(スイスの07年選挙で右派政党・国民党が用いた移民排斥ポスター
移民問題の難しさ云々という以前に、その根底にある民族的不寛容が感じられ、歴史的に欧米社会との軋轢もある日本人からしても不愉快な印象が否めません。 “flickr”より By rytc
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【右傾化する欧州】
ヨーロッパ各国では、増加する移民流入に対する反発、世界的不況での経済的困難などから、極右政党とみなされる政治勢力が支持を拡大しており、各国の選挙の度にその議席増加が話題となります。
6月に行われた欧州議会選挙でも同様傾向でした。
オランダでは反移民の自由党が得票率16・9%で4議席を獲得。
自由党は「オランダのイスラム化を止める」「トルコをEUに加盟させない」と主張、移民流入やEU拡大による社会変容に危機感を抱く国民の支持を取り付けました。
オランダ下院議員であるウィルダース自由党党首は昨年3月、イスラム教の聖典コーランを「ファシストの書」と非難する自作短編映画「フィトナ」を公開し、イスラム諸国を中心とする国際社会の批判を浴びた人物です。
イギリスでも、移民排斥を訴える英国民党から2人が当選し、初の議席を獲得しました。
ハンガリー、ブルガリアでも欧州議会選挙初参加の極右政党が各3議席を獲得したほか、フィンランド、オーストリアでも欧州懐疑派が躍進しました。
【「イスラム教社会を受け入れない、というサインを突きつけられたことが悲しい」】
そうした右傾化する欧州にあって、昨日スイスで、右派政党の国民党が主導する、イスラム教モスクのミナレット(尖塔)建設を国内で禁止する憲法改正案の是非を問う国民投票があり、賛成多数で支持されました。
****スイス、モスク尖塔の建設禁止可決へ 政府は困惑****
スイスで29日、イスラム教モスクのミナレット(尖塔=せんとう)建設を国内で禁止する憲法改正案の是非を問う国民投票があり、大方の予想を覆して禁止賛成が多数を占めて可決される情勢になった。「イスラム化」の不安をあおった右翼勢力の運動が功を奏した形で、政府には大きな痛手。イスラム諸国の反発が予想される。
投票は正午(日本時間午後8時)に締め切られて即日開票され、TSRテレビによると、賛成が約58%を占めている。事前の世論調査では反対が優勢だっただけに、驚きを持って受け止められた。反対多数は仏語圏ジュネーブなど一部にとどまり、右翼勢力が浸透しているドイツ語圏などで賛成が広く優位に立った。
この結果に、政府内では「デンマーク紙が預言者ムハンマドの風刺画を掲載してイスラム諸国の反発を招いた事件の再来となるのでは」との懸念も出ているという。ミナレット建設禁止に反対してきた緑の党は、この結果を不服として欧州人権裁判所に訴える方針を表明した。
スイス・イスラム教組織調整会のアフシャール代表は同テレビで失望を表明。「ミナレットが建設できないのが問題ではない。スイスはイスラム教社会を受け入れない、というサインを突きつけられたことが悲しい」と述べた。
今回の国民投票は、移民規制などを訴えてきた右翼的傾向が強い国民党が主導。ミナレット建設阻止キャンペーンを展開した。同党幹部は「当然の結果だ。イスラム教諸国は感情的に反発するかも知れないが、心配するに及ばない」と述べた。
スイスでは近年、労働力不足に伴って移民が急増。イスラム教徒は35万~40万人とされる。【11月30日 朝日】
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国民党はここ1~2年、犯罪歴のある外国人の追放など排外主義政策を相次いで国民投票に持ち込んでいましたが、いずれも否決。
今回も事前の世論調査では反対が優勢でした。賛成派の地滑り的な勝利は、経済危機を背景とする移民労働者らへの警戒心の高まりがあるとの見方が多いようです。【11月30日 毎日より】
政府は、寛容の伝統を重んじ信仰の自由を認めている憲法に反するとして、反対を呼びかけていましたが、今回の国民の決断を尊重し、ミナレットの新設を禁止すると発表。
一方で、「スイスのイスラム教徒はこれまで通り、宗教上の教えを実践できる」と述べています。
ドイツの日刊紙、南ドイツ新聞は、30日に掲載予定の社説で、投票結果は「大問題」だと非難。
ヨーロッパでこのような建設禁止が決まったのはスイスが初めてで、スイスの憲法や欧州人権条約に違反すると指摘しています。【11月30日 ロイターより】
スイスの国民党は03年選挙で第1党に躍進、更に07年10月の選挙では“外国人犯罪者の強制送還を訴え、白い(自国民を示す)羊の群れから黒い(外国人を示す)羊が追い出される意匠のポスターを掲げた。この公約は人種差別やナチスを連想させる内容であると激しい反発を受け、他党の選挙運動も過激化していった。しかし、結果は7議席増の62議席と、さらに議席を伸ばした。”【ウィキペディア】
【深まる溝】
移民の増加、特に、文化的に全く異なり、集団を形成して現地社会となかなか融合しない移民の増加は、地域社会を分断する深刻な影響を及ぼすことは現実であり、移民に対する批判的な対応に理由がない訳ではありません。
ただ、こういう不寛容を突き付ける形でしか対応できないというのは、悲しい現実です。
社会の分断は、これで深まることはあっても、埋まることはないでしょう。
経済危機が背景にあるとすれば、貧すれば鈍す・・・ということでしょうか。
人々をして、自分達の利害に固執させ、心を偏狭にする・・・世界的不況のもたらす憂うべき影響です。