孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  ハマス攻撃停止、捕虜交換交渉 実現すればガザ封鎖緩和も

2009-11-25 21:40:43 | 国際情勢

(今年1月 ガザ地区からのロケット弾攻撃 “flickr”より By Zoriah
http://www.flickr.com/photos/zoriah/3170393848/)

【死者8900人】
イスラエル人権団体の発表によれば、パレスチナ紛争による死者は、パレスチナ・イスラエル双方を合計して、過去20年間で8900人だそうです。

****パレスチナ紛争死者、20年で8900人 人権団体発表****
イスラエルの人権団体ベツェレムは22日、過去20年のパレスチナ紛争による死者が約8900人に上ったと発表した。
集計期間は89年1月から今年10月末まで。イスラエル国内とヨルダン川西岸、東エルサレム、ガザでの死者数。
パレスチナ側の死者は7398人で、うち少なくとも1537人が子ども。イスラエル側の死者は、民間人995人を含む1483人だった。
パレスチナ側の死者が集中したのは昨年末から今年1月にかけてのイスラエル軍によるガザ大規模攻撃で、ベツェレムの集計では、約3週間で1387人に上った。
イスラエル側の死者が最も多かったのは、第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)が始まった2年後の02年で、民間人269人を含む420人が死亡した。【11月23日 朝日】
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ガザ市の人権団体、パレスチナ人権センターが、今年1月のガザ大規模攻撃によるパレスチナ側の総死者数を1417人(926人が民間人でうち313人が18歳未満の子ども、116人が女性。戦闘員が236人、警察官が255人)としていますので、少なくともこの時期の犠牲者数については、上記発表とほぼ一致しています。

ガザ市民400人の犠牲者出した06年のガザ侵攻、昨年1月の大規模攻撃と、特にここ数年、パレスチナ側の犠牲者が増大しています。
これには、ハマス内閣が誕生する06年、ハマスがガザを実効支配下におく07年と、イスラエルへの強硬姿勢を示すハマスとイスラエルとの間の緊張の高まりが背景にあるように思われます。

【「壁の効果」】
一方、ガザは完全に封鎖されており、ヨルダン川西岸地区も分離壁によってイスラエル人入植地と遮断されていることから、パレスチナ側の自爆テロによるイスラエル人犠牲は著しく減少しています。

****街角:エルサレム 壁がもたらす「安全」*****
エルサレムの街中で、店の軒先や通りにテーブルを出す飲食店が目立つようになった。自爆テロが頻発したころを知る人なら目を見張る光景だろう。屋外営業の広がりは「安全」の証しとも言えるが、和平の動きは進んでいないのに、どう「安全」は導かれるのか。イスラエル人の知人が「壁の効果」と言ったのを、ベルリンの壁崩壊20周年のニュースを見ていて、思い出した。

イスラエルが02年に占領地ヨルダン川西岸で建設を始めた「分離壁」。テロを計画するパレスチナ人の侵入阻止を名目に、西岸をぐるりと取り囲む。一口に「壁」とくくられるが、高さ約8メートルのコンクリート壁の部分と、感知センサー付きのフェンス部分が混在する。総延長は700キロ超で、ベルリンの壁の約4・5倍の長さがある。
イスラエルの携帯電話会社の広告に、こんなテレビCMがあった。
<サッカーボールが分離壁を飛び越えてくる。パトロール中のイスラエル軍の車両を直撃、兵士は身構えるが、ボールと分かりけり戻す。すると再びけり返されてきた。歓声を上げる兵士。携帯電話で仲間を集め、壁を挟んでゲームが始まる>
毎週金曜日に分離壁反対のデモが開かれる西岸の村で、このCMが「実演」された。パレスチナ人がサッカーボールをけり込むと、イスラエル側から返ってきたのは催涙弾だった。パロディーとは笑えない、これが現実。
いつか分離壁がなくなる日は来るのだろうか。うわべの「安全」を享受した人々から、和平への思いは薄れているような気がする。【前田英司 11月22日 毎日】
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【捕虜交換、封鎖緩和も】
自爆テロを封じ込まれた形のパレスチナ側の抵抗はロケット弾攻撃が主体となっていますが、ここにきて、ガザを実効支配するハマスは、イスラエルへのロケット弾攻撃の停止を発表しています。

****イスラエルへのロケット攻撃「停止」 ガザ武装勢力****
パレスチナ自治区ガザを支配するイスラム組織ハマスのハマッド内相は21日、ガザで活動するパレスチナ武装勢力が、イスラエルへのロケット弾や迫撃砲弾による攻撃を停止することに合意した、と語った。イスラエル軍による報復攻撃を避けるのが狙いだ。
ハマッド氏はガザで現地の記者らに対し、復興を優先するための判断と説明。一方で「イスラエル軍に抵抗する権利は否定しない」とも述べ、イスラエル軍がガザに侵攻すれば応戦するという。(中略)
イスラエルによる境界封鎖が続くガザでは、密輸トンネルが生活物資を運び入れるための生命線になっており、ガザ市民からも「イスラエルに空爆の口実を与えるだけ」と、武装勢力を批判する声が上がっている。
イスラエル軍によると、今年1月中旬以降、ガザからイスラエル領に向けて発射されたロケット弾や迫撃弾は約270発に達している。【11月22日 朝日】
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この攻撃停止発表と連動したものでしょうか、捕虜交換の実現の可能性が報じられています。

****イスラエルとハマス、27日にも捕虜交換*****
イスラエル各紙は23日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルとの間で、捕虜交換の協議が大詰めを迎え、27日にも捕虜交換が実現する可能性があると伝えた。
同国のペレス大統領は22日、協議を仲介するエジプトを訪れ、「(協議は)進展している」と述べた。
ハマスなどガザの武装勢力は2006年6月、ガザに近いイスラエル領内で同国軍兵士(23)を拉致。兵士の解放条件としてイスラエルが収監するパレスチナ人約1000人の釈放を要求してきた。
イスラエル政府は、兵士が解放された場合、ガザの経済封鎖を緩和する方針を示している。ハマスにとってガザ復興に封鎖緩和は不可欠で、パレスチナ人釈放で民衆の支持を取り戻す狙いもある。【11月23日 読売】
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06年6月に捕虜となったイスラエル兵士は、同年のイスラエル軍によるガザ侵攻のきっかけにもなりました。
ハマス側にとっては虎の子の捕虜で、拘束中もVIP待遇を受けているとも言われていますが、その後流されたガザ市民の血を思えば、ガザの不幸の元凶とも言えます。
もし、本当に生きており返せるものであれば、すみやかに交換してガザ封鎖の緩和につなげてもらいたいものです。

【密輸トンネルと新型インフルエンザ】
隣国エジプトとつながる密輸トンネルは、ハマスなど武装組織の武器搬入ルートとして、イスラエルからの攻撃対象になっていますが、封鎖が続くガザ市民にとっては生命線です。
現在稼働しているトンネルは約400。
失業率が6割に達しているというガザでは、失業者が職を求めてトンネルに殺到。従事者は1万5千人に達しているそうです。
トンネル作業員の日給は12時間働いて100シェケル(約2300円)程度。作業員の少年によれば、「危険に見合わない額だが、ほかに仕事がないから仕方ない」とか。

興味深いのは、密輸トンネルに関してそれなりの管理ルールがつくられているとのことです。
“崩落事故が相次いでいることや、商品取引のトラブルを解決するために、今年に入り、行政や治安機関、トンネルの所有者、作業員らが共同で委員会を設置した。子どもをトンネル内に入れない▽武器を密輸しない▽人の越境には使わない――ことを申し合わせた。
また、ガソリンや塗料など可燃物の取り扱いに注意喚起を促しているほか、崩落事故が起きた場合の補償制度を検討。所有者は遺族に既婚の場合、1万ドル(約89万円)程度を支払うことを決めたという。”【11月24日 朝日】
なお、ガザの人権団体によると、ハマスがガザを武力制圧し、イスラエルが境界封鎖を強化した07年以降、作業員約120人が崩落事故やイスラエル軍による空爆で命を落としているそうです。【同上】

なお、封鎖状態が続くガザ地区では、新型インフルエンザ患者がまだ一人も確認されていないそうです。
“厳しい通行制限がインフルエンザ襲来を阻んでいるとみられ、医療関係者は「封鎖がもたらした恩恵」と、皮肉をこめて分析している。”【11月21日 毎日】

しかし、約150万人が暮らす人口密集地で、満足な医薬品・医療機器もないガザ地区は、いったん感染が広がると悲惨な結果もありえます。
ハマスもイスラエルも望まない状態でしょうから、そうならないためにも封鎖緩和の交渉を進展させてほしいものです。

コメント
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