孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

食料サミット開催  飢餓人口10億人 農業投資拡大で農業生産70%増が必要

2009-11-17 21:58:38 | 国際情勢

Photo credit: ©FAO/Giulio Napolitano
(食料サミットで「新たな封建制」を批判するリビア・カダフィ大佐
“flickr”より By FAO News
http://www.flickr.com/photos/faonews/4108910743/)

【主要国首脳欠席】
世界の首脳級が飢餓状況や将来の食料確保を話し合う「食料サミット」が16日、ローマの国連食糧農業機関(FAO)本部で始まっていますが、これに関連して、主要国の関心の薄さを批判する形で、FAO事務局長がハンストを行うという報道がありました。

****主要国首脳の欠席に抗議?FAO事務局長がハンスト*****
国連食糧農業機関(FAO、本部ローマ)のジャック・ディウフ事務局長は11日、世界的な飢餓問題の深刻さを訴えるため、24時間のハンガー・ストライキを行うと宣言した。
16~18日にローマで開かれるFAOの「世界食料安保サミット」で主要国の首脳が軒並み欠席する見通しとなり、当てこすりとの見方も出ている。
ハンストは14日に行う予定。FAOによると、栄養失調状態に陥っている世界の飢餓人口は今年、10億人を突破しており、事務局長は「飢えに苦しむ人たちとの連帯を強調するため」に、世界の有志にもハンストを呼びかけている。
事務局長はアフリカのセネガル出身。食料サミットには約60か国の首脳が出席する予定だが、主要8か国側は「7月の主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)での飢餓対策の合意をなぞるだけで、首脳が集まる意味がない」(外交筋)との意見が強く、議長国イタリアのベルルスコーニ首相を除いて欠席する見通しだ。【11月12日 読売】
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日本からは村上秀徳農林水産省顧問が出席しています。

【飢餓人口10億人突破】
食糧価格が世界的に高騰し、各地で暴動などの混乱がおきたのは昨年前半のことでした。
こうした危機的な事態に対処するため、FAO主催の「食糧サミット」が約150か国の代表が参加してローマで開かれたのが昨年6月でした。

その後の金融危機、世界同時不況のなかで、食糧事情についてはあまり聞かれなくなりましたが、別に事態が好転した訳ではありません。08年前半のピーク時と比べると下がったものの、06年に比べまだ24%も高いという食糧価格の高止まりと経済苦境による所得の制約によって、むしろ状況は悪化しているとも言えます。

国連世界食糧計画(WFP)は9月16日の声明で「多くの人が世界的な金融危機に巻き込まれている。食品価格の高止まりが影響して、購買力が制限されている。そうした状況に加えて、予測のつかない天候が、天候に起因する飢餓をさらに多く生み出している」と述べています。
そのWFPによれば、世界の飢餓人口は2009年に初めて10億人(世界のおよそ6人に1人)を突破し、過去最高水準に上昇しています。

国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)の国連3機関は11月5日、全世界で10億人以上に上る飢餓人口の削減に向けた協調体制を強化することで合意しましたが、世界不況によって資金的には非常に苦しく、WFPは9月時点で、09年度予算67億ドル(約6090億円)のうち、26億ドル(約2360億円)しか確定していません。

【「農業への回帰」】
今回の「食料サミット」の共同宣言においては、政府開発援助(ODA)で農業分野が激減していることを示し、参加国に農業投資を強化するよう訴えています。先進国からの食料輸送が中心だった飢餓救済に関し、かんがいなど技術支援に重点を移して「農業への回帰」を打ち出したものと報じられています。

****食料サミット:「農業への回帰」前面に…支援見直し迫る*****
41項目の宣言は冒頭、現在の食料状況について「飢餓、貧困下にあるのは10億人以上」と記し、「世界人口の6分の1もの人々の命、暮らし、尊厳を傷つける、受け入れがたいものだ」と訴えた。
昨年6月の食料サミットでは、食料価格の高騰や気候変動、先物投資などが飢餓要因に挙がった。だが、今回は長年軽視されてきた農業に焦点を当て、世界に向けて支援の見直しを迫っている。途上国では70年代後半から、新自由主義の下、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の指導による構造調整で民営化が進み、農業予算は大幅に削られてきた。
宣言によると、80年にODAの19%だった農業分野が、06年には3.8%に減った。2050年に世界の人口は90億人を超え、食料確保には農業生産を現在より70%増やさねばならないと指摘した。FAOの試算では、将来、農業支援だけで年間440億ドル(約4兆円)が必要という。
国連のミレニアム開発目標は飢餓、栄養不足の人口を2015年までに半減するとしていたが、実現は難しく、宣言からも「2025年に飢餓撲滅」との文言は外された。
参加した首脳陣は途上国が中心で、主要8カ国(G8)からは主催国イタリアのベルルスコーニ首相だけだった。また、ローマ法王ベネディクト16世が開幕演説に加わった。【11月16日 毎日】
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“2050年に世界の人口は90億人を超え、食料確保には農業生産を現在より70%増やさねばならない”というのは、9月23日のFAOが発表した試算です。

****世界の食料生産、2050年までに70%増の必要 FAO****
国連食糧農業機関(FAO)によると、人口増加だけでなく、所得の増加によっても食糧需要は増加すると見られている。2050年までに、穀物生産は現在の21億トンから約10トン増、食肉生産については約2億トン以上増加させ4億7000万トンにする必要があるという。
試算では、「エネルギー価格や各国政府の政策次第では、バイオ燃料の生産増加も農業製品の需要を増加させる」ともされている。

FAOは、主にアフリカや中南米などの途上国では「耕作地を約1億2000万エーカー拡大する必要がある」とも予測している。一方で、「先進国で実際に使用されている耕作地は、バイオ燃料需要で変わってくる可能性があるものの、約5000万エーカーの減少となるだろう」との見方を示した。
世界的に見て、今はまだ将来の人口増加分をまかなうのに十分な土地はあるものの、そうした土地の大半はわずか2、3種類の穀物の耕作にしか適していないのだという。FAOはさらに、化学的・物理的制約や風土病、インフラ不足などの問題もあると指摘した。
FAOは、こうした問題を克服するために「かなりの投資」が必要だとする。その一方で、中東や北アフリカ、南アジアなどのいくつかの国では、「すでに耕作可能な土地の上限に届きつつある」としている。【9月24日 AFP】
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【“強欲”と“新たな封建制”】
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長はサミットの開会にあたり、この7割の食糧増産を「気候変動がより激しく予測不能となっている」状況で行わねばならないことを指摘し、「今日の食糧危機は、明日の世界への警鐘だ」との危機感を示しています。

ローマ法王ベネディクト16世は、穀物を投機の手段とする人びとの「強欲」を非難し、「飢餓は世界人口の6分の1に相当する人びとの生命、生活、尊厳を破滅させる受け入れがたいものだ」と述べています。

一方、サミットに参加したリビアのカダフィ大佐が批判したのは、最近アフリカで先進国・中東産油国・中国などの企業が農業用地を買収・借り上げて、自国向けなどの輸出食糧を生産する農地囲い込みの動きです。

****「新たな封建制」と批判=外国人の土地買収で-カダフィ大佐*****
「新たな封建制だ」―。リビアの最高指導者カダフィ大佐は16日に開幕した国連食糧農業機関(FAO)食料サミットでの演説で、外国人による途上国での土地買収の動きをこう批判した。ロイター通信などが伝えた。
カダフィ大佐は「豊かな国がアフリカの土地を買い付け、アフリカの人々の権利を奪っている」と言明。南米地域にも、こうした動きが広がっていくことに懸念を示した上で、「この新たな封建主義と戦うべきだ」と語り、途上国側が対抗措置を講じるよう呼び掛けた。【11月17日 時事】
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この問題は7月23日ブログ「アフリカ  外国企業による農地囲い込み “新たな植民地主義”の批判も」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090723)でも取り上げたところです。
FAOも「農地や水を丸ごと買い上げるのは新たな植民地主義だ」と警告しています。

単なる企業利益の追求だけでなく、食糧安全保障的な面がありますが、進出先の人々が餓えで苦しむときに自国向けに高値で食糧を送り出すという構図は、やはり受け入れがたいものでしょう。


コメント (1)
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