(アフガニスタン北東部のヌリスタンで、全長24kmの道路開通式に臨む米軍兵士 こうした民政支援によって地域住民の信頼を得、武装組織を孤立させていくというのが“対反政府武装勢力戦略(COIN)”でしたが、今後はより直接的な戦闘行為に絞っていく戦略変更のようです。“flickr”より By isafmedia http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4025845086/ )
【無人機などのハイテク兵器や、特殊部隊による局地的な戦闘でテロ組織の指導層を壊滅】
オバマ米大統領は22日、アフガニスタン駐留米軍約10万人の3分の1にあたる3万3000人を来年夏までに撤収すると発表、10年に及ぶ「対テロ戦争」の幕引きを目指す姿勢を打ち出しました。
今回決定については、“来年11月の大統領選を控え、巨額の戦費を削って自国の雇用創出や経済立て直しに回す内政重視路線にかじを切った形”【6月23日 毎日】といった見方がなされていることは、これまでも取り上げたところです。
長くホワイトハウス・米軍高官の間で議論されていた撤退規模は、予想された以上の大規模なものとなっていますが、これは単に数の問題だけでなく、アメリカの戦略の変更が背景にあります。
****米の脅威 アルカーイダ限定 対テロ戦略、局地戦に転換****
オバマ米政権は6月29日、米中枢同時テロから9月で10年となるのを前に、新たな「対テロ国家戦略」を発表した。新戦略は、国際テロ組織アルカーイダの掃討に焦点を絞り、無人機での攻撃や特殊部隊を投入した急襲作戦を重視する方針を示した。
ブッシュ前政権はアルカーイダにとどまらず、タリバンやイラクなど世界各地のテロ組織やテロ支援国家を米国の脅威として、対テロ戦争を推進。しかしオバマ政権は、米国の脅威を「アルカーイダ、その関連組織、アルカーイダ信奉者」に限定した。
オバマ政権は新たな国家戦略に基づき、7月からアフガン駐留米軍の撤退を開始、今年末にはイラク駐留米軍の完全撤退を目指す。
新国家戦略では、米国は大規模な地上軍の派兵をできる限り回避し、無人機などのハイテク兵器や、特殊部隊による局地的な戦闘でテロ組織の指導層を壊滅に追い込む作戦を展開。アフガン、パキスタン、イエメン、ソマリアなどを重点地域に位置づけた。
さらに、米本土を狙ったテロの脅威への対応を強化するほか、アルカーイダが試みる米国人テロリストの養成を阻止する必要性にも言及した。
ブレナン大統領補佐官(国土安全保障・テロ対策担当)は29日、ワシントン市内での講演で、「国外に多くの兵士を展開することが、いつでも、最も優れた(相手への)攻撃となるわけではない」と強調した。【7月1日 産経】
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上記記事では、対象をアルカイダの掃討に絞ったことが取り上げられていますが、それだけでなく、変更内容として重要なのは、“対反政府武装勢力戦略(COIN)”から“対テロ戦略(CT)”への戦略変更ではないでしょうか。
そのことが、アフガニスタンからの大規模撤退計画に深くかかわっています。
****アフガン撤退 運命の分岐点****
バラク・オバマ米大統領がアフガニスタン駐留米軍の撤退開始を約束した今年7月を前に、ホワイトハウスではあの厄介な議論が再浮上している。オバマは一体何人撤退させるのか・・・オバマの大統領就任1年目、安全保障問題視当の政府高官らは持てる時間のほとんどすべてをこの議論に費やした。これは単に数の議論にとどまらず、戦争そのものの認識と戦略をめぐるより根本的な争点をはらんでいるからだ。
オバマは就任1年目のご昨年暮れ、アフガニスタン駐留米軍を3万人増派すると発表(当時既に7万人が駐留)、同時に11年7月から撤退を開始すると明言した。目前の今、オバマは撤退規模の決断を迫られている。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、軍上層部は最小限約3000~5000人の撤退を主張している。国防総省と国務省の高官も賛同しているが、大統領顧問の一部やジョー・バイデン副大統領はそれよりも大規模な撤退を求めている。
この論争で議論されてきたのは、数だけではない。オバマ政権発足直後の数カ月にまず検討されたのは、アフガニスタンで対反政府武装勢力戦略(COIN)を重視するか、それとも対テロ戦略(CT)を重視するかということだった。
COINは、反政府武装勢力を倒すのに最も効果的な作戦として、敵を追うことより住民を守ることに重点を置く。まず武装勢力の拠点を治安部隊が制圧する。最終的には基本的な公共サービスを提供し、現地政府への住民の支持を確立する。武装勢力を孤立させることで、彼らを支持していた(少なくとも耐えていた)住民の忠誠心を政府に向けさせるのだ。
これに対し、CTを提唱する人々は、COINは時間もカネもかかり過ぎ、駐留米軍が占領軍になると反論する。それだけの時間をかけて苦労しても、うまくいかないかもしれない。それなら無人航空機と比較的少人数の特殊作戦部隊で反政府武装勢力を殺害し、再び統治権を握らせないようにすればいい。
COIN派の多くは当初から、自分たちの戦略はカネが掛かってリスクも高いと認めていた。しかしCTだけではうまくいかないとも主張した。
住民との信頼関係を築くには大規模な地上部隊が必要だ。信頼関係ができれば、住民が武装勢力の居場所を教える可能性も高くなる。反政府武装勢力との戦争で最も難しいのは、敵を殺すことではなく見つけることだ。ハイテク機器も貢献するが、人間からの情報が欠かせない。
「使命を達成した」のか
オバマが09年末に3万人の増派を決断したのは、COINの遂行という明白な目的のためだ。今回、政府内で大規模な撤退を主張する人々は戦略の変更を求めているのではないと強調している。むしろ最近の進展のおかげで、同じ戦略をはるかに少ない兵力で遂行できるというのだ。
退官するロバート・ゲーツ米国防長官は、現段階の大規模撤退は時期尚早で、この1年の前進が覆されかねないと公言している。アフガニスタン駐留米軍のデービッド・ペトレアス司令官も同じ考えだとみられている。
一方、オバマは大規模な撤退に傾きつつあるようだ。6月7日にはテレビのインタビューで次のように語っている。
「アルカイダを追い詰め、ウサマ・ビンラディンを殺害し、アフガニスタンの多くの地域を安定させてタリバンは支配力を失った……今こそわれわれの使命の大部分を達成したことを認め、アフガニスタンにより多くの責
任を託していく時期だ」
ただし、これは言い逃れでもある。まず、ビンラディン殺害は極めて重大な成果だが、国際テロ組織アルカイダとあまり連携していなかった反政府武装勢力への影響は、今のところない。
アフガニスタンが1年前より安定していることは確かだが、軍高官と情報当局者の大半は米軍が大規模に撤退したら安定はそう長く続かないだろうと語る。そして「使命の大部分を達成した」かどうかは、何を使命と考えるかによる。
米軍の使命が、あくまでもアフガニスタンでアルカイダの地位を衰退させることなら、そもそも3万人の増派は必要なかった。この数年間、アルカイダの兵士はアフガニスタンに数百人しかいない。
あるいはアフガニスタンをテロリストの安息の地にさせないことが使命なら、まだ達成できていない。国を守ることができるアフガニスタン軍と、国民に認められ、信頼できるアフガニスタン政府を残して撤退するという段階には至っていないのだ。(後略)【6月22日号 Newsweek日本版】
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【「責任ある形で戦争を終わらせ、アメリカン・ドリームを再生させよう」】
“大規模な地上軍の派兵をできる限り回避し、無人機などのハイテク兵器や、特殊部隊による局地的な戦闘でテロ組織の指導層を壊滅に追い込む作戦”というのは文字どおり“対テロ戦略(CT)”であり、これまでオバマ大統領がアフガン増派で進めてきた“対反政府武装勢力戦略(COIN)”からの変更です。
“敵を追うことより住民を守ることに重点を置き、最終的には基本的な公共サービスを提供し、現地政府への住民の支持を確立する。武装勢力を孤立させることで、彼らを支持していた住民の忠誠心を政府に向けさせる”という“対反政府武装勢力戦略(COIN)”にあっては、その先に現地の民主的国家の確立というものが描けます。
これに対し、“対テロ戦略(CT)”にあっては、民主的国家が生まれるか否かは関係のない話で、いかに効率的に、犠牲少なく敵を叩くかに焦点が絞られます。極端に言えば、誤爆で民間人犠牲者が出ようが、それによって反米感情が高まろうが関係ない・・・とも言えます。
もとより、アメリカは対アルカイダのためにアフガニスタンに侵攻したのであり、民主国家建設のためでないことは明らかです。ただ、アメリカとしても、自国兵士の流した血の結果、民主的国家が現地に生まれるという構図が好ましいことも間違いありません。
しかし、アフガニスタンの現実はその夢を打ち砕きました。
タリバン勢力の抵抗は息が長く、その一掃は不可能に思えます。
民主的国家の核となるべきカルザイ政権は汚職にまみれ、信頼することができません。
アメリカ・オバマ政権としては、ここに至って、アルカイダ勢力を叩くという必要最小限の目標を極力少ない犠牲で確保し、あとのことはアフガニスタンにまかせよう・・・という戦略変更でしょう。タリバンは対テロ戦争の対象ではなく、和解も結構。結果、タリバンが勢力を拡大しようが関知しない。“後は野となれ山となれ”・・・と言ったら言い過ぎでしょうか。
戦略変更により、これまで以上に無人機攻撃による誤爆・民間人犠牲などもふえることが懸念されます。
「責任ある形で戦争を終わらせ、アメリカン・ドリームを再生させよう」。オバマ米大統領はアフガン撤退戦略を示した22日の演説を、こう締めくくったそうです。
“責任ある形”というのは、どういうものを想定しているのでしょうか?