(南スーダン共和国の首都となるジュバの入り口で来訪者を迎える看板 “flickr”より By James Turitto http://www.flickr.com/photos/jamesturitto/5552850519/ )
【アビエイ地区は非武装化、南コルドファン州については包括協定】
9日に予定されているスーダン南部の分離独立を前に、日本政府も新国家「南スーダン共和国」を承認する方針を決めています。
****南スーダン共和国:政府、9日に正式承認****
政府は5日午前の閣議で、スーダンから分離独立する新国家「南スーダン共和国」を承認する方針を決めた。独立式典が行われる今月9日に正式承認する。日本の承認国は3月のクック諸島に続き194カ国となる。式典には菊田真紀子外務政務官を派遣する予定。【7月5日 毎日】
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ただ、南北境界で帰属未定の産油地帯アビエイ地区や、それに隣接する南コルドファン州では、中央政府軍と南部自治政府を主導するスーダン人民解放運動(SPLM)系民兵との衝突・緊張が続います。
一応、帰属未定のアビエイ地区については、非武装地帯化するとの合意が南北間で成立、平和維持活動(PKO)にあたるエチオピア軍が展開することになっていますが、まだ完了していないようです。
また、北部最大の原油生産地ですが、南部編入を望む黒人系住民も多い南コルドファン州については、包括協定が6月28日に調印されています。
****南北が包括協定に署名、係争地の和平に向け スーダン****
スーダン政府とスーダン人民解放運動(SPLM)は28日、来月9日のスーダン南部の独立を前に激しい戦闘が続いている南北境界の南コルドファン州について、双方の意見の相違を解決するという内容の包括協定に署名した。
署名者の1人であるSPLMのマリク・アガル氏はAFPに、「停戦については(29日に)話し合いが行われる。この協定は対立終焉(しゅうえん)の序曲さ」と話した。協定は、今後は同州と青ナイル地域の政治・安全保障に関する包括協定を目指すと宣言している。
南コルドファン州では、6月5日以来、政府軍とSPLM系民兵組織の間で激しい戦闘が繰り広げられている。【6月29日 AFP】
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【依然続く緊張関係】
しかしながら、衝突は依然として収まっておらず、今後の両国関係の火種として残っています。
****スーダン、高まる緊張…南部独立控え産油地域で衝突****
9日に予定されるスーダン南部の分離独立を前に、南北境界線に接する同国中部の南コルドファン州で、北部の中央政府軍と、南部自治政府を主導するスーダン人民解放運動(SPLM)系民兵との衝突が相次いでいる。
中央政府のバシル大統領は、SPLMとの対決姿勢を強化。すぐに南北の全面衝突につながる可能性は低いとみられるものの、スーダンは緊張をはらみながら南部独立の日を迎えることになりそうだ。
南コルドファンは、2005年まで続いた第2次内戦で激戦地となった州のひとつ。南部の多数派と同じ黒人系住民の中にはSPLM支持者が多く、南部への編入を望む声もあるとされる。だが、同州は北部最大の原油生産地であり、中央政府としては決して手放したくはない地域だ。
同州では5月の知事選で、SPLM系有力者が与党・国民会議党(NCP)系の現職に僅差で敗北、これに反発するSPLM系民兵と中央政府との衝突に発展した。中央政府軍は空爆を含む攻撃を実施し、国連の推計によると、これまでに約7万人が州外などに避難している。
南北は戦闘中止でいったんは合意したものの、バシル氏は今月1日の演説で「反乱者を一掃する」と宣言、現在も散発的に戦闘が起きている可能性がある。
バシル氏が同州で強硬姿勢をみせる背景には、民兵の動きを放置すれば、さらなる「領土分割」につながりかねないとの懸念があるからだ。隣国エジプトのスーダン専門家は「バシル氏はすでに国土の約37%にあたる南部を失う屈辱を味わった。ここで弱腰をみせれば、権力基盤が揺らぐ可能性もある」とみる。
また南北間では、南部独立後の石油収入の配分をめぐる協議が難航しており、南部に強い態度に出ることで協議を有利に進めたいとの思惑もあるとみられる。
南北はこのほか、油田地帯である中部アビエをめぐっても衝突。6月にアビエを非武装地帯化するとの合意が成立したものの、平和維持活動にあたるエチオピア軍の展開は完了しておらず一触即発の状態が続いている。【7月5日 産経】
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北部・バシル政権にとっては“国土の約37%にあたる南部を失う屈辱”ということになりますが、南部スーダンにとっては、北部との良好な関係は必要不可欠です。
確かに南部には油田はありますが、精製施設や輸出港へと続くパイプラインは北部管理下にあります。
バシル政権が南部の分離独立を許容したのも、精製施設やパイプラインをおさえていることで、石油からの収益の相当部分を今後とも確保できるとの判断があったからとも見られています。
【難航する石油収入配分交渉】
当然ながら、南部独立後の石油収入の配分をめぐる協議は難航しています。
このあおりで、南部では北部からの石油供給が減らされ、石油不足の状況に陥っているとのことです。
****南スーダン共和国:石油不足、独立に影****
アフリカ大陸で最大の国土を持つスーダン(首都・ハルツーム)。その南部が9日、ジュバを首都に独立する。アフリカ54番目の新国家の名前は「南スーダン共和国」。ジュバの街で、独立に向けて交錯する人々の期待と不安を追った。
(中略)建設中の新空港ビル。舗装中の幹線道路。インフラ整備でわく街並みに、携帯電話ショップや中華料理屋の真新しい看板が並ぶ。そのにぎわいは、記者が訪れた昨年春とは比べものにならないほどだ。国家の誕生を新たなビジネスチャンスにしようと、内外の投資家が熱い視線を注いでいるという。(中略)
スーダンは1954年、英エジプト共同統治に対して自治政府を樹立。翌55年、第1次南北内戦が始まった。72年に停戦したが、政府は83年、イスラム法による統治を提唱。キリスト教徒の多い南部は猛反発し、第2次南北内戦へと突入した。戦闘による死者は200万人にも達し、20年余りを経た05年、ようやく包括和平合意にこぎつけた。
だがその記念すべき独立を目前に控えた街の盛り上がりは、住民投票で分離独立が決まった今年1月に比べ、いま一つだ。ジュバ中心部には新国家の国旗やポスターがあふれているが、「歓喜一色」という雰囲気ではない。
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人々の心に暗い影を落とす問題がある。ジュバでは今年3月以降、石油不足から発電所の稼働が制限され、電力がほとんど供給されない状態が続いている。
多くの市民は電気なしの生活を強いられ、商店は自家発電機を回して営業。携帯電話の「充電屋」も登場した。フル充電にかかる費用は、約1ドル。ガソリン価格は1リットルあたり5スーダンポンド(約2ドル)にまで高騰している。米国際開発庁(USAID)によると、南部市民の半数以上は1日1ドル以下で暮らす貧困層。電気、ガソリンの不足は、市民生活を直撃している。
スーダンといえば、1日に原油約50万バレルを生産するアフリカ第6位の産油国だ。南部はなぜ、独立を目前に控えたこの重要な時期に、石油不足に悩まされているのか。南部・暫定自治政府の鉱山・エネルギー省幹部は取材に対し、その理由をこう打ち明けた。「北部からの石油供給が激減し、発電施設を稼働させるための十分な燃料を確保できない」。
南北分離後、最大の課題であり「火種」になるとされるのが、この石油問題だ。南部には油田の4分の3が集中するが、精製施設や輸出港へと続くパイプラインは北部にしかないからだ。
05年の和平合意に基づき、南北は石油収入を暫定的に折半してきたが、南部独立に際し、北部のバシル大統領は引き続き「折半」もしくはそれに相当する「パイプライン使用料」を要求。「支払わなければパイプラインを封鎖する」と強気の構えだ。一方、油田の大半を抱える南部は、北部の「取り分」を少しでも減らそうと抵抗し、折り合いはついていない。
北部による今回の石油供給の制限は、パイプラインと精製施設を握る「北部との連携」なしに南部の繁栄はありえない、という北側のメッセージでもある。
◇周辺国支援「将来」のカギ
南北が石油収入をめぐり対立を激化させるのは、それが「命綱」に他ならないからだ。80年代、米企業が南北の境界付近に位置するアビエイ地区で初めて油田を発掘。その後、北部の輸出港ポートスーダンへのパイプラインが完成し、経済の重心は農業生産から石油収入へと移った。現在、原油輸出は政府収入の5割、輸出収入の9割以上を占めている。
北部はその軍事力を駆使し、南部との交渉を優位に運ぼうとしている。今年5月下旬、北部政府軍はアビエイ油田地帯に侵攻し、制圧。南北双方は先月、同地区の非武装化に合意したが、北部は圧倒的な軍事力の優位を見せつけた形だ。
だが一方で、南部の窮状を救おうとケニアなど南部周辺国は最近、多数の給油車をジュバに送り込んでいる。キリスト教徒を主流とするケニアには、同教信者の多い南部スーダンとの絆を深め、イスラム教徒の多い北部をけん制したい思惑がある。ケニアからの給油車は連日、ジュバを中心にガソリンスタンドや大型発電施設を回る。国境を越え、遠路届けられた燃料がいま、独立を待つジュバの街を支えている。
商店を営むチェンゴ・デンさん(35)は電気の供給減により営業時間を短縮、売り上げも落ちたという。だが、思い描く「南部の未来」は明るい。「将来、北部に石油の供給を頼る機会は減るはず。南部の新政府がケニアなど周辺国と良い関係を築けば、問題はきっと解決できる。問題ないよ」【7月5日 毎日】
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これといった産業もない南部が石油収入に頼るのはわかりますが、地下から湧き出る収益を巡る利権争いが国の政治を腐敗させ、混乱のもとになることも多々あります。
新たな国家にとって一番大切なのは、石油収益ではなく、公正な統治システムであり、住民の生活向上を目指した地道な取り組みであることを忘れないように願いたいものです。