を受けて面接調査を行い、第1陣となる30人を決める。
受け入れが決まった難民には出国前の3~4週間、日本語や生活習慣などについて研修を行い、日本入国後は職業紹介や就学支援、日本語教育など180日間の定住支援プログラムを実施する。その後も、生活相談員による支援を講じる。【11月23日 読売】
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“第三国定住は、紛争などで自国に帰れない難民を、欧米が中心となって安定した生活を送らせる手段。
現在の出入国管理・難民認定法は難民認定の可否を日本国内で審査する形を取っており、国外で暮らす難民を受け入れる前提がない。第三国定住はこれと異なり、現在の生活地で行う面接などで審査できる。”【08年8月25日 毎日】
これまで日本はインドシナ難民を特例措置として受け入れた以外は、国外の難民の入国を拒んできた経緯があり、難民政策の転換と位置づけられるとも見られています。
ただ、このタイに逃れたミャンマー難民の「第三国定住」を10年秋から、年間30人ずつ、3年間で90人受け入れるという日本政府の決定は、同内容で08年8月にすでに発表になっていますので、改めて読売がこれを記事にした理由はよくわかりません。
別の言い方をすれば、08年8月に決定しながら、どうして実施が10年秋なのか・・・という話でもあります。
難民として国外で生活する2年間は、決して短い時間ではありません。
おそらく、法整備を含めた受け入れ準備に時間がかかるということなのでしょうが。
いずれにしても、日本が受け入れれば、アジアで初の受け入れ国になるようです。
【救助される犬 捨て置かれる人間】
難民の受け入れは、多大な労力とリスクを伴う行為です。
日本のような同質的な社会に、難民をどのように受け入れていくのか、そのときの文化的摩擦、ドロップアウトした者が起こす治安上の問題・・・。
いったん受け入れて第2世代が生まれてくると、彼らは日本社会しか知らない者であり、日本の側の都合で国外にもどすことは困難になります。
そうした、非常に厄介な問題が多々生じてきますので、難民や移民の受け入れについては消極的な対応になりがちであることもやむを得ないところもあります。
しかし、だからと言って門戸を閉ざしていいものか・・・。
そうした閉鎖的な対応をよしとするのかどうかは、国家・民族の品位・品格に関する問題でもあるように思えます。
先日、熊本県宇城市の山中で洞穴に落ちた猟犬5匹が、重機で岩を削るなどの大規模な救助作業により、転落から6日ぶりに無事助け出されるという、心温まる“美談”が報じられました。
結構なことです。
結構ですが、犬にそれだけの思いやりを示すのであれば、その何分の一かの関心を、世界の各地の難民とか、飢餓で死にそうな子供たちとか、紛争で危険に晒されている人々とか、そういう“人間”に対しても向けてあげられないものかと思ってしまいます。