孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドバイの信用不安 “砂上の楼閣”か、それでも底堅い“産業の多角化”か?

2009-11-28 14:52:22 | 国際情勢

(高さ824.55m 「ブルジュ・ドバイ」 “砂上の楼閣”“バベルの塔”に終わるのか? それとも今後のドバイ繁栄の象徴となるのか? “flickr”より By Joi
http://www.flickr.com/photos/joi/4068036426/)

【ドバイの夢】
世界中から投機マネーを集めて国際的金融センターとして急成長、ヤシの木を模した人工島「パーム・ジュメイラ」や、世界一の超高層ビル(824m)「ブルジュ・ドバイ」に象徴される圧倒的な規模の開発を進めてきた“沸騰都市”ドバイ。
金融危機の影響で昨年末から不動産バブルの崩壊が伝えられていましたが、政府系企業の資金繰りをめぐる危機が表面化し、急成長してきたドバイへの信用懸念が台頭、国際金融市場に波紋が広がっています。

****終わった?“ドバイの夢” 投機マネー流出、砂上の楼閣は…****
世界の投機マネーを吸い上げて現代の摩天楼を築いてきた「ドバイの夢」がとん挫した。昨年秋の金融危機以降、資金流出が続いていたアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国政府系企業による債務支払い猶予要請は中東だけでなく国際市場に衝撃を広げた。石油収入に依存せず壮大なリゾート開発構想で外資と外国人労働者を集めたドバイへの期待は金融バブルの崩壊とともに不信へと転じた。
現地からの報道では、ドバイ首長国政府は25日、UAE内の“長兄”にあたるアブダビ首長国の2銀行から50億ドルの資金を調達したと発表したわずか2時間後、政府系持ち株会社ドバイ・ワールドと関連不動産開発会社ナキールの債務支払いを半年間猶予するよう債権者に求める方針を明らかにした。
債務総額すらはっきりせず、英紙フィナンシャル・タイムズはドバイ・ワールドの債務は220億ドル、英BBC放送はドバイ・ワールドとナキールで計590億ドルと伝えた。ナキールは来月に35億ドルの返済を迫られており、資金繰りがつかず、支払い猶予を要請したとみられている。

コバルトブルーの海面に浮かぶ人工島「パーム・ジュメイラ」。ヤシの木(パーム)を模し、左右に葉が広がる形をした世界最大級の人工リゾートは、東京ドーム120個分の海を埋め立てて造成された。
ドバイ沖合にはこうした豪華な人工島リゾートが次々と築かれ、最盛期にはドバイに世界の大型クレーンの2割が集まったといわれる。その多くを手掛けたナキールはまさに、砂漠に突如として現れた「ドバイの夢」の象徴だった。ドバイ・ワールドも豪華客船クイーン・エリザベス2世号や世界の有名スキー場やゴルフ場を買いあさった。
しかし、金融危機で世界最高層の「ナキール・タワー」(尖塔(せんとう)高1400メートル)の建設工事も今年1月、1年間凍結された。

ドバイの産油量は1日約10万バレル。国内総生産(GDP)の2%相当だ。それも近い将来枯渇するため、ドバイは1980年代から石油に頼らず、欧州、アジア、アフリカの金融・貿易センターと観光都市を目指す戦略を掲げた。世界から5500を超す企業が集まり、国際金融センターの一角に食い込む急成長を遂げた。
その一方で、ドバイの債務総額は約800億ドル、実際は倍の1600億ドルという見方も出ており、金融危機で不動産価格は半減し、投機マネーが流出し資金繰りが急激に悪化していた。
UAE首相も兼ねるムハンマド・ビン・ラシド・マクトム・ドバイ首長は、ドバイ経済近代化を進めた中心人物で、先週末からドバイ経済の中枢を占めてきた側近4人を更迭するなど危機感を強めていた。
突然の債務支払い猶予要請で世界に衝撃を広げた同氏の真意は不明だが、フィナンシャル・タイムズ紙は「基本的な情報も開示されておらず、ドバイ経済は透明性を欠いている」と批判している。【11月28日 産経】
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【石油依存型経済からの脱却】
10年ほど前、ドバイに“連れて行かれた”ことがあります。
トルコに向かう飛行機のエンジントラブルで、急きょドバイで1泊することになり、航空会社手配の観光ツアーで時間をつぶしました。
当時はまだ“沸騰”の始まる前で、現在のような巨大ショッピングモールや摩天楼などはなく、金細工を扱う店が並ぶスーク(市場)、ドバイの歴史を展示した博物館、新しいモスクなどを見学しましたが、暑かったという以外、あまり記憶にありません。
ドバイに関する情報・知識は全く持っていませんでしたので、完成間近の「7つ星」最高級ホテル「ブルジュ・アル・アラブ」の奇抜な姿、砂漠の中に点在する住居などに、“ありあまるオイルマネーで砂漠に無理やりつくった街”・・・そんなイメージを感じました。

しかし、実際は、ドバイの繁栄が“(自国の)ありあまるオイルマネー”によるものではないことは、周知のところです。
“元来の石油埋蔵量の少なさにより石油依存型経済からの脱却を志向せざるを得なかったドバイは、特に1980年代の半ば頃から経済政策として『産業の多角化』を積極的に進め、国をあげて中東における金融と流通、および観光の一大拠点となるべくハード、ソフト双方のインフラストラクチャーの充実に力を入れた。
『ジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)』は、外資の直接投資の自由や外国人労働者の雇用の自由を完全に保障する経済特区で、その性質から外国企業や資本の進出を多大に促進した”【ウィキペディア】

特に,2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロ以降,莫大な投機マネーが流入するようになったと言われています。“それ以前,サウジアラビアなど中東の産油国は石油で稼いだお金を欧米の金融市場などに投資していました。しかし,テロ発生後には欧米社会においてアラブ社会に対する見方が厳しくなり,中東産油国は投資先を近隣のドバイに振り向けたというわけです”【08年12月22日 日経エレクトロニクス】

上記記事は、金融危機にもかかわらず、ドバイの実体経済の底堅さとして、ドバイが西南アジアとアフリカを結ぶ物流のハブとして磐石の地位を築いていること、そして、ドバイの観光地としての人気が世界的に高いことを指摘しています。

物流の面では、経済特区(フリーゾーン)政策によって、西南アジアとアフリカの中間に位置する地理的な好条件から,中東,西南アジア,アフリカ市場でビジネスを展開する企業が世界から集まっています。
また、急拡大するエミレーツ航空の拠点であるドバイ国際空港は、世界有数のハブ空港となっています。
中東,西南アジア,アフリカ、ヨーロッパなどの旅行を考えて検索すると、ドバイ経由のエミレーツ航空が第一候補として挙がってきます。

観光については、“ドバイは夏こそ最高気温が50℃前後に達する過酷な日々が続きますが,冬には最高気温が20℃台で過ごしやすい日が続きます。さらに治安がとても良く,ショッピング・モールやビーチなどリゾートとしてのインフラが充実しています。こうしたことから,英国やロシアなど冬が寒い欧州地域の観光客や近隣諸国の人々に,特に人気があります”【同上】とのことです。
自然や遺跡、下町的な街の賑わいなどに興味がある私としては、ドバイには全く魅力を感じませんが、日本でもドバイツアーの企画などをよく目にします。

【“砂上の楼閣”か賢明な国家戦略か?】
石油に依存しない国造り政策は、国家戦略のない日本などからすると、先見の明にも思えます。
ただ、そうした物流・観光の成果は、金融センターや不動産開発と表裏の関係でもあるとも思えます。
今回の政府系企業による債務支払い猶予要請は、ドバイの国際金融センターとしての立場を危うくし、スローダウンしていた不動産開発はさらに致命的な影響も予想されます。
金融不安やバブル終焉が、石油に依存しない国造りそのものを頓挫させ、“砂上の楼閣”“バベルの塔”に終わるのか、それとも一時的にスローダウンしながらも、しぶとく前進を続けるのか・・・?

コメント
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