孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ、ガス供給問題でロシアと合意 大統領選挙へのロシア・EUの思惑

2009-11-21 22:20:17 | 国際情勢

(ウクライナのティモシェンコ首相 大統領になるならせっかくの容色の衰えぬうちに・・・というのは余計な御世話ですね。
“flickr”より By PolandMFA
http://www.flickr.com/photos/38246185@N08/3638988671/)

【EU対ロシア】
ヨーロッパはその天然ガス需要の25%(3割とか4割とするものもあって、数字の取り方によっていろいろあるようです。)をロシアに依存しており、その8割がウクライナを経由するパイプラインで送られています。
しかし、親欧米・反ロシア路線をとるユーシェンコ大統領のウクライナとロシアの確執、更にはウクライナ経済の悪化もあって、このウクライナルートのガス供給がストップする事態も起きています。
今年1月にも、ウクライナのガス料金滞納を理由に、ロシアはウクライナを経由するガス供給を約2週間停止、欧州全土に大きな被害をもたらしました。

こうした事態を解消するため、ロシアはウクライナを通らないパイプライン計画(バルト海経由でドイツに至る「ノルド・ストリーム(北ルート)」と、黒海経由で南東欧圏に延びる「サウス・ストリーム(南ルート)」)による新たな供給網構築を進めています。
一方、EUもロシア依存脱却を目指して、ナブッコ・パイプラインの計画を進めています。

こうした計画が青写真どおりに実現するかは、欧州の天然ガス需要の今後の動向、ロシアの資金力、ナブッコの場合は供給国の確保など多くの問題があります。
18日にはストックホルムで首脳会談を行ったEUとロシアですが、ガス供給問題は今後とも、リスボン条約の来月発効で“大統領”“外相”ポストを設け一段と統合が進むEUとロシアの間の主要な課題となります。
ロシアは上記ウクライナ迂回ルート建設に向けての動きを最近早めており、その背景には、EUの本格的な政治統合を前に、エネルギー協力を軸に親露派づくりを進める狙いがあるとも報じられています。【11月19日 産経】

【プーチン、ティモシェンコ両首相合意】
それはともかく、現段階ではウクライナ経由のパイプラインによる安定供給がロシア・欧州双方にとって重要な問題です。
そのウクライナとロシアが2010年のガス供給で合意したそうです。

****ロシアとウクライナ、2010年のガス供給で合意へ****
ロシアのウラジーミル・プーチン首相は19日、ロシアの政府系天然ガス企業ガスプロムとウクライナの国営天然ガス企業ナフトガスのガス供給に関する協議が合意に達し、契約更新の準備ができたと述べた。
プーチン首相はウクライナのユリア・ティモシェンコ首相と会談した後、「ガスプロムとナフトガスは新たな供給量で合意する」と述べた。

ロシア側は、ウクライナが購入しなければならないガスの量を罰金なしで減らす一方、ロシアがウクライナ領内を経由して欧州にガスを運ぶために支払う通過料を60%引き上げることで合意した。
ナフトガスは来年、実際に必要な270億立方メートルを大きく上回る520億立方メートルのロシア産ガスを購入することが決められていた。これに違反すれば、数十億ドル(数千億円)の罰金を科される可能性があった。【11月20日 AFP】
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深刻な経済危機に襲われたウクライナは、今年1月に結んだ合意の中で約束した分量のガス購入ができなくなっており、ロシア側は一時、違反金を徴収する構えをみせていました。
一応、プーチン首相が「従来の合意に融通を利かせる」ことに同意し、ウクライナのティモシェンコ首相も同国を経由するロシア産ガスを支障なく供給すると約束した形ですが、これまでもさんざん揉めてきた両国ですから、今後も目が離せないところがあります。

今回の合意は、来年1月17日に予定されているウクライナ大統領選挙をにらんだもののように思えます。
ウクライナ国内の親ロシア勢力の拡大を狙うプーチン首相、大統領選挙へ出馬するティモシェンコ首相の国内へのアピール・・・といったところです。

【クリミア半島をめぐる駆け引きとプーチン首相の“次の一手”】
****ウクライナ大統領選まで3カ月 クリミア舞台、激戦へ*****
巨額投資進める欧州、露は警戒感
旧ソ連のウクライナで、来年1月17日の大統領選が公示された。2004年の「オレンジ革命」で親欧米大統領が誕生した前回に続き、今回も東部の親ロシア派と、西部を地盤とする親欧米派の激戦が予想されている。選挙戦には欧米諸国とロシアの動向も少なからぬ影響を与えるとみられ、特に19世紀クリミア戦争の舞台ともなった南部の要衝、クリミア半島をめぐる駆け引きが注目される。
                  ◇
≪親露VS親欧米≫
最近の世論調査によると、主な候補予定者の支持率は親露派・ヤヌコビッチ地域党党首が29%で、親欧米派・ティモシェンコ首相が19%。現職のユシチェンコ大統領はほとんど支持を得られていない。いずれの候補も過半数を占められず、親露派と親欧米派の決選投票で勝敗を決する展開が予想されている。

この情勢下、欧州連合(EU)が親露派の牙城であるクリミア半島を「パイロット地域」とし、その社会・経済発展に来年だけで計1200万ユーロ(約16億5千万円)を投資する協力プログラムを内定した。
クリミアは1853~56年、南下政策を進めた帝政ロシアと英、仏、トルコなどが交戦した戦略的要衝地。軍港都市セバストポリには2017年までの基地貸与契約で露黒海艦隊が駐留しているが、現ユシチェンコ政権は17年以降の契約更新を認めない立場だ。
 
≪安定発展に関心≫
ウクライナ・ラズムコフ研究所のチャールイ国際部長はEUのクリミア投資計画について、「クリミアは国内で唯一、ロシア人が多数派の特殊地域であり、ユシチェンコ政権はEUとの協力を国内問題解決と政治的結束に利用しようとしている」と指摘。「EUもクリミアの安定的発展に関心が高まっている」と話す。
これに対し、露CIS(独立国家共同体)研究所セバストポリ支部のコルニロフ氏は「欧米が親露的な東部と南部の世論を改造しようとしているのは明らかだ」とロシアの警戒感を代弁。「黒海艦隊を失えばロシアにとっての地政学的影響は甚大だ。より妥当な指導者(次期大統領)と基地貸与の延長を決めるべきだ」と強調する。

世界的金融危機で深手を負っているウクライナは、国際通貨基金(IMF)に加えてロシアにも巨額の資金援助を要請している。年末にはロシアとの間で来年の天然ガス輸入価格交渉も控えており、ロシアは慎重に“次の一手”を模索しているとみられる。【10月24日 産経】
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一か月前の記事ですので、現在は“大統領選挙まで2か月”となっています。
記事最後の「年末にはロシアとの間で来年の天然ガス輸入価格交渉も控えており、ロシアは慎重に“次の一手”を模索している」ということのひとつの動きが、今回のプーチン・ティモシェンコ両首相の合意でしょう。

以前は、天然ガス輸入に際しロシア高官に賄賂を贈ったとしてロシア検察から指名手配を受けていたこともあるティモシェンコ首相ですが、最近はロシア、特にプーチン首相の関係は改善したようで、ロシアとの関係を梃に大統領の座を狙っているようです。
親欧米派とされるティモシェンコ首相ですが、仮に大統領選挙で勝利した場合、現在のユーシェンコ大統領のような明確な親欧米・反ロシアの色分けはできないかもしれません。
いずれにしても、EU、ロシア双方の思惑の絡んだ選挙になりそうです。

コメント
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