孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  「アモイ事件」主犯中国送還に見る国内権力闘争の一端

2011-07-24 20:03:05 | 中国

(7月11日 カナダ・バンクーバー 「アモイ事件」(遠華密輸事件)主犯格の頼昌星氏(右) 中国で何を語るのか?何を黙するのか? “flickr”より By elin2010075 http://www.flickr.com/photos/65157513@N02/5937625816/

証言次第では、江沢民氏に近い幹部の今後に影響する可能性
改革・開放が進む中国経済に対し、中国の政治体制は事実上の共産党一党支配のもとで、外部の人間には窺い知れないものがあります。
90年代後半の大規模密輸・汚職事件である“アモイ事件”の主犯格の頼昌星氏がカナダから中国へ送還されるというニュースも、中国国内政治と大きく関わっているようです。

****アモイ事件:密輸・汚職の主犯格、12年ぶり中国送還*****
中国建国以来最大の密輸・汚職事件とされる「アモイ事件」の主犯格で、99年から逃亡先のカナダに滞在していた民間会社「遠華集団」の頼昌星(らい・しょうせい)元社長が23日、12年ぶりに中国に送還された。事件の関係者には現中国指導部の家族が含まれる可能性もあり、送還後本人の口から汚職の真相が語られれば、来年秋に控える党大会の人事にも影響が出そうだ。

中国外務省によると、カナダの裁判所がこのほど、中国への送還を猶予するよう求めてきた頼氏の要求を棄却する判断を示した。馬朝旭報道局長は22日、「裁判所の決定を歓迎する」との談話を発表した。国営新華社通信(英語版)によると、頼氏は23日午後に北京首都国際空港に到着し、中国の公安当局者は頼氏を逮捕したことを明らかにした。

福建省党委書記だった共産党政治局常務委員でナンバー4の賈慶林・人民政治協商会議主席の夫人らが事件に関与したが、江沢民前国家主席がかばったと香港メディアが過去に報道。頼氏は裁判を受けるとみられ、証言次第では、江氏に近い幹部の今後に影響する可能性がある。【7月23日 毎日】
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【「事件は朱鎔基が作り出したもの」頼氏主張
「アモイ事件」(遠華密輸事件)の概要については、以下のとおりです。
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遠華密輸事件(えんかみつゆじけん)は1996年から1999年にかけて、頼昌星を総裁とする遠華電子有限公司という貿易会社が、約800億元の関税を脱税したとされている事件。建国以来最大規模とされているが、これらは全て「公式見解」であり、実態は謎である。

事件捜査の指揮をしていた李紀周・中華人民共和国公安部副部長を筆頭に、劉豊、張宗緒・アモイ市党委副書記、アモイ税関長、アモイ副市長などアモイ市指導部多数が密輸と収賄などで逮捕され、死刑判決などを受けたものの、外相、副総理などを歴任した姫鵬飛の息子で解放軍総参謀部第二部部長だった姫勝徳(少将)は無期懲役となるなど、多分に政治的決着が図られた。

軍と事件との関与が暴露することで、引退していたとはいえ軍内部に影響力を保持していた劉華清や張震(共に中央軍事委員会副主席)の影響力を殺ぎ、軍隊経験が無く甘く見られていた江沢民の軍掌握に利用されたとの指摘もある。

しかし、事件当時福建省党委書記だった賈慶林と、その妻(福建省外国貿易局党書記)で、遠華集団の理事を務めていた林幼芳も関わっていたという疑惑が浮上し、同じく汚職事件で解任された陳希同から北京市党委書記の座を与えられた賈は再選が危ぶまれていた。江沢民の追及が甘くなったのはこのためと言われる。

主犯と目され、事件発覚後家族と共に300億元を持ってカナダに逃亡した頼は、マスメディアを通じて政府、軍高官に賄賂を送っていたことなどは事実ではなく、自分は江沢民、李鵬、朱鎔基らの権力闘争の犠牲者であり、そもそもこの事件は朱鎔基が作り出したものだという主張をしている。

死刑制度を廃止したカナダは、再三にわたる中国の送還要求を人道的理由を盾に拒み続けている。このため江沢民は「死刑にはしない」との人治主義的発言もしている。これは、かつて華国鋒が文革の主犯として逮捕された江青に対して同様の発言をしたように、同事件だけでなく中国の司法が独立していないことを露呈させている。(後略)【ウィキペディア】
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主犯の頼昌星氏は香港に移民後、不動産売買で巨額の資金を得てアモイに戻り、貿易会社「遠華集団公司」を設立。地元政府、税関、公安当局高官、軍人らに高額の賄賂を贈りながら中央政府幹部まで買収し、人民解放軍の艦船に密輸船を保護・先導させて堂々と石油、たばこ、自動車など530億元とも1千億元とも言われる物資を海外から密輸していたとされていますが、上記のように、頼被告は“そもそもこの事件は朱鎔基が作り出したものだ”と国内政治の権力闘争が背景にあることを主張、事件そのものからして謎が多くあります。

当時の江沢民政権は、政権中枢を揺るがしかねない事態を避けるため、政権中枢の関与は執行猶予付き死刑判決を受けた李紀周・元公安次官以外は公表されないまま封印されたとも言われています。

胡錦濤派が頼氏の供述をカードとして使い、上海閥の動きを牽制・・・
今回の中国送還決定は、権力中枢で胡錦濤派と対抗する江沢民率いる上海閥の影響力低下が原因とも指摘されていますが、事件には江沢民前国家主席側近の関与も取りざたされているため、今後の政権中枢人事に影響することが考えられます。なお、江沢民前国家主席については、最近健康悪化から死亡説も流れたばかりです。

****巨額密輸「主犯」 中国送還へ 党幹部と親交、政局に波紋****
1999年からカナダに逃亡中で、中国建国以降最大の密輸・汚職事件の主犯とされる頼昌星氏が月内にも中国に送還される見通しとなった。
共産党政権中央と太いパイプを持っていたとされる元企業経営者の頼氏が裁判の中で、事件当時に複数の共産党指導者と癒着関係があったことを証言することも予想される。頼氏の帰国は、次期指導者人事を決める党大会を来年秋に控える中国の政局に大きな影響を与える可能性がある。(中略)
 
事件の発生当時、福建省トップの党委書記は賈慶林氏。同省ナンバー2の省長は賀国強氏だった。いずれも江沢民国家主席(当時)の側近で、頼氏と親密な関係にあるとされ、密輸を黙認していたとの説もあった。2人はその後、江氏に抜擢(ばってき)され中央入りし、現在は共産党最高指導部の政治局常務委員会でそれぞれナンバー4とナンバー8の指導者にまで出世した。

逃亡から約12年、頼氏の中国送還決定は、政権内で抵抗していた上海閥の影響力低下が原因とも指摘される。問題に詳しい中国筋は「胡錦濤派が頼氏の供述をカードとして使い、党大会人事などで上海閥の動きを牽制(けんせい)することができる」と話している。【7月23日 産経】
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日本でも疑獄事件は多々あり、その真相はわからないものですが、少なくとも政治家につては選挙というフィルターがあります。(ときに“みそぎ”として利用されることもありますが・・・)
また、野党による公の場での追及やメディアの報道もあります。(どこまで真実に迫れているかは別にして)
選挙も野党もメディア報道もない中国では、いよいよ密室のなかで陰湿な権力闘争が繰り広げられているようです。
今回「アモイ事件」顛末など、内幕暴露本でも出ればさぞかし面白いのでしょうが。

なお、中国は12年間にわたり引き渡しを求めてきていましたが、送還されれば死刑の可能性もあると頼氏が申し立て、これまで送還は猶予されていました。
今回、カナダ市民権・移民省(CIC)は送還されれば拷問されるなどの訴えは憶測に過ぎないと結論づけ、また、中国側は拷問・虐待しないことを保証するとの政府外交書簡を提出したそうです。
裁判所をこれを認め、頼被告の送還猶予申請を棄却しましました。【7月23日 Record Chinaより】
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