孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

嫌米カナダの変化、日本は? アメリカではarmchair patriotsが集団ひきつけ

2009-11-19 21:55:31 | 世相

(9月16日 オバマ大統領と会談するパーパー・カナダ首相 和やかな会談のように見えます。“flickr”より By US Mission Canada
http://www.flickr.com/photos/us_mission_canada/3926370813/)

【治りつつあるカナダの「反米病」】
アメリカという国はとにもかくにも大きな影響力を持つ大国ですから、その周辺国や関係国はアメリカの強い引力に対し、親米という形でなびくか、嫌米・反米という形で反発するか、その色を鮮明にさせることにもなります。
コロンビアのウリベ政権を除いてほとんどすべての国が嫌米・反米を政治的ポーズとする左派政権一色になった中南米諸国も、そうした例でしょう。

一方、北米のカナダは?
普段カナダという国について聞くことは少ないのが実情ですが、経済的にはアメリカと一体ではないかとも想像してしまうカナダにも嫌米的な空気が根強くあるそうです。
しかし、その空気にも最近変化があるとか。

****嫌米カナダがオトナになった?*****
カナダのインテリ層にとって、反米主義は何世代も前から遺伝してきた「持病」のようなものだ。
カナダ人の反米意識は、一部の国にあるようなアメリカへの猛烈な嫌悪感とも、ヨーロッパ人の間に広がるエリート主義的な嘲笑とも違う。呆れ顔で隣人の行為を非難する種類の反米感情で、それはジョージ・W・ブッシュ前大統領の時代に最高潮に達した。
2003年、カナダはイラクへの派兵を求めるアメリカの要請を拒否。カナダのメディアは、ネオコンが率いるアメリカの世界観を辛辣な言葉で非難した。(中略)

ここにきてカナダ人は突然、一気に大人になったようだ。バラク・オバマ大統領の誕生が背景にあるのはもちろんだが、それだけが理由ではない。スティーブン・ハーパー首相がホワイトハウスを訪問する9月16日を前に、カナダは反米主義という慢性病を克服しつつある。
ブッシュ政権時代には、カナダの首相はブッシュと会談するたびにアメリカと「親しすぎる」とメディアに叩かれたものだ。何をもって「親しすぎる」とするのか厳密に定義されたことはなかったが、祖国を愛する指導者ならあらゆる機会を使ってアメリカを怒鳴りつけるべきだ、というのが一般的な感覚だった(攻撃材料は、カナダの道義的な優位性を象徴的に示せるテーマなら、ミサイル防衛からイラク問題、貿易自由化、外交まで何でもありだ)。

しかし、今回の首脳会談は友好的な雰囲気につつまれそうだ。10月に総選挙を控えているにもかかわらず、ハーパーにはアメリカに喧嘩を売るつもりはなさそうだ。
変化の背景として、オバマ人気が一定の役割を果たしているのは間違いない。アメリカではオバマの支持率は低迷気味だが、カナダでは相変わらずロックスター並みの人気を誇る(カナダ人は基本的に国民皆保険が好きだ)。
とはいえ、要因はそれだけではない。親米の保守党に対して愛国主義を掲げていた野党の自由党が、マイケル・イグナティエフを党首に選んだのも変化の後押しとなった。(中略)当然のことながら、イグナティエフの登場によって自由党による反米プロパガンダは影を潜めた。

アメリカ経済の低迷も要因の一つだ。カナダの反米主義を煽ってきたのは、アメリカへの羨望と恐怖心だった。しかしこの1年、経済危機と不動産価格の下落、悪化する一方の雇用情勢に打ちのめされて、アメリカの存在感はすっかり薄くなった。
それに対して、カナダ経済が負った傷は比較的浅い。特に銀行と不動産業界はアメリカと比べて安定性が高い。(中略)
 
もちろん、政策の違いがないわけではない。たとえば、カナダの財界は米政府の景気刺激策に盛り込まれた「アメリカ製品を買おう」という条項に怒り心頭だ。アラスカ沖のボフォート海の漁業権をめぐる論争も勃発している。さらに、カナダ軍が11年までにアフガニスタンから撤退する予定なのに対し、オバマは米軍をさらに増派するかもしれない。
それでも、成熟した民主国家の間にこうした違いがあるのは当然のこと。ハーパーとオバマは冷静さと分別を忘れずに、そうした課題を議論するだろう。
カナダの「反米病」が治りつつある背景には、ワシントンとウォール街の動向が思わぬ形で大きく作用しているようだ。だが、それはカナダ自身が大人になったことの表れでもある。【11月16日 Newsweek】
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【成熟した民主国家の関係】
かなり長い引用になってしまいましたが、記事自体は9月頃に掲載されたもののようです。
この記事が興味深かったのは、カナダの事情のみならず、最近の日本における日米関係に関する論議が思い起こさせられたからです。

日本ではこれまで、極力日米関係に波風をたてない徹底した同盟関係が重視されてきましたが、政権交代以来、鳩山論文の“対等な日米関係”、東アジア共同体構想、そして普天間基地問題などで、波風が立っています。
日米は、政治・経済・軍事を含む包括的な同盟関係にある訳ですから、基地問題のひとつやふたつあってもおかしくないし、そういう問題がないほうが不自然でもあります。

カナダが「反米病」を克服して成熟した民主国家の関係に近づきつつあるとしたら、日本は逆に、徹底した親米路線から“対等な日米関係”を志向する動きにあるようにも見えて興味を感じた次第です。(普天間は何やら迷走していますが)

こうした動きの背景には、やはりオバマ政権の誕生があります。
カナダでもオバマ人気はロックスター並だとのことですが、日本は大統領選挙中から、アメリカ国内以上に大統領選挙への関心が高かったという不思議な国です。

日本に限らず、世界中の国々が総じてアメリカの政権交代、オバマ大統領の誕生を歓迎しました。
何かと喧嘩早く、すぐに銃をぶっ放したがるような前政権に比べて、チェンジを掲げ、対話を重視した、規制の枠組みを超えたような新政権への期待は、アメリカとの間で新しい関係を模索できるのではないかという期待をも生みました。

【「couch potato conservatives(カウチポテトな保守派)」】
しかし、アメリカ国内では、オバマ政権誕生が保守層を刺激したこともあって、医療保険制度問題の論議などをとおして、社会全体ではむしろ保守化の傾向が強まっているようにも見えます。
訪日中の天皇への(いささか芝居がかったような)お辞儀問題は、そうした保守派からの格好の標的になったようです。日本人が連想したのはマッカーサーと昭和天皇の写真でしょうか。

****オバマのお辞儀批判は劣等感の表れ****
日本を訪れた際に天皇にお辞儀したバラク・オバマ大統領をめぐる論争に加わることに、私は少々ためらいを感じている。この行為に激怒している人々は、オバマの言動すべてに不満を募らせており、この一件をそうした感情のはけ口にしているように思えるからだ。逆に、お辞儀に大した意味はないと考える人々は、オバマを熱心に擁護するほどの関心もなく、肩をすぼめて立ち去っていく。

私もお辞儀くらいで大騒ぎするなという意見に賛成なので、これまでこの問題には触れなかった。外国要人の前でお辞儀をしたアメリカ大統領は、オバマが初めてではない。ビル・クリントンも明仁天皇にお辞儀したことがあるし、リチャード・ニクソンはその父の裕仁天皇に、ドワイト・アイゼンハワーはシャルル・ドゴール仏大統領にお辞儀をした。
彼らがお辞儀をしたせいで世界におけるアメリカの立場が劇的に弱まったことなどないし、今回もそんなことにはならない。大統領は礼儀正しさと強大な権力を合わせもてる存在なのだ。
伝統を尊重しなかったり、善意を示すジェスチャーをないがしろにする姿勢を通してしか、権力を誇示できないというのか。親米国の高齢の天皇にお辞儀をしただけで危機にさらされるほど、世界におけるアメリカの地位は危ういのか。私はそうは思わない。

アメリカ外交の方向性について議論するのなら、何の異論もない。外国の指導者に敬意を払いすぎる態度は弱さの告白に等しいという批判もあり、そうした議論には意味がある。だが、必要なのはあくまで具体的な決定や政策をめぐる議論であり、象徴的な役割しかもたない天皇への挨拶の仕方をめぐる議論ではない。
お辞儀をめぐる批判には作為が感じられ、無意味な論争だ。アメリカが実態よりも弱い国という印象を世界に与えるだけだ。【ケイティ・コノリー 11月18日 Newsweek】
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まっとうな意見に思えます。
「armchair patriots(肘掛け椅子に座ったまま机上の空論ばかり言う愛国者)たち」とか「couch potato conservatives(カウチポテトな保守派)」という言葉あるそうです。要するに、何の行動もせずただテレビやパソコンの前にどっかり座ってあーだこーだ文句言っているだけの愛国者気取りの保守派という意味です。
「politicize」(政治問題でないことを政治問題にする)という言葉も。【11月18日 “ニュースな英語”より】
日本を含め、どこの国もこの手相が多いのが困りものです。




コメント
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