(30年前、大使館占拠人質事件があったテヘランの旧アメリカ大使館を取り巻く壁
“flickr”より By pooyan
http://www.flickr.com/photos/pooyan/2230627228/)
【レバノン・ヒズボラとイラン】
イスラエル軍は今月4日、キプロス島近くの地中海で、ロケット弾など武器数百トンを積載した貨物船を拿捕しましたが、この武器はイランからレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラに供与されたものと、イスラエル側は見ています。
****イスラエル:地中海で貨物船を拿捕 武器数百トンを積載*****
発表によると、3日深夜、イスラエルから約180キロ沖合の地中海で貨物船を発見、拿捕した。貨物船はドイツの船会社所有で、カリブ海の島国アンティグア・バーブーダの国旗を掲げていた。積んでいた約400個のコンテナのうち、36個からロケット弾や迫撃弾、対戦車砲などが見つかった。一般貨物を装っていたという。
コンテナはエジプトで荷積みされたが、書類から出港元はイラン国内と判明。ロイター通信は運航関係者の話として、貨物船がエジプトからキプロス、レバノン、トルコに寄港して再びエジプトに戻る予定だったと伝えた。軍によると、乗組員は積荷の内容を知らなかったという。
イスラエルのネタニヤフ首相は「イスラエル市民を標的にする武器の供与だ」と非難、摘発された事例はイランが支援する武器密輸の一部にすぎないと指摘した。イスラエル軍は02年、イランがパレスチナを支援しているとして、武器約50トンを積載した船を紅海沖で拿捕した。今回押収した武器の量はこの約10倍ともいわれている。【11月5日 毎日】
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イスラエル首相府のレゲブ報道官は「(今回の摘発で)イランに幻想を抱いてきた国々が目を覚ますよう期待している」と述べています。
一方、ヒズボラは5日、関連を否定。貨物船を臨検したイスラエル軍を「海賊行為も同然」と批判しています。【11月5日 毎日】
ところ変わって、アラビア半島のイエメン。
イエメン北部で04年に始まったイエメン政府軍とイスラム教シーア派ザイド派民兵の戦闘が今年8月に拡大し、15万人もの避難民が発生しています。
このザイド派民兵組織掃討のため、隣国のサウジアラビアが初めて本格的な越境作戦に乗り出したことが報じられています。イエメン政府、サウジアラビアともにスンニ派です。
【イエメン・ザイド派とイラン】
****イエメン空爆、民兵ら40人以上死亡 サウジアラビア軍*****
サウジアラビア軍は4日から5日にかけ、イエメン北部のイスラム教シーア派のザイド派拠点を空爆した。ロイター通信などによると、同派の民兵ら40人以上が死亡した。民兵組織掃討のため、隣国のサウジが初めて本格的な越境作戦に乗り出した可能性がある。
サウジ、イエメン両政府は詳細を発表していないが、ザイド派民兵側によると、サウジ空軍機がイエメン領空に越境し、ミサイルなどを撃ち込んだという。AP通信によると、サウジ軍特殊部隊もすでにイエメン領内に派遣され、サウジ側国境付近の町には避難命令が出されたという。AFP通信はサウジ治安筋の話として、陸軍による地上侵攻もあり得るとの見方を伝えた。
3日夜にイエメン側から越境した同派民兵らの銃撃でサウジの国境警備兵2人が殺害される事件があり、サウジ当局が強硬手段に出た可能性がある。
イエメン北部で04年に始まったイエメン政府軍とザイド派民兵の戦闘は今年8月に拡大し、15万人もの避難民が発生している。ザイド派民兵側は最近、イエメン政府軍との戦闘の末、北部山岳地域を掌握したと発表。サウジ当局は危機感を募らせていた。スンニ派のサウジ、イエメン当局は、ザイド派民兵組織がシーア派大国イランの支援を受けていると批判している。【11月6日 朝日】
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【孤立感と猜疑心】
事の真偽はさだかではありませんが、両方の話に共通するのが、シーア派武装組織(ヒズボラ、ザイド派)に対する、シーア派イランの支援という構図です。
イランは隣国イラクにおけるシーア派組織への武器提供も行っていると言われています。
イラクはイランの隣国であり、戦争を戦った相手でもありますので、そのイラクの混乱に乗じて自国の影響力を高めたいとイランが考えるのは、ある意味自然なことではあります。
ただ、レバノンのヒズボラ、更にはイエメンのザイド派となると(報じられているようにイランが支援しているというのが真実ならの話ですが)、「なぜイランはそんなに各国のシーア派武装組織を支援するのか?」という素朴な疑問を感じます。
イスラムの中では少数派の「シーア派」という宗教的つながりによるものでしょうか。
もちろんそれもあるでしょうが、イランの孤立感、外国への猜疑心が、国外でのシーア派組織支援の背景にあるようにも思えます。
イスラム革命で政権を掌握したイランは、外部の国家(イスラエルや欧米諸国、更にはアラブ・スンニ派諸国)が自国イランに敵対し、隙あらばイスラム革命の成果を否定しようと虎視眈々と狙っている・・・という被害妄想あるいは根拠ある考えに強く囚われているように見えます。
周りはみな敵で、自分たちをつぶそうとしている・・・と身構えており、イランへの“敵国”の侵略を許さないための予防線として、各国でシーア派組織による戦端をひらき、その地域への自国影響力を高めようとしているのでしょうか。
シベリア出兵といった外国からの干渉を受けた革命後のソ連がやはり外国への猜疑心を強め、周辺国での革命支援に精を出したのと似たようなところもあります。
【「米国の表面的な融和姿勢にはだまされない」】
そのイランの核問題をめぐる交渉は正念場を向かえています。
国際原子力機関(IAEA)は、イランの低濃縮ウランを国外で核燃料に加工するとした草案を提起しました。
IAEAの草案では、3.5%の低濃縮ウラン1200キロをロシアに運び、医療用ラジオアイソトープを製造する実験炉の核燃料として利用できる20%にまで濃度を高め、その後、フランスが燃料棒に加工する・・・となっています。
この草案に関しては、当初、アフマディネジャド大統領が歓迎の姿勢を示したと報じられました。
****イラン大統領、米などへの対決姿勢を軟化 核開発計画****
国営テレビの生放送でアフマディネジャド大統領はいつもの強硬姿勢から一転し、「燃料の交換、核協力、発電所と原子炉の建設を歓迎する。われわれは協力する用意がある」と語り、欧米諸国のイラン政策が「対決から協力」に変わったことでイランは協力できるようになったと指摘した。
イラン政府は長い間、ウラン濃縮停止を求める国連安全保障理事会の呼びかけに耳を貸さず、欧米諸国と対立を続けてきた。アフマディネジャド大統領は欧米諸国はこれまでイランにすべてを止めさせようという姿勢をとってきたが、いまは燃料交換、核開発協力、原子力発電所や原子炉の建設について話し合うようになり、「対立から協力」に変わったと述べた。その結果、「核協力の条件は整った」としている【10月30日 AFP】
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しかし、その後、低濃縮ウランの国外搬送を一度に行うのでなく、段階的に輸送することや、テヘランの実験炉向けの核燃料を同時に受け取ることの要求などの、イラン側の草案の根幹にかかわる修正要求が報じられています。
こうしたイラン側の対応からは、アフマディネジャド大統領の“歓迎発言”にもかかわらず、イラン保守層指導者には欧米への不信感が根強く存在し、おいそれとIAEA草案にのれない・・・そうした状況が窺われます。
イランの最高指導者ハメネイ師は3日、1979年11月に起きた在テヘラン米大使館占拠事件から4日で30年になるのを前に演説し、「米国の表面的な融和姿勢にはだまされない」と述べ、米国との関係改善には同国の具体的な行動が必要との考えを改めて表明しています。
一方、クリントン米国務長官は10月31日、イランが低濃縮ウランを国外に移送し加工する構想に難色を示していることについて、「忍耐は最後に限界が来る」と強い不快感を表明。
また、オバマ大統領は「イラン政府が、過去に焦点を合せるか、あるいはより大きな好機と繁栄、そして国民の正義に向かって扉を開くための選択をするかを決定すべき時期に来ている」、「イランは選ばなければならない。われわれは30年にわたってイランの反論を聞いてきた。いまの問題は、彼らが今後どうするかだ」と述べています。
イラン側の欧米不信感と、欧米側の苛立ちがぶつかるなかで、交渉はまとまるのか、決裂するのか・・・。