
(死亡した国連職員の遺体を見送るスタッフ “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/4074631231/
国連は5日、タリバン勢力による先月28日の国連施設攻撃で5人の外国人スタッフが死亡したことを受け、数百人の外国人スタッフを退避させる方針を明らかにしました。国連スポークスマンによると、現地に展開している約1100人の外国人スタッフのうち、600人前後を配置転換して、一部は国内のより安全な地域に移動し、残りは国外に出るとのことです。)
【カルザイ政権と国際社会の溝】
アフガニスタンの大統領選挙については、アメリカなど国際社会が嫌がるカルザイ大統領に強いる形で決選投票実施に持ち込んだあげく、アブドラ元首相のボイコットによって、結局カルザイ大統領の無投票再選が決まるという混乱の様相を呈しました。
もともとアメリカなどは、カルザイ政権の汚職・腐敗体質、統治能力の欠如には批判的で、カルザイ政権側にはそうした国際社会の批判に対する反発がありましたが、今回の騒動で両者の溝が更に深まったことは確実です。
****「国際社会の内政干渉」アフガン外務省が非難*****
アフガニスタン外務省報道官は7日、「我が国新政権への国際社会による関与は、内政干渉の域に達している」と国連や欧米を非難する異例の声明を発表した。
アフガンでは、再選が確定したカルザイ大統領が新政権の組閣を進めているが、声明は、欧米や国連が「人事案などにも圧力を加えている」と指弾している。
国際社会は、大統領選で明るみに出たカルザイ大統領陣営の不正に批判を強め、5日には国連アフガン支援団(UNAMA)代表のカイ・エイダ氏(ノルウェー人)が「復興支援継続は汚職撲滅などと無縁ではない」と語って、続投するカルザイ政権をけん制していた。
外務省声明はこうした批判に反論したもので、新政権と国際社会のひずみが早くも浮き彫りになっている。【11月8日 読売】
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両者の間に深い溝があっても、アフガニスタンに介入を続ける以上、アメリカ・国際社会としては現地政権の正統性を主張せざるをえませんし、カルザイ政権としても、外国勢力の支援なしにはタリバンの攻勢に対処できないという現実にあって、両者の関係は切るに切れない状態にあります。
【アフガニスタン警察が英兵を】
そんな政治状況の混乱と軌を一にするように、現場での混乱も多く伝えられています。
****警察官が英兵5人を射殺、アフガニスタン*****
アフガニスタン南部ヘルマンド州の検問所で3日、アフガニスタン人の警官が英国部隊に向けて発砲し、英兵5人が死亡、6人が負傷する事件があった。警官は逃走した。
事件があったのはナド・アリ地区で、国際治安支援部隊(ISAF)に参加する英国軍兵士の大部分がここに駐留している。殺された5人は同国警察の訓練にあたっており、検問所に寝泊まりしていた。
ゴードン・ブラウン英首相は、ロンドンの議会で、反政府武装勢力タリバンが犯行を行ったと主張していることを明らかにし、「タリバンが(犯人の)警官を利用したか、またはアフガン警察に潜入していた可能性がある」と述べた。
今回の事件は、各国の政府と軍がISAFによるアフガニスタン警察の訓練を戦争の出口戦略として推進する中、同国で8年間続いている戦争がますます複雑な様相を呈していることを物語っている。
これにより、2001年10月にアフガニスタンへの駐留を開始して以来の英兵死者数は229人となった。うち少なくとも193人が敵対行為により死亡している。今年に入って任務中に死亡した英兵は94人(アフガニスタンで93人、イラクで1人)となり、1982年のフォークランド紛争以来最悪となっている。【11月5日 AFP】
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記事にもあるように、アフガニスタンの軍・警察の能力を高めることが、外国勢力にとって、泥沼からの“出口”と考えられているだけに、治安当局へのタリバン勢力の浸透は大きな衝撃です。
日本も、アフガニスタン警察官約8万人分の給与について半額負担を続けており、日本のアフガニスタン支援策の中心施策でもあります。
イギリスでは、この事件以前から、アフガニスタンからの撤退を求める厭戦気分が世論に広まっていました。
***7割がアフガン撤退望む=死者増大で厭戦気分-英調査****
英民間テレビ局チャンネル4が5日夜放映したアフガニスタン政策に関する世論調査結果で、英国民の73%が「1年以内の駐留英軍の撤退」を望んでいることが分かった。うち即時撤退を主張する人は35%と、2週間前の同様の調査より10ポイント上昇した。
また「反政府勢力タリバンとの戦いに勝利できる」と答えた人はわずか33%で、2週間前(42%)より大幅に低下。一方、「勝利はもはや不可能」との回答は57%に上った。【11月6日 時事】
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今回の事件が示す現場の混乱ぶりは、こうした厭戦気分をさらに強めることが想像されます。
【ISAFがアフガニスタン軍・警察を】
上記事件はアフガニスタン警察によるISAF兵士殺害ですが、逆に、ISAF誤爆によるものではないかと思われるアフガニスタン軍・警察の死亡という事件も起きています。
****アフガン軍兵士ら8人が死亡、ISAFが誤爆か****
アフガニスタン国防省は7日、北大西洋条約機構(NATO)が主導する国際治安支援部隊(ISAF)の誤爆により、アフガン国軍の兵士と警察官の計7人が死亡したと発表した。
ISAFは4日から行方不明になっている米兵2人の捜索活動を行っていた6日、武装勢力との間で交戦となった。
ISAFによると、アフガン軍で働く民間人1人も死亡したほか、アフガン兵18人と米兵5人が負傷。これら犠牲者が空爆によるものかどうかは調査中としている。【11月8日 ロイター】
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戦闘現場が混乱しているのは当然のことではありますが、こうして並べると「大丈夫かな・・・」という感もしてきます。
かねてからアメリカ・ISAFの誤爆による民間人犠牲を批判しているカルザイ大統領も、更に批判を強めそうな事件です。
【戦争疲れ】
一方、アメリカでは、テキサス州フォート・フッド陸軍基地で5日、精神科医のニダル・マリク・ハサン少佐(39)が銃を乱射し、13人が死亡、30人が負傷した事件がありました。
この事件は、軍におけるイスラム教徒の役割といった問題もありますが、01年の同時多発テロ以降、アフガニスタン、イラクでの戦いに明け暮れてきたアメリカの「戦争疲れ」を感じさせるものがあります。
****米基地内乱射 「戦争疲れ」が気になる*****
今年5月、バグダッドの米軍基地でも米兵が銃を乱射し他の米兵5人が死亡している。帰還米兵らの団体によると、この時点で意図的な友軍殺害事件がイラクで5件起きていた。
5月の事件についてマレン米統合参謀本部議長は、何度も戦地へ派遣されるストレスを背景として指摘した。すでに8年に及ぶ米軍のアフガン攻撃、03年から6年半に及ぶイラク駐留は、前線のみならず米国内の基地にも大きな負担を強いている。
しかも負担は重くなる一方だ。兵員不足を補うべく国防総省は兵士の従軍期間を従来の1年から15カ月に延長し、休息の期間も2年から1年に短縮したという。兵士の自殺者も増えている。ベトナム戦争時の暗い空気が米国を覆い始めているようだ。(後略)【11月7日 毎日】
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【見えない出口】
オバマ政権は、住民の安全対策を重視するアフガン駐留米軍のマクリスタル司令官と、大規模増派に反対するバイデン副大統領との折衷案として、増派される兵力を人口集中地域への重点配備する考えとも伝えられています。
タリバンを、アメリカへの直接的な脅威はないとして完全に掃討することは断念し、国際テロ組織アルカイダへの攻撃を強化する考えとも。【10月29日 産経より】
しかし、住民の安全対策、ひいては民主国家の建設という旗を捨てて、アルカイダ掃討のために国土を蹂躙するというのであれば、アフガニスタン国民は外国勢力をどのように見るのでしょうか。
政治・現場の混乱、蔓延する戦争疲れ、世論に広がる厭戦気分・・・・
アフガニスタンの事態を好転させるためには増派が求められていますが、ベトナム的な泥沼も強く懸念されます。
大統領選挙で再選されたカルザイ大統領は、タリバンの「兄弟たち」に、「家に戻り、国を愛する」よう呼び掛けたそうですが、今の状況では・・・。
選択肢の幅は狭く、「悪い事態」と「さらにもっと悪い事態」の選択しか残されていないようにも見えます。